目次
- サステナブルな物流は既に始まっており、法改正や推進運動など、さまざまな分野で取り組みが行われている
- 取り組みとして物流DX、物流標準化、ホワイト物流推進運動などが挙げられる
環境用語として近年頻繁に耳にするようになった「サステナブル」。
いわゆる「持続可能な」という意味を持つこの言葉は、物流業界でも注目されはじめています。その理由として、世界が目指す開発目標「SDGs」への取り組みをはじめ、デジタル技術の導入、労働力減少や効率性の問題などが挙げられます。
この記事では、サステナブルな物流が求められる背景を詳しく解説するとともに、今後の課題や目指すべき将来像などもご紹介します。
なぜサステナブルな物流が求められているのか?
コロナ禍において物流需要が急増する昨今、サステナブルな物流への関心は高まる一方です。
今後、物流現場のワークスタイルも変化していくことも予想されますので、サステナブルな物流が求められる理由について理解しておきましょう。
持続可能な社会の実現を目指すSDGsの取り組みが必要だから
「SDGs(Sustainable Development Goals)」とは、2015年9月に開催された国連サミットで採択された国際目標です。
これは、持続可能な社会を目指す開発目標として、貧困・飢餓問題から環境保全、産業、経済成長、ジェンダーなど幅広い課題が盛り込まれ、2030年までの達成を目標に掲げているものです。
業界・分野を問わず、さまざまな企業がSDGsを意識した経営が求められており、物流業界も例に漏れず、SDGsへの取り組みが加速しています。
加えて、環境・社会・ガバナンスの3つの要素を重視する「ESG投資」が主流になりつつあることも、SDGsへの取り組みが活発化している要因となっています。
※ESG投資:非財務情報のESGの要素を考慮する投資のこと
デジタル技術の導入によって大きな変化が得られるから
内閣府が提唱した「Society5.0」をご存知でしょうか。
これは、IoT(Internet of Things)やAIなどの革新的技術を使ってサイバー(仮想)空間とフィジカル(現実)空間を融合させ、現在の情報社会「Society4.0」の課題克服と経済発展を両立した社会を実現しようという概念です。
これを受けて2018年に経団連が「Society 5.0時代の物流」という提言を発表、デジタル技術によるサプライチェーン全体の効率化・高度化を目標に掲げています。
こうした背景から、IoTやAIをはじめ、ロボットやビッグデータといったデジタル技術を取り入れることで、物流業界に大きな変化がもたらされると期待されています。
労働力や非効率な問題があるから
少子高齢化社会に伴う労働力不足は、大きな社会問題となっています。
物流業界でも人手不足の問題は深刻化しており、近年は輸送や倉庫作業を自動化するなどして解決を図っていますが、今もなお人材不足に悩む企業は増える一方です
また、環境保全の観点から、余剰在庫を抱えるケースや、エリアごとの在庫のばらつき、荷台に空きがある状態での配送など、サプライチェーン上の非効率な問題の存在も無視できません。
サステナビリティに向けて脱炭素化を進めようにも、こうした無理や無駄などがあることで、実現が難しいとされているためです。
このように、労働力の強化や非効率な問題を解決に導くためにも、サステナブルな物流を目指す必要性が高まっているのです。
サステナブルな物流は既に始まっている
サステナブルな物流の実現に向けて、法改正や推進運動など、さまざまな分野で取り組みが始まっています。
ここでは、国・企業(EC事業者)・物流業界が既に行っている、または行うべき取り組みや課題についてご紹介します。
物流の効率化を推進する物流総合効率化法
「物流総合効率化法」とは、労働力不足や小口輸送の増加、輸送による環境負荷などの課題に対応するために施行された法律です。
改正案では、業務の効率化を図る事業計画を提案して認可されると、補助金や減税などの支援を受けることができると定められています。
支援を受けるには、2社以上の企業連携などの条件が伴いますが、国による優遇措置を受けることができたり、物流の効率化・少人化により企業負担が軽減されるなどのメリットがあります。
H3:国土交通省が掲げるホワイト物流推進運動
「ホワイト物流推進運動」とは、物流業界の労働力不足の深刻化に伴い、人々の生活や産業活動に必要な安定的な物流システムの確保と経済成長を実現するために国土交通省が掲げている運動です。
具体的には、トラック輸送の生産性アップ・物流の効率化をはじめ、女性や60代以上の高齢者も働きやすいホワイトな労働環境を目指す取り組みが行われています。
日本の物流業界を支えるトラック運転手は、長距離輸送も多く、長時間労働が常態化しているケースも少なくありません。
労働力の減少はもとより、そうした労働環境の実態が人材不足の要因と考えられるため、「ホワイトな現場」を目標に掲げ、企業と物流業界に活動への参加と協力を呼びかけています。
宅配ボックスや置き配サービスの普及で再配達を防止
物流業界の需要が急速に拡大する一方で、宅配便の再配達による物流の労働生産性の低下や余分なコストの発生、CO2排出による地球環境への負荷など、社会的損失の増加が問題となっています。
こうした状況を改善するために、宅配ボックスの設置や置き配サービスなど、再配達削減への取り組みが始まっています。
その他にも、時間指定やメール・アプリの活用、コンビニ受け取り、駅の宅配ロッカーなど、多様な受け取り方法が登場しています。
動態管理システムの導入
配送車や担当者の状態をリアルタイムで把握できる管理システムを「動態管理システム」と言います。
かつて高価で大掛かりな専用端末を利用していましたが、近年はクラウド化が進み、パソコンやスマホを使って管理できるサービスも登場し、安く手軽に導入できるようになっています。
このシステムを利用すると、位置情報を素早く確認できるため、作業の効率化や無駄の排除を行うことで、コスト削減や労働力の生産性向上にも繋がります。
2040年までに脱炭素化の海上輸送
米EC最大手のアマゾンやスウェーデンのイケアなど、世界的な大手荷主9社が、2040年までに海上輸送の脱炭素化という目標を発表し、高い注目を集めています。
具体的には、現在のCO2を排出する燃料ではなく、CO2排出量ゼロの水素など、脱炭素化に貢献するエネルギーを使用する船だけを商品の搬送に利用するというものです。
SDGsへの意識が高まる中、物流業界でもサプライチェーンにおける脱炭素化への取り組みが必須となっています。
サステナブルな物流をするために目指すべき将来像
政府が策定する「総合物流施策大網」では、物流業界のビジネスモデルを革新させるための取り組みについてまとめています。
サステナブルな物流のために目指すべき将来像が描かれていますので、その取り組みについてご紹介します。
※総合物流施策大網:日本政府が国の産業競争力の強化や国民の生活を持続的に支えることを目的にしており、状況に合わせた物流に関する総合的な取り組みを取りまとめたもの
物流DXや物流標準化を推進して簡素で滑らかな物流にする
物流業界にて重要性が高まっている戦略の1つが「物流DXや物流標準化の推進」です。
DXはデジタルトランスフォーメーション(Digital Transformation)を略した言葉で、「物流DX」とは、デジタル技術で効率化を図り、物流サービスの生産性向上に繋げようという取り組みです。
例えば、配送手続きの電子化の徹底や、生産性向上のためのサイバーポート(港湾管理分野)の推進、データ基盤の整備などが挙げられます。
さらに、倉庫業務の機械化や自動運転の実現など、労働力不足や非接触型物流に対応するためのデジタル化なども進められています。
一方「物流標準化」は、モノ・データ・業務工程など、ソフト・ハード両面を標準化し、荷主と物流業界の連携をスムーズに行う環境整備を推進するものです。
どちらもサステナブルな物流のための施策であり、物流業界のサプライチェーン全体の最適化を徹底することで、簡素で滑らかな物流を目指します。
物流そのものの構造を改革と労働環境の整備をする
物流業界における労働力の確保と生産性向上には、抜本的な物流構造の見直しと労働環境の整備が不可欠です。
そこで注目を集めているのが、共同輸配送の展開や倉庫シェアリングといった物流業界における革新的な取り組みです。
具体的には、マッチングプラットフォームやデータ共有システムなどを活用することで、過去の常識に囚われない、サステナブルな物流の構築を目指します。
また、働き方改革関連法を受け、2024年度よりトラック運転手の時間外労働の上限が規制されることから、常習化する長時間労働の改善が急務とされています。
労働環境の厳しさを改善するには、トラック運転手の平均労働時間を標準まで引き下げる一方、年間所得学平均を標準まで引き上げることも必要です。
その他、ダブル連結トラックによる輸送の効率化や、予約受け付けシステムによる荷待ち時間の削減、ドローン物流の実社会での活用など、持続可能性を高める対策案として推進しています。
※共同輸配送:複数の物流企業や事業所が連携することで、複数企業の商品を同じトラックやコンテナに積みこんで郵送する手段のこと
※倉庫シェアリング:倉庫と荷主をマッチングするシェアリングサービスのこと
災害時でも活躍する物流ネットワークを確保する
災害時には、「物資が届かない」「荷降ろしのスペースがない」「仕分けに時間がかかる」といった混乱が生じやすく、災害時の物流管理の重要性が再認識されています。
大規模地震や集中豪雨、新型コロナウイルス感染症などの災害リスクに備えるためには、災害時でも活躍する、強くてしなやかな物流ネットワークの確保が必要です。
その取り組みの一環として、港湾では「ヒトを支援するAIターミナルの実現」を推進し、AIなどを活用した業務の最適化、遠隔操作RTGの導入、搬出入処理能力の向上など、港湾の耐災害性の強化を働きかけています。
また、JR貨物は次世代貨物駅構想「スマート貨物ターミナル」を提唱し、新技術を取り入れて集中管理を行うことで、作業の効率化・省力化に繋げたいとしています。
他にも、自動運転や隊列走行の実用化を視野に入れた道路整備計画など、それぞれの輸送モードにおけるサステナブルな物流の構築を図る動きが活発化しています。
※遠隔操作RTG:管理棟等から遠隔操作できるタイヤ式門型クレーンのこと
まとめ
持続可能な社会、SDGsの取り組みが世界規模で行われている昨今、サステナブルな物流の構築は必須です。
物流業界が抱える需要増加、労働力問題などの解消にも繋がる上に、導入しやすいシステムやサービスも登場しています。
また、サステナブルな物流を目指す上で、物流ニーズのマッチングは欠かせません。
M&Aや物流マッチングなどを活用することで自社だけではできなかった取り組みも実現可能になります。
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