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左から『ロジビズ・オンライン』の編集長・藤原氏、弊社の川村
物流業界の専門誌として、物流関係者に幅広く読まれている『月刊ロジスティクス・ビジネス(以下、ロジビズ)』(株式会社ライノス・パブリケーションズ発行)。2001年の創刊からほぼ四半世紀にわたって業界の動向を見つめ、ロジスティクス分野を中心に独自のビジネス情報を発信しています。
今回は、『ロジビズ』のWebニュースメディア版『ロジビズ・オンライン(LOGI-BIZ online)』の編集長を務める藤原秀行氏をお招きして、メディアの視点から見た物流業界の現状や今後についてお話をお伺いしました。(聞き手:株式会社ロジテック代表取締役 川村)
荷主企業向けに、より役立つ情報や具体的な提案を発信

川村 『ロジビズ』と言えば、物流業界で非常に有名な業界誌ですが、藤原さんはどのような経緯で関わることになられたのですか?
藤原 以前は、16年ほど、一般的なメディアで経済をメインに担当していました。2011年に当社に転職して、『ロジビズ』の編集を経て、2019年に創刊された『ロジビズ・オンライン』の編集長をしています。
川村 私が物流業界に初めて関わらせていただいた約15年前、いろいろな物流会社さんに『ロジビズ』が置かれていたことがすごく印象に残っています。どうして、御誌はそれほどまでに認知度が高まったのですか?
藤原 2001年の創刊時に、当社の創業者で代表の大矢昌浩が「荷主企業向けの情報を積極的に発信する」という基軸を打ち出したことが大きいと思います。
たとえば「倉庫内のオペレーションを、いかに改善していくか」といった具体的な内容にまで踏み込んで紹介・提案していたのですが、それまではそういった情報を発信しているメディアが一般的ではなかったようで、ご評価いただけたのだと考えています。
川村 なるほど。すでに起きた出来事を載せるだけでなく、今後起こりうる課題に関する情報にも触れることで差別化ができたのですね。
藤原 そうかもしれません。「それまであまり取り上げられなかった部分にフォーカスして、よりお役立ていただけるような情報を提供しよう」という方針は、大矢のこだわりでもあったので、そこが受け入れていただけたのはありがたいですね。
物流関連2法の改正は、問題なく浸透していくのか?

川村 メディアとして客観性を重視して物流業界を俯瞰していらっしゃる立ち位置から、業界の現状についてお話をお聞かせください。
まず、今回の物流関連2法の改正について、さまざまな会社さんから私たちにお問い合わせいただきまして、一番多いのが「何が義務で、何が努力義務か?」というご質問です。
これが現場のリアルな声だと思っていまして、「できるだけ努力すればいいんだよね」とご判断されて、努力義務から義務に変わる経過措置の期間中に他社の動きを見る会社さんは多いと感じています。藤原さんは、この法改正についてどのように感じていらっしゃいますか?
藤原 私も、いまのお話がリアルな現状だと思います。ほかには、「義務化されているけど、罰則がないから大丈夫だろう」という声もよく聞きますね。
川村 CLO(物流統括管理者)の設置などについて、どうしても物流部門・分野の対応が後回しになりがちな会社さんでは導入が遅れるかもしれませんよね。改正内容の導入はきちんと進んでいくのでしょうか。
藤原 「やらなければいけない」ということは皆さんわかっていらっしゃるのですが、果たして今回の改正法の枠組みでいいのかどうか、正直、私は判断できない部分があります。
政府として本当に導入を進めたいのであれば、たとえば厳罰化するほうがいいのかもしれませんが、それでは現実問題として現場が回らなくなるんじゃないかと思いますし。その辺りは、国交省の方もかなり悩んでいらっしゃったみたいですね。
川村 今回の法改正もそうですが、さまざまな変化や進化、発展を遂げている物流業界だからこそ、新しいカタカナ用語などもたくさんあって、むずかしいなと個人的に思うことがよくあります。
それで、お客さまに意味を尋ねるのですが、「実は自分もわからない」とおっしゃることも多いんですね。実際問題として、そういった言葉は、業界内で理解や浸透が進んでいるのでしょうか。
藤原 おっしゃる通り、言葉が先走っている部分はあるかもしれません。でも、新しい言葉がどんどん出てくるということは、それだけ皆さんの「課題を解決しよう」という熱意の表れなのかもしれないとも思っています。
時代に合わせて「変われるか・変われないか」は、経営者次第

川村 フィジカルインターネット(共同物流・共同配送)などの業界の流れについて、「たしかに、やらなきゃいけない。でも、うちではできない」という会社さんも多いと思います。特に業務を下請けしていらっしゃる会社さんでよくお聞きするのが「荷主さん次第」という声です。
荷主さん向けの情報を多く取り扱っていらっしゃる藤原さんから見て、荷主さんの意識の変化などは感じられますか?
藤原 「荷主自身も考えなければいけない」という意識は、昔に比べれば広がってきていると思います。しかし、「先進的に取り組まれている会社さんと、そうでない会社さんの差が大きくなってきているな」というのが、いま一番感じていることです。
川村 二極化がどんどん激しくなっているのですね。
藤原 そうです。その“取り組まない”会社さんがあるから、今回の法改正にもつながったのだろうと思います。
でも、先進的に取り組んでいらっしゃる会社さんで「トラックを安定確保できている」といったメリットが見え始めているので、いままで動いていなかった荷主さんの意識もようやく変わってきていると感じています。
川村 各社さんの事情はあると思いますが、「動く・動かない」という差が生じる原因は何なのでしょうか。
藤原 一にも二にも、経営者さん次第だと思います。「経営者の方と幹部の方がどう考えているか」という点は、かなり大きい要因ですね。
川村 なるほど。「物流=コスト部門」といった捉えられ方をされている経営者の方ですと、たとえばCLOの導入などにも時間がかかりそうでしょうか。
藤原 そう思います。「CLOって何?」という経営者の方もいらっしゃると思いますが、現状としては設置が義務化される前に、すでにCLOを任命されて動き出している会社もあるわけですから、やはりトップに立つ方の意思が大きく影響するんだなと感じています。
そういったことに積極的に取り組む経営層の方は、社内の関係部署や同業他社さんなど社外の方々とのコミュニケーションも良好で、社内勉強会なども行っていらっしゃいますね。
運送の人材不足を解決する“人間と自動化の共存”と“未経験層の活用”

川村 日本社会全体で労働力不足が深刻な問題になっていますが、特に物流業界では大きな課題だと思います。今後、物流業界の人材問題はどうなっていくのでしょうか?
藤原 人手不足になっても、ドライバーがまったくいなくなるということはありえないと思っています。
その一方で、長距離配送、少なくとも高速道路を使う部分などは、自動運転になっていかざるをえないと考えています。いま、実証実験も盛んに行なわれていますし、今後は活用するしかないというのが個人的な考えです。
ラストワンマイルなど、積み下ろしがある部分まですぐに自動化するのはむずかしいと思いますが、たとえば“東京〜名古屋間”といった長距離の高速道路を使った配送は、着実に自動化が進んでいくのではないでしょうか。
ただ、長距離ドライバーさんは業界や企業にとって貴重な人材ですが、業務負荷が大きいことなどから新しく人材を採用するのはむずかしいのが実情です。当分の間はドライバーさんと自動運転が共存する形になるのではないかと考えています。
川村 ドライバー不足や労働時間の削減に加えて、ドライバーさんが荷役作業を行うなどの“過剰サービス”も問題になっていますが、そのような現状についてどのようにお考えですか?
藤原 「“ドライバーが増えない”という実情を前提に、すべての対応を考えなければいけない」と考えています。たとえば、過剰サービスについては、「ドライバーの業務範囲を明確にして、それ以外は付帯作業として取り扱う」といった対応が必要になるでしょう。
「荷主さんに切られるのが怖いから、なかなか変えられない」という気持ちはとてもよくわかりますが、「ドライバーに負荷がかかりすぎて、もう対応するのは無理」と改善に踏み切っている会社さんも増えてきました。
今後は、そういった対応をさらに真剣に検討しなければならない状況になっていくと思います。
川村 業界全体で「労働力を過剰に供給できた時代ではなくなっている」と認識する必要があるということですね。
付帯業務がなくなるだけで労働時間を削れる一方で、法改正の結果、長時間働きたいひとが長い時間働けなくなってしまうので、物流業界から労働力が流出するかもしれませんね。
藤原 そうですね。働く時間だけが制限されて、給料は上がらない状況なら、ほかの業界に行きますよね。ですから、たとえば「自動化でコストを抑えた分、ドライバーに還元する」といった切り口で対応を考えることが必要だと思います。
川村 ドライバー不足を解決するために私たちが行っているのが、「未経験者など、ポテンシャル層を上手に活用する」というアプローチです。さらに、グループ会社で行っている海外事業を通じて、外国人材の積極活用も考えています。外国人材について、各社さんはどのような対応を行っていらっしゃいますか?
藤原 多くの経営層の方は、今後の人材確保の選択肢に入れていると思います。大手さんをはじめ、活用するために動き出している会社さんもあります。しかし、日本人・外国人を問わず人材採用自体のノウハウを持っていない会社さんも多いので、国や業界全体で企業の採用活動支援などを行う必要があるでしょうね。
川村 その通りですね。未経験の方を採用・活用するときに、“人材採用の仕方をわかっている”会社さんと“人材を育成しようと考えている”会社さんは、良い人材の採用や定着に成功していらっしゃいます。ですから、この2つのいずれかの要素は持っているほうがいいと思います。
また、未経験の方を採用して育てられれば、その分、人材の選択肢が増えますし、自社にとって“ダイヤの原石”がいる可能性もあるので積極的に活用したほうがいいと考えています。
藤原 そういう会社さんが増えていくといいですよね。
いま注目している技術は、ドローンと空飛ぶクルマ

川村 『ロジビズ・オンライン』の記事でさまざまな会社さんを取材していらっしゃいますが、藤原さんが最近注目している技術や企業はありますか?
藤原 個人的に、“ドローン”と“空飛ぶクルマ”に注目しています。この2つは、今後、間違いなく物流を担うようになるのではないでしょうか。
現状ではドローンで重たいものは運べませんので、人口が減少し配達のネットワークを維持するのがむずかしくなっている中山間地域や離島などに、薬など軽量なものを届けるところから進めていくことになるのだろうと思っています。
川村 ほかに代替手段がないエリアからスタートするわけですね。
藤原 はい。すでにドローン物流を行っているエアロネクストというスタートアップさんは、配達がむずかしい地方の自治体向けに新聞や高齢者向け弁当などを届ける事業を行っていらっしゃいます。すでに10以上の自治体が導入されていて、いずれは過疎化に悩むすべての自治体で導入してもらうことを目指しているそうです。
重たいものは運べないかもしれませんが、地方の物流機能を維持するうえで、その地域の住民の方々にとってなくてはならない物流手段になるはずだと私は思っています。
そして、空飛ぶクルマは、物流施設間の荷物輸送などに使われるようになると考えています。
物流業界は、さまざまな課題があるからこそ、他業界に先んじられる

川村 物流業界の今後の可能性について、どのように見ていらっしゃいますか?
藤原 急速な少子高齢化など、日本は“課題先進国”だとよく言われますが、それは物流業界にも当てはまると思います。そして、逆に言えば、「課題は多いけれども、だからこそ、ほかの産業に先駆けて課題解決ができる」はずです。
たとえば、人間と自動化・ロボットがうまく共存できる環境などもつくりやすい業界なので、そういった取り組みを先んじて行っていけば、物流業界はより良いものになると考えています。
川村 おっしゃる通りですね。自動運転も含めた安全・安心などへの対応を、法律や規制の影響もあって着手せざるを得ない状況で、物流業界はいい意味で“目をつけられている”と思います。ですから、他業界に先駆けた変化を生み出しやすいですよね。
藤原 そうですね。物流業界ならば、できると思います。
川村 そして、そういったことができるようになれば、当社がやりたいことの1つである“物流業界のプレゼンス(存在感)の向上”も実現できると考えています。
私たちは「物流は、電気・ガス・水道の次に不可欠なインフラ」と思っていますので、そういう立ち位置に持っていければ、世の中からの業界の見られ方も変わって、人材不足などもクリアできていくのではないかとポジティブに捉えています。
藤原 ほかにも物流業界のポジティブな話題として、いま、スタートアップ企業さんがたくさん参入してきています。その理由は、「さまざまな“改善できる余地”があって、それらの課題を解決することで社会貢献できるし、自分たちの収益にもつなげられる可能性がある」と考えていらっしゃるからだと思います。
そもそも、物流は陸送・海送・空送や倉庫など範囲が広いので、「自分たちが変えてやろう」という想いをお持ちの方が活躍できる素地もありますので。
川村 そうですね。私たちは倉庫と荷主さんのマッチングプラットフォーム『ロジパレ』を通じて物流の現場に人材を供給するビジネスを行っていますが、同じようなアプローチでマッチングした現場にマテハンを提供しているGaussy株式会社さんもいらっしゃいます。
ときにはお互いにライバルになったり、ときには共闘したりできる可能性が広がっているので、そういうところから業界にイノベーションが生まれるといいなと考えています。
藤原 なるほど、面白いですね。実際に新しいビジネスを旗揚げされて、収益を上げているスタートアップ企業さんもありますし。
川村 真剣に課題解決に取り組まれるスタートアッパーさんなどが増えていけば、この業界の未来はさらに明るくなると思います。
藤原 御社は、今後もスタートアップ企業さんや異業種の企業さんと積極的に協働していかれるのですか?
川村 はい。当社と他社さんの組み合わせもそうですし、私たちのパートナー企業さん同士の掛け合わせなどでも新しいビジネスやサービスが生まれると思いますので、積極的に行っていく予定です。
物流業界内の企業同士ももちろんそうですが、異業種交流の機会もどんどん増やして新しいパートナーシップをうまくつくっていけば、業界の流れも変わると考えています。
藤原 そうですね。私たちもメディアとして“物流業界が目指す理想”は追いつつも、きちんと地に足がついた改善の提案などを行っていきたいと考えています。そして、これからも皆さんのお役に立てる情報をどんどん充実させていこうと思います。
企業プロフィール
株式会社ライノス・パブリケーションズ
本社所在地:東京都港区赤坂4-9-19 赤坂TOタマビル6F
設立:1999年