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「関東4,000万人の胃袋を支える」をモットーに、チルド・フローズン食品輸送で知られる南日本運輸倉庫株式会社(以下、南日本運輸倉庫)は、積極的なM&Aにより事業拡大を遂げています。今回は、南日本運輸倉庫株式会社の二代目社長である大園様にお時間を頂き、株式会社ロジテック代表取締役の川村がモデレーターを務め、その先進的な取り組みとその背景について迫りました。
関東に根ざした企業の進化と社長の経営哲学
川村 まず、物流会社としての御社の特徴について教えてください。
大園社長 弊社は創業以来、チルド・フローズン食品輸送に特化し、関東地域を中心に事業を展開してきました。多くの物流会社が全国展開を目指す中、私どもは、「関西方面に進出してみないか」と声を掛けられた事もありますが、関東地域に集中して投資してきました。そこは、弊社の大きな特徴なのかなと思っています。
川村 物流センターの集中化は、効率を高める上で確かに有効です。それでは、50年間も成長し続けることができた秘訣は何だと思いますか。
大園社長 先代から引き継いだ「ハイクオリティなサービスを低コストで提供する」ことを目指して努力してきたことが、お客様からの信頼を獲得してきた理由だと思います。加えて、倹約的な社風が私たちの経営基盤を強化しています。
川村 2014年に二代目社長に就任されてから、会社はさらに成長しています。大園社長独自の取り組みについて教えてください。
大園社長 社員には「売上を増やすことよりも、社内の整備に力を入れよう」と伝えました。創業者が売上を築き上げ、私の役目は会社を現代に合わせて組織変革することです。「織田がつき羽柴がこねし天下餅 座りしままに食うわ徳川」という言葉もありますが、私も徳川家康みたいに安定した組織を目指しています。
川村 まさに二代目としての役割を果たそうとされたのですね。具体的にどのような取り組みをされましたか。 大園社長 就任当初、会社は今よりも硬直的で属人的な組織でした。そこで、エリア制を導入して誰もがお客様に対応できるようにしました。また、社員の意識改革にも力を入れ、例えば名刺に「一番おいしい状態でお届けします」という言葉を記載し、社会貢献の意識を持って働いてもらうようにしました。
人中心の経営で物流業界に革新を
川村 ここまで話を伺っていますと、大園社長の人を重視する姿勢が伝わってきます。社内にキャリアコンサルタントを配置するなど、人事制度に力を入れていると聞きました。物流業界では珍しい取り組みかもしれません。現在、人材に関してどのような課題を抱えていますか。
大園社長 人材は非常に重要な課題です。過去5年間で40名の新入社員を迎えましたが、これらの社員をうまく組織に溶け込ませて成長させ、次世代へバトンタッチすることが私の主要な課題だと認識しています。
川村 人材の育成と定着は、私どもも非常に重要視しているポイントです。物流業界全体が抱えるこの課題に対して、どのように取り組んでいますか。
大園社長 まず、私はコミュニケーションを大切にしております。係長以上の職員とは定期的に面談を行い、全営業所を訪問して直接現場の声を聞く時間を作っています。
川村 社長自らが現場の社員とコミュニケーションを取られている会社は多くありません。そこは素晴らしい取り組みだと感じます。その結果、どういった成果が顕れたのでしょうか?
大園社長 はい、ある営業所を訪れた時に社員が仕事の相談をしてきたことがあります。最初は「何だろう?」と思ってドキッとしましたよ(笑)。でも、社内の問題を解決する一助になりました。これはとても嬉しい経験でした。
川村 社内のコミュニケーションの壁を取り除くことに成功したわけですね。
大園社長 ただし、何でもかんでも社長に言えばいいという雰囲気も良くないと思っています。今後は、そうした問題を解決できる現場のリーダー育成が課題です。組織の発展には、そうしたリーダーが欠かせませんから。
川村 積極的なM&Aも行っていますが、買収した会社の社員にも同じアプローチを取っているのでしょうか。
大園社長 そのようにしています。「南日本運輸倉庫にM&Aされてよかった」と言って頂けた時は非常に嬉しかったです。
DENBA技術で社会課題への取り組み
川村 2023年8月、先進的な鮮度保持技術「DENBA」が使用されたコールドチェーン構築の取り組みが、「2023年度ロジスティクス大賞技術革新奨励賞(主催:JILS)」を受賞しました。この画期的なDENBA技術について、詳しく教えていただけますか。
大園社長 DENBAは電磁波を活用して食品内の水分を活性化させ、食品の鮮度を長持ちさせる技術です。冷凍庫やコンテナに設置することができます。これにより食品の劣化を遅らせ、フードロスの大幅な削減に貢献します。シンプルながらも、食品保存技術において革命的な方法です。弊社は、新たなコールドチェーンのインフラ構築を目的としてDENBAに注目しました。
川村 なるほど、それは興味深いですね。どのようにしてDENBA製品の活用にたどり着いたのでしょうか。
大園社長 もともとは、DENBAを開発した企業の社長との出会いから始まりました。お互いに食品物流に関する共通の理念を持っていて、その話をしているうちに意気投合し、合弁会社を立ち上げることになりました。
川村 今後、DANBAを活用してどのような取り組みを計画されていますか。
大園社長 特に自然災害によるフードロスが課題となっている沖縄県や鹿児島の離島地域での活用を考えています。また、シンガポールの会社との連携を通じて、海外への展開も視野に入れています。先日は、沖縄県のとある市長にお会いして、この取り組みを推進することで合意してきました。空輸を船便に変えることでコスト削減を図れたり、台風などの自然災害によるフードロスの問題を解決できたりすれば、物流の改善を通じて地域経済を支えることができます。これは、私たちが目指す社会貢献の形の一つです。
川村 それは非常に意義深い取り組みですね。物流業界が直面する課題だけでなく、社会全体の課題に対しても貢献していくという姿勢は、まさに業界のリーダーとしての責任感を感じます。
社長直伝のコミュニケーションテクニック
川村 ここまで大園社長のお話を伺っていますと、意気投合して合弁会社を立ち上げたり、相談されるほど社員との関係を築いたりと、コミュニケーションを得意とされているのだと感じます。コミュニケーションで大切にされている事は何でしょうか。
大園社長 私は、常に自分の想いを伝え続けることの重要性を信じています。その結果、人々が繋がりを深め、予期せぬ良い機会が生まれることがあります。DENBAの導入も、このようなコミュニケーションの結果です。
川村 思いを伝え続けても片思いで終わってしまう事もあります。難しいですよね。
大園社長 よく笑い話で言うんですが、若い頃の私は女性へ「付き合ってください」と告白するのが苦手でした。だから、同意を求めるのではなく、好きだという気持ちを何度も相手へ伝えるようにしました。気持ちは相手に伝わる、これが私の成功体験です(笑)。
川村 なるほど(笑)。恋愛経験がビジネスに役立っているのかもしれませんね。
それにしても、本日の話しは目から鱗でした。私は、大阪へ出張するたびに「551蓬莱の肉まん」を楽しみにしています。どうして東京に店舗が無いんだろうと思って調べたら、品質の問題らしいんです。もし、DENBAを用いたチルド輸送により品質の問題が解決されたら、東京でも食べられる日がくるかもしれない、ついそんなことを考えてしまいました。
本日はありがとうございました。