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日本でバイク便を最初に始めたアイシーエクスプレス株式会社は、マスメディア向けのオートバイ関連サービスや大型精密医療機器の輸送、音楽イベントの機材輸送など、さまざまな陸輸と空輸を行う企業です。
今回は、常務取締役の佐竹氏と取締役兼ロジスティックマネジメント事業部事業部長の山岸氏にご協力いただいて、株式会社ロジテックの代表取締役である川村がモデレーターとなり、鼎談を実施しました。多岐にわたる事業が生まれた経緯や2024年問題への取り組み、今後の物流業界への想いなど、興味深いお話の内容をご紹介します。(インタビュー内の敬称略)
航空便やマラソン中継、特殊機器輸送などを幅広く手がける
川村:まず、御社の事業概要についてお教えください。
佐竹:当社は、大きく分類すると、ロジスティクスサービス事業とデータプリントサービス事業を行っています。
山岸:私が担当するロジスティクスサービス事業部は、航空便を取り扱うエアトランスポート部と、陸送を行うトランスポート部にわかれています。
エアトランスポート部は、一般の航空便を取り扱うセクションと大手損保会社様のメール室業務全般を行っております。また、大阪・名古屋・福岡に当社の拠点あり東京・名古屋・大阪間は専用のトラック便での配送を行っています。
トランスポート部では、主に3つの事業を行っています。1つは、オートバイに特化したマスメディア向け事業です。たとえば、各テレビ局さんの報道に関わるお仕事では、事件などがあった際に出動したり、プロ野球の各球場に取材素材を取りに行ったりします。
さらに、各新聞社さんや官公街を巡回して最新の素材を各局にお届けしております。また、マラソンや駅伝の中継で、オートバイの後部座席にカメラマンさんを乗せて走るサービスも提供しています。
川村:あの中継も、御社が手がけていらっしゃるんですね。 山岸:そうです。そして2つ目が、主にお客様先に常駐して都内のお客様の各拠点間を車で回る、特定信書便のルート配送です。3つ目が当社で最も売上が高い事業サービスで、エアサス車で大手医療機器メーカー様の大型精密医療機器を全国の各病院に搬入しています。それに加えて、音楽フェスや国内外のアーティストのライブに使う機材も運んでいます。
日本初のバイク便から、多彩な事業へ派生
川村:それぞれ特色が異なる事業を行っていらっしゃるんですね。そのような幅広い事業を展開していらっしゃるのは、最初に蒔いた種から大きく花が咲いていったのか、それとも意図的に狙って事業化していったのか、どちらですか?
山岸:たぶん、両方あると思います。当社は日本初の“オートバイ輸送”から創業して、羽田空港に着いたテレビ局さんの素材の配達を先代の会長が始めました。その後、航空便などさまざまなお手伝いしていくなかで、テレビ局さんの報道やイベントなどに関するご依頼をいただくようになったんです。
佐竹:海外から届いたニュースメディアをテレビ局にバイクで運ぶところから派生して、人気バンドの全国キャラバンなども任せていただきました。そして、長い歴史のなかで、テレビ局や報道各社の間で口コミが広がっていったという感じですね。
川村:最初にバイク便のお仕事を獲得したことで、業界トップに近いところまで持っていくことができたわけですか。それが、御社の大きな強みにつながっているのですね。
山岸:結果的に、そうですね。マラソン中継などはバイクがテレビに映るので、最初はキー局だけでしたが、放映を観た地方のテレビ局さんや制作会社さんから声をかけていただいて、いまでは日本全国のイベントに関わっています。
川村:テレビでマラソン中継のバイクをよく見ますが、そこには御社が大体絡んでいらっしゃると。
山岸:NHKとキー局の中継は、ほぼすべてに関わっています。特殊なバイクや技術を持っている会社はあまりありませんので。
川村:そのようなイベントからのつながりで、アーティストの方の機材輸送などに派生していったのですか?
山岸:それについては、過去に日本の大手イベントプロモーターのお仕事を任されたことが大きいですね。巨大な舞台装置を当社倉庫で一旦お預かりして、そのまま現地に運べる業者さんもあまりありませんから、多くのお客様にリピート依頼をいただいている状態です。
川村:大規模なライブツアーの裏にも、御社が関わっていらっしゃる可能性が高いのですね。
山岸:海外の有名アーティストさんは、関わることが多いですね。また、日本の有名アーティストさんの全国ツアーでも、大型トラック3台でずっと帯同して回ることがあります。1970年くらいに日本の人気バンドの全国キャラバンに携わった頃から、国内外のさまざまな方々の機材を運んできました。
川村:そんなに前から、時代時代を彩るアーティストの方々に関わってこられたとは! 一緒にツアーを回るということは、ある意味、ライブのチームの一員ですよね。
山岸:そうですね、本当にコンサートクルーという感じです。アーティストのラッピングを施した大型トラックも走らせていて、最近はSNSなどにもよく投稿されています。
業界内の“横のつながり”の必要性
川村:私たちは物流に特化した人材派遣を行っていまして、多くの物流会社の方とお話しする機会があります。そのなかで、高い技術をお持ちにもかかわらず、2024年問題も含めて「人手が足りずに仕事を回せない」というお悩みをよく聞きます。
そのようなギャップをなくして、「せっかくの受注チャンスを逃さないために、企業同士のマッチングを行いたい」というのが当社の考えです。パズルをうまくはめていくようなイメージですが、御社の場合は業務の外注や他社さんとパートナーを組むことについてどのようにお考えですか?
佐竹:やはり、外注化が物流業界でも増えつつあると感じています。また、2024年問題前からの人材不足などが原因で会社を畳んでしまったという話もよく耳にします。そのような状況で、2024年問題を契機に、物流業界、特に輸送分野で企業の再編が進むかもしれないと私たちは思っています。
会社を畳んでもお客様自体はなくならないので、運ぶ会社がなくなってしまうと非常に困られるはずです。その部分をどうつないでいくかということが、現在の業界の課題を解決するための主眼だと考えています。
川村:確かに物流会社さんが撤退しても、荷物はそこにまだ存在するわけですよね。
佐竹:そうです。ですから、業務提携やM&Aなどでさまざまな物流会社の“横のつながり”ができて、うまくパズルをはめていける仕組みがあればいいなと思っています。
山岸:コロナ禍でイベントがなくなったときに、イベント関連の輸送に関わっていたひとたちがたくさん転職しました。その結果、「技術やノウハウはあるけれども事業を続けられない」という会社さんも少なくないと思います。そういった方々と協働できれば、たとえば車の台数も増えるので一つの理想かなと考えています。
フェリーへのモーダルシフトで2024年問題に対応
川村:2024年問題に対する準備はできていらっしゃいますか?
山岸:いまも準備をしている最中です。人材を増やすことが一番の改善策だと思っていますが、同時にモーダルシフトも行っています。いままでの一般的な2t車での輸送に加えて、フェリーを使うようになりました。
川村:モーダルシフトはむずかしい部分もあると思いますが、御社の場合はうまく移行できていらっしゃるのですね。
山岸:そうですね。最初は鉄道を考えましたが、当社の事業形態を考えると「車ごと運べて、ドライバーも休息できるフェリーが最適」という結論に至りました。フェリーに乗っている時間を休息時間にして、その間も手当を支払っています。
以前は、「フェリーは遅い」「予約が取れない」「高い」と思っていました。しかし、船会社の組合のセミナーに参加してイメージが変わりました。さまざまな会社のフェリーが出ていますし、時間もコストもそれほどかからないので、最近はフェリーを使うことが増えています。
川村: ANAカーゴさんに先日お話をお伺いしたときに、船便と同じように、航空便の安さを知って私も驚きました。
山岸:空気を運んでいるだけの“中間帯”の部分は、車で運ぶよりも安い価格設定なんですよね。でも、それを知らない方も多いと思います。私も最近、「中間帯をうまく使えばコストを下げられる」とお客様にご案内しています。
川村:私も、船や飛行機、鉄道などの代替手段を講ずることが、2024年問題を乗り越える手段の一つだと思います。
顧客の理解が問題解決のキーポイントに
川村:遠距離の陸送に関して、たとえば「1人がマラソンで走るのではなく、駅伝方式でタスキをつなげばいい」というお話もよくあります。御社では、そのようなことは可能ですか?
山岸:一般の荷物であればできると思いますが、精密医療機器や音響機器などは特殊かつ高額ですから、積み替えはリスクになるのでむずかしいですね。経験豊富なドライバー1人に長距離輸送を任せるしかないのが現状です。
川村:労働時間や荷物の積み替えの問題を解決するには、ドライバーの途中交代しかなさそうですか?
山岸:その部分は、料金や運用の面も含めて、お客様といま話し合っています。たとえば、「リードタイムを少し延ばしてもらう」「休息を多くとれるようにする」などの対応です。積み替えせずに他社のドライバーさんに交代していただく方法もありますが、責任に関する問題も発生しますし、数億円単位の商品を運ぶので躊躇される会社さんもあります。なので、お客様にご理解いただくしかないですね。
川村:さまざまな会社さんに伺うと、「元請けさんの対応が決まらないと、自分たちも動けない」という方もたくさんいらっしゃいます。
山岸:そうですよね。当社の場合、2024年問題に直接関係してるのは、精密医療機器と音楽イベント関連の2事業です。精密医療機器はフェリーで対応できていますし、お客様は大手企業さんが多いので状況を理解してくださっています。
川村:それは心強いですね。
山岸:一方で、音楽業界は昔から「時間に関係なく働くのが普通」という部分もあるので、お客様にご理解いただけるように説明しているところです。
コロナ禍で当社も車や人手が減りましたが、最近はコロナ以前よりもイベントが増えています。たとえば、夏フェスなどは数日でトラック50台分程度を500㎞以上運ぶこともあるので、他社さんの協力が必要です。ただ、当社のようなフェリー上での休息時間などの対応を他社さんに強要はできないので、その課題を解決しなければいけないと考えています。
将来に向けて“付加価値”を生む事業や施策を実施
川村:2024年問題の先に向けた“未来”への御社の取り組みをお教えいただけますか。。
佐竹:まず、2024年のテーマとして「生産性をどう上げるか」を掲げています。ICTやDXだけでなく、アナログ・デジタル両面から一番良い方法を検討中です。
川村:実際にどのようなことを行っていらっしゃるのですか?
佐竹:A地点からB地点にモノを運ぶだけでは付加価値がないと、私たちは思っています。付加価値がなければ、価格だけの過当競争に巻き込まれるかもしれません。そこで、輸送の前後の作業も自社で行おうとしています。梱包から入庫~出荷まで含めて、すべてをBPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)で行う事業に取り組んでいく計画です。
川村:受注機会を増やすための営業方法や強化策などはおありですか?
山岸:当社では、2023年は自社サイトからの新規受注が多い傾向がありました。それ以前も、ランディングページを作成するなど、工夫や投資は行っていたのですが、2023年は特にWeb経由の受注量が増えました。Web広告やSEO対策などもずっと行っていて、「精密機械」や「エアサス」などで検索されてお問い合わせいただくことが多いですね。
佐竹:それらの施策に加えて、当社のこれまでの歴史や事業などを自社サイトに載せたことも、引き合いが増えた理由の一つだと思います。
川村:御社がお持ちのアセットの表現の仕方を一度見直したということですね。やはり、長い歴史や莫大なレガシーがあるからこそできることだと思います。
佐竹:あとは、幅広い事業を行っているからでしょうか。コロナ禍や2024年問題でイベント関係や長距離便には気を配る必要がありますが、それ以外の事業にはそれほど大きな課題がないんですね。当社全体の事業のなかで、課題解決に注力しなければならない点を絞り込めたのもよかったのかもしれません。
物流業界での理想のパートナーシップとは?
川村:先ほど「生産性を上げる」というお話がありましたが、物流業界の今後に向けて当社ができることは“生産量”の向上だと考えています。受注の機会を増やして、物流会社さんが選択肢をたくさん持つ。そのうえで、得意分野での受注増加や生産性向上の方法などをご提案して、業界内で企業同士のパートナーシップを築くのが理想の形だと思っています。
佐竹:本当、その通りですね。話題になった業界大手2社がパートナーシップを組んだのも、同じような理由だと思います。
川村:確かにそうですね。それぞれの得意と苦手をうまく組み合わせていらっしゃいます。
佐竹:それらの“パズルのピース”をどう組み合わせるかということは一番大きな経営課題だと思うので、2社さんは協働することで解決しようとしていると私は理解しています。
川村:物流業界の今後について、御社はどのようにお考えですか?
山岸:先ほど佐竹からも話がありましたが、2024年問題で物流会社の淘汰や再編などが進むと考えています。そして、さまざまな課題を解決するために、たとえば「航空便は高い」といった先入観が業界全体で払拭されていくといいなと思っています。
川村:私自身も航空便などの活用方法を全然知らなかったので、確かにおっしゃられる通りだと思います。
山岸:たとえば、東京から大阪に出張する際に、新幹線と航空機の料金はそんなに変わらないし、航空機のほうが移動時間も短いですよね。ですから、トラックでの陸送を空輸に代替できる可能性も高いと思います。
川村:私も同感で、陸送だけでは限界があるので、航空便などの“余力”をうまく活用することが大切だと考えています。本日は貴重なお話をたくさんお聞かせいただきまして、誠にありがとうございました。
プロフィール
社名 | アイシーエクスプレス株式会社 |
本社所在地 | 東京都大田区昭和島2-4-1 |
設立 | 1960年 |
事業内容 | ロジステックマネージメント事業:航空便/医療機器/トラック・バイク便/特殊輸送と幅広いサポート BPOマネージメント事業:請求書発行/帳票EX/オンデマンド印刷/販促資材Webオーダーシステムと顧客業務のBPOを実現。 |
- 2023年夏に新倉庫(ISLC)が完成、アクセスの良い物流拠点として賃貸を開始。
- 広告塔として女子プロゴルファーのサポートを開始、SNS等で積極的に発信中。