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倉庫では、日々多くの貨物の保管や入出庫作業が行われています。従来は多くの人手を利用した作業が中心でしたが、近年では多くの業界で人手不足が深刻化しており、物流業界も例外ではありません。さらに、EC貨物の拡大により、取扱製品が多様化しているため、倉庫でのオペレーションはますます複雑化してきています。
そのような背景から、倉庫業務をより効率的に行うための手段として注目されているのが、AS/RS(Automated Storage Retrieval System)です。AS/RSとは、直訳すると「自動化された保管・検索システム」という意味で、日本では「自動倉庫」と呼ばれているものです。
本記事では、AS/RSとは何かという基本的な内容から、導入のメリットと注意点、コスト面、実際の活用事例まで詳しく解説します。
AS/RSとは?

AS/RSとは、デジタル技術を活用して、倉庫内での貨物の保管と取り出しの作業をすべて自動化するシステムです。
具体的には、立体的なラックを備え、上下および前後に動くスタッカークレーンや、シャトル台車を利用して貨物の効率的な入出庫を行います。その結果、入庫から出庫までの一連の流れがすべて自動化され、人手による作業の大幅な削減を実現します。また、さらなる自動化を行うために、倉庫内の貨物の輸送を「AGV」という自動搬送車との連携をするケースもあります。
そして、人の手が届きにくいような高所を有効活用できるのも、大きな特徴の1つです。人手による高所での保管を行うと、作業の安全面の確保や熟練した技術が必要など、様々な課題が発生します。しかし、AS/RSを導入することで、高所での保管作業も自動化され、安全性の向上と作業効率の改善の実現が図れます。また、今まで活用が難しかったスペースなど、倉庫全体の空間を最大限に活用することにもつながるでしょう。
さらに、倉庫にある貨物情報をリアルタイムで把握するために、WMSと呼ばれる倉庫管理システムとAS/RSとの連動が必要です。また、WNSとの連携により、人が操作しなくても貨物の動きとシステムの在庫情報を連動させたり、在庫内容や入出庫頻度に応じて、貨物の保管場所を自動的に判断する機能を備えることも可能です。
AS/RSの主な種類と適応貨物の特徴

AS/RSと一口にいっても、その種類は様々です。保管する貨物の大きさや量、取り扱う商品の種類、運用方法によって適する自動倉庫の形態が異なります。ここでは代表的な7種類のAS/RSと、それぞれの倉庫に適応する貨物の特徴について解説します。
1.ユニットロード型
パレット単位で貨物を保管するタイプのAS/RSです。パレットに保管されている貨物であれば、幅広い種類の貨物の保管が可能です。比較的大型で重量のある貨物に対応しており、耐久性の高い構造が特徴です。
2.シャトル型
棚の内部に設置されたレール上を、シャトル(自動搬送車)が移動し、荷物の出し入れを行います。上下方向の搬送はリフターが行い、シャトルと連携した作業を行います。大小さまざまな貨物の保管が可能で、EC商品などの品目が多い業種で活用されています。
3. ケース・ボックス型
比較的小さくて軽いアイテムに特化した種類です。垂直・水平方向に移動するスタッカークレーンが棚の間を移動し、指定されたケースを自動で出し入れします。最近では、シャトルが移動して荷物をピッキングするパターンも登場しています。
4 モバイルラック型
棚全体が床の上を水平に自走して移動する自動倉庫です。複数の棚が密接に並べられ、必要な棚を動かして取り出します。出荷のたびに棚が移動するため、他のAS/RSと比べて処理速度が遅い傾向にあります。書類や医薬品などの保管に使用され、密閉性が高く出し入れの頻度が少ない貨物に適しています。
5.バーチカルリフト型
棚を上下に移動させる、エレベーターのような構造の自動倉庫です。ボタンを押すと指定の棚が自動で取り出し口まで搬送されます。在庫が密閉された機械内に保存されるので、精密機器や医薬品・医療器具など、温度や清潔感の管理が必要な製品に適しています。
6.カルーセル型
円形や楕円形のレールの上に棚が連結して配置されています。そのレールに沿って棚が回転し、必要な棚が作業者の前まで自動で搬送されるため、ピッキング作業の効率化につながります。アパレル小物、電子部品などの取り出し頻度が高く、軽量の貨物の保管に適しています。
7. AGV連携型
AS/RSと、AGVを連携させた完全自動型で最先端のタイプの倉庫です。AGVが作業指示を受け取り、指定された棚に移動し、貨物を搬送します。AGVは運搬するだけのタイプもあれば、荷物の積み下ろしも行えるフォークリフト型も存在し、完全無人化に近い倉庫運用ができます。
AS/RSを導入するメリットとは?

ここまで、AS/RSの解説と、AS/RSの種類について紹介してきました。では、実際にAS/RSを導入することでどのようなメリットが考えられるでしょうか。ここでは代表的な7つの導入メリットについて解説します。
1.スペースの有効活用
AS/RSを導入することで、倉庫のスペースを有効に活用することが可能です。特に、人手の作業が難しい天井付近の高所部分を活用することで、倉庫の保管能力が大幅に向上します。
また、繁忙期などで一時的に貨物が増加しても、追加のスペースを新たに探したり作ったりする必要はなく、既存の施設内だけでの対応が実現できるでしょう。さらに、AS/RSを導入して生まれたスペースを利用し、新たな貨物の受け入れや営業活動に活用することで、収益拡大につながることも期待されます。
2. 統一された貨物管理
WMSとAS/RSを連携させることで、貨物の保管場所や在庫状況をリアルタイムで一元管理を行うことが可能です。
「ある貨物がどこにあるのか」を調べたいときに、保管場所はもちろんのこと、「いつ入庫したか」「どのくらい保管されているか」などの付帯情報もわかります。また、倉庫の関係者であれば、誰が見ても同じ情報を共有できるため、現場での認識の違いがなくなり、スムーズな運営につながります。
3.倉庫内作業の効率化
AS/RSを導入することにより、人の手で行われていた作業の自動化が実現します。
これまでは貨物を搬出する際に、作業員が保管場所まで行き、ピッキングして搬送していたケースが多く見られました。しかし、AS/RSがピッキングを行うことで、作業員は搬送のみの作業で済むなど、作業工程が減少します。
人による作業工程の減少により、倉庫作業がよりスムーズに進み、効率の良い運営が実現できます。
4.トラックの待機時間の減少
貨物を倉庫から搬出する際の課題の一つとして、前のトラックの搬出作業が遅れて、長時間待機するケースが多く発生していたかと思います。AS/RSを導入することで自動化される作業が増え、出庫作業も効率化され、トラックの待機時間が大幅に短縮されます。
ドライバーの人手不足も深刻化しており、倉庫作業と同じく配送の効率化も求められています。倉庫の作業時間の短縮が、ドライバーの運送現場全体の効率化にも貢献するはずです。
5.作業精度の向上
AS/RSを取り入れることで、倉庫内での作業精度が向上する効果もあります。
人の作業で行うピッキングは、機械以上に正確に進める人もいれば、ミスの多い人もおり、作業精度に差が生じがちです。
そこで、AS/RSを導入することで、自動化される作業が増え、人の能力の差をなくして精度の高い作業を実現できます。ミスの少ないオペレーションは、顧客からの信頼にもつながるでしょう。
6.人手不足の削減と負担の軽減
AS/RSの導入により、人の手を利用した作業が減少します。
特に、貨物の保管や搬出にかかる肉体労働が自動化されることで、作業員の負担が軽減されます。また、作業に必要な人員も最小限に抑えられるため、人手不足の解消にもつながるでしょう。
7.安全性の向上
大きくて重量がある貨物の搬入出や、高い場所での作業を行う際には、事故や貨物ダメージのリスクを伴うため細心の注意を払わなければいけません。しかし、AS/RSで作業が自動化されると、リスクが高い作業の多くを機械に任せることができます。
作業員の負担を減らして安全を確保することで、安心して働ける職場環境が整います。その結果、離職率の低下や採用面でもよい影響をあたえます。
AS/RSを導入する上での注意点は?

前章では、AS/RSを導入するメリットについて解説しましたが、その一方で導入に関しての注意するべき点もあります。ここでは、AS/RS導入時に押さえておきたい注意点を解説します。
1.導入前の費用対効果の想定
AS/RSは高度な設備であるため、導入には高額な初期費用がかかります。小規模でも数千万円、大規模になると数億円に及ぶケースもめずらしくはありません。
初期費用に加えて、稼働後にかかるランニングコスト、AS/RSを導入することで得られる効果により、どの程度の期間で投資回収できるかをあらかじめ見積もることが必要です。詳しくは次の章で解説します。
2.AS/RS導入開始時の混乱
新しい設備やシステムを導入することで、どうしても慣れるまでに一時的に混乱が生じる可能性があります。導入直後は、導入前よりかえって作業に時間がかかるケースも出てくるかもしれません。
本格的に導入を進める前に、AS/RSの操作研修や試験的運用を行うことで、少しでもスムーズに始められるような体制を整えることが必要です。
3.システムトラブル時の備え
AS/RSは、機械設備とITシステムに依存するため、万が一のシステムのトラブルが発生により、業務に支障を及ぼす場合があります。すべての作業を自動化している場合には、トラブル発生時に倉庫機能が停止してしまう可能性もあり、納品先やドライバーにも影響を及ぼしかねません。
そのような非常事態が発生したときのマニュアルを整備し、そのマニュアルを全関係者に共有して非常事態を想定しておくことが必要です。また、スムーズに復旧できる体制を整えるためにも、メーカーや保守業者との連携も日頃から築くことも求められます。
AS/RSを導入する上でのコスト面での影響は?

AS/RSを導入する上でどうしても気になるのはコスト面での影響です。ここでは、どのような影響が考えられるかを解説します。
1.AS/RSの導入時のコスト
AS/RSを導入する上では、小規模であれば数千万円程度、大規模であれば数億円もの費用が発生します。初期費用で考えられる費用は以下の通りです。
【初期費用に含まれるもの】
・AS/RSの本体(クレーン、棚、搬送ロボットなど)の購入費用
・自動倉庫システムの開発・設計費
・AS/RS設置工事費用
・AS/RSを制御・管理するソフトウェアの購入
・倉庫システムとの連動費用
・システム操作・利用の研修費用
・(新しく倉庫を建設する場合は)建築費用
AS/RSを購入するだけでなく、現場に最適化された設計や装置、ソフトウェアとの連携など、付随してさまざまな費用が発生します。AS/RSの導入は、総合的に高額な投資となるということは、念頭に置いておきましょう。
2.AS/RSのランニングコスト
AS/RSのランニングコストには、以下の費用が発生します。
【ランニングコストに含まれるもの】
・システムの維持管理費
・電気料金などの光熱費
・AS/RSの定期点検・メンテナンス費用
AS/RSの継続的な運営を行うために、導入時のコストに加え、ランニングコストも無視できない存在です。これらの費用を加味した総合的なコスト計算を行うことが重要です。
3.AS/RSを導入したコスト削減・売上の効果
先に述べたように、AS/RSの導入とランニングコストを考えると、莫大な投資が必要になります。しかし、長期的な目線で見ると、以下のような効果が期待されます。
・自動化したことによる人件費の削減
・作業精度の向上
・保管スペースの向上
・作業時間の短縮
・残業時間の削減
これらの効果により投資回収が見込まれるため、どのくらいの期間で黒字化できるかを想定しておきましょう。
まとめ

これまで、AS/RSの概要と種類、導入することでのメリットと注意点、AS/RSのコスト面に関する影響について解説しました。AS/RSを導入することで、倉庫内のオペレーションの効率化、人手不足の解消、作業精度の向上などの効果が表れ、倉庫機能全体の底上げをする効果が期待されます。
しかし、初期投資費用をはじめとし、AS/RSを導入することで発生するコストやリスクにも十分な配慮が必要です。
本記事で解説した内容を踏まえ、自社の倉庫規模や取扱い貨物に適した方式を見極め、費用対効果を十分に評価しながら、AS/RSの導入を検討していきましょう。