物流センターの統廃合、なぜ今進む?拠点戦略見直しの最新トレンド

コロナ禍以降に急速に発展したEC市場のニーズの高まり、物流の2024年問題による労働環境の変化、人件費や燃料費の高騰、さらにはDX化に伴う設備投資など、物流を取り巻く環境は大きく変化しています。

国土交通省の「倉庫統計季報」の情報によると、2019年の6月末時点での1類~3類倉庫の所管面積は5,491.6万㎡なのに対し、2024年6月時点では7,101.2万㎡と所管面積が上昇しており、物流施設への需要が高まっていることが明らかになっています。

年度倉庫所管面積
2019年(6月末時点)5,491.6万㎡
2024年(6月末時点)7,101.2万㎡

このように面積が拡大する一方で、従来の拠点配置や運用体制を見直す動きが活発になりつつあります。その中でも注目されているのが、「物流センターの統廃合」です。
単なる拠点の削減だけでなく、拠点の集約・再配置により、最適化された倉庫運営が進められています。

本記事では、なぜ今物流センターの統廃合が進んでいるのか、その背景やメリット・デメリット、物流戦略のトレンドについて詳しく解説します。

参照:国土交通省 倉庫統計季報

物流センターの統廃合が進んでいる背景

物流施設のニーズが高まっている中で、なぜ物流センターの統廃合が進んでいるのでしょうか。その背景には以下の5つの理由が考えられます。

1. 2024年問題への対応

物流の2024年問題により、残業時間の上限が年間960時間に制限され、ドライバーの労働環境が大きく変わり、長距離運送体制を見直す必要が生じています。

そのため、倉庫拠点を集約することで、長距離輸送をする機会を減らし、効率的に貨物を入出荷する体制づくりが求められています。運送オペレーションの最適化を求める選択肢のひとつとして、物流センターの統廃合が検討されています。

2.デジタル化や自動化による拠点の集中

最近では、AS/RS(自動倉庫)の導入や、WMS(倉庫管理システム)、搬送ロボットなどの導入が進み、従来作業員が行っていた作業を自動化し、大型拠点に機能を集約する動きが広がっています。


これにより、倉庫での作業人員の削減と、倉庫作業オペレーションの効率化の向上を同時に実現させることができます。

3. EC市場の台頭

2つ目はEC市場の台頭です。国土交通省が発表した「物流拠点を取り巻く環境の変化や課題」によると、EC市場は年々拡大傾向にあり、2014年には127,970トンの取扱い、2023年には248,435トンと、約10年でおよそ2倍に増加しており、需要の高まりがうかがえます。

トン数
2014年127,970トン
2023年248,435トン

EC貨物の特徴は、多品目かつ小口化した貨物が多く、かつ多頻度での入出荷が発生するため、物流倉庫では細かな在庫管理と複雑化した作業が求められます。

ECを取り扱う倉庫では人の手で作業を担うことには限界があり、AS/RSを取り入れた高機能な物流施設の建設への切り替えが不可欠です。これにより、拠点の見直しや統廃合が進められています。

参照:国土交通省「物流拠点を取り巻く環境の変化や課題

4. 倉庫の老朽化

国土交通省が今年の4月に発表した「物流拠点の今後のあり方に関する検討会における報告書」によると、物流拠点が直面している問題の一つに、倉庫拠点の老朽化が挙げられています。

倉庫の老朽化が進むことで、機能面が時代に合わず、修繕や補強のコストもかかり、労働環境の悪化などの弊害が生じています。老朽化した倉庫をどうするかを考えたときに、倉庫運営の最適化の実現にむけて、物流センターの統廃合を検討することになるでしょう。

参照:国土交通省「物流拠点の今後のあり方に関する検討会における報告書(概要①)

5. 倉庫運営によるコストの見直し

近年では人件費や燃料費の高騰により、今まで以上に物流に関連するコストが高くなりつつあります。拠点がさまざまな場所に分散することで、それぞれに発生するランニングコストが発生し、倉庫運営の低下につながります。

そこで、物流センターの統廃合を行い1つの拠点に集約することで、初期投資費用は発生しますが、中長期的なランニングコストを削減する効果が期待されます。

物流センターを統廃合するメリット

ここでは、物流センターを統廃合するメリットについて紹介します。

1.AS/RS(自動倉庫)や最新設備の導入がしやすくなる

物流センターを統廃合することで、新しく倉庫を建設する機会が設けられ、これまで導入が難しかったAS/RSや最新設備の導入を取り入れやすくなります。

最新の機器を導入することで、今まで人手で行っていた作業も自動化され、作業効率が向上します。結果として倉庫作業の回転率も上がり、人手不足の解消や、収益の拡大にもつながるでしょう。

2.在庫の一元化による、在庫管理の精度向上

複数の拠点にそれぞれ在庫を分散させていた場合、欠品時の横持や過剰在庫による余分なコストが発生します。しかし、物流センターを統廃合すれば、在庫を一拠点に集約できるため、在庫管理がシンプルで効率的になります。また、欠品や過剰在庫のリスクも減らせるでしょう。

さらにWMSなどのシステムを利用することで、需給バランスに応じた適切な在庫をコントロールする仕組みの構築が可能です。

3.働く環境・施設性能の改善

倉庫での作業は「夏は暑すぎて冬は寒すぎる」「暗い」「黙々とした作業」など、ネガティブなイメージを持つ人も多いのではないでしょうか。しかし、倉庫の統廃合を行うことで、空調が完備され、清潔感のある作業スペースが整い、作業員に優しい職場づくりが実現します。

また、ZEB(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)を取り入れた建物を採用することで、電気代やCO2削減の効果が表れ、環境に配慮した物流の仕組みが整います。

4.配送ネットワークの効率化

拠点が複数ある場合は、様々な配送ルートのパターンが存在するため、効率的な配送計画を立てにくいと感じることがあるかもしれません。しかし、拠点の統廃合で集約されれば、配送ルートが明確化し、輸送距離の短縮やルートの最適化の実現が可能です。

また、倉庫の規模の拡大により保管スペースが増えると、一度に多くの貨物を運べるようになるため、積載効率が向上するでしょう。

物流センターを統廃合するデメリット

前章では物流センターを統廃合するメリットについて解説しましたが、一方でデメリットも存在します。ここでは4つのデメリットについて解説します。

1. 統廃合における初期コストがかかる

物流センターを統廃合することで、以下のような大きな初期投資費用がかかります。

・新拠点の建設

・新設備購入

・貨物の横持と引っ越し

・人材の再配置

・システムデータの統合や調整 など

これらのコストは非常に高額になるため、きちんと投資回収ができるかの見極めを進める必要があります。費用対効果のシミュレーションを丁寧に進め、慎重に計画して統廃合の判断を行うことが大切です。

2.拠点停止時の代替手段が確保しにくい

統廃合によって拠点を集約すると、地震や火災、システム障害などのトラブルが発生した場合の影響が広範囲に及ぶリスクがあります。特に復旧の目途が立たない場合には、業務が停止する可能性もあるでしょう。

BCP(事業持続計画)の観点で考えると、万が一の代替手段を事前に想定し、対策を検討することが求められます。

3.配送先のリードタイムが伸びる可能性も

拠点が集約されることで、配送先までの距離が伸び、以前よりもリードタイムが伸びる場合も考えられます。かつて拠点が分散していたときに即日や翌日配送が可能だったエリアが、拠点の集約でかえってリードタイムが伸び、配送の要望を叶えられないことも想定されます。

統廃合前後で配送品質に大きな差が生じないように、統廃合した拠点の立地選定や、物流ネットワークの見直しを検討することも重要です。

4.繁忙期の業務集中による、作業負荷の拡大

繁忙期に一時的に取り扱い貨物が増加した場合、拠点の統廃合を行うことで、1つの施設にかかる業務負荷が高まる可能性があります。そのため、作業時間の延長や、人手不足、トラックの積卸待ちの待機による混雑などが生じ、作業効率の低下につながります。

そのような繁忙期に備えた人員の配置、自動化された設備の導入により、業務負荷に耐えられる体制を作りを事前に行うことが必要です。

物流センター統廃合が変える、拠点戦略の新トレンドとは?

物流センターの統廃合は、単に集約して終わりではなく、戦略的な再設計の一環として進められています。

より効率化した倉庫運営やコストの最適化を目指すため、企業はどのような視点を持って統廃合を進めているのでしょうか。ここでは、物流センターの統廃合が変える、拠点戦略の新トレンドについて解説します。

1.ハブ・スポーク型への移行

ハブ・スポーク型とは、中心拠点であるハブ倉庫を1つ設け、そこに多くの貨物や在庫を集約させます。ハブ倉庫を経由して、それぞれの配送先に展開する仕組みです。

従来のように拠点間を行き来する運用では、配送ルートが複雑化して効率も下がりがちです。しかし、ハブ倉庫を設けることで、「ハブ倉庫に行けば必要な荷物が受け取れる」という明確でシンプルな配送パターンが構築でき、集荷・出荷の無駄を省くことができます。

2. クロスドック方式導入による一時保管の削減

クロスドック方式とは、荷物を倉庫で長期保管せず、仕分け後にすぐに出荷する方式です。統廃合後の戦略の1つとして重要な役割を担います。

実際の動きとしては、貨物が倉庫に搬入されてきたらすぐに納入先ごとに仕分けをし、待機中のトラックに積み込むという一連の作業が行われます。これにより、保管スペースや在庫リスクを最小限に抑えることができます。さらに、リードタイムの削減につながり、効率の良い作業の実現にもつながります。

クロスドック方式の実現には、WMSとの連携やAS/RSの導入などのシステムとの連携が必須となるため、統廃合が決まったタイミングでの導入が最適といえるでしょう。

3.リージョナル拠点の導入

物流センターの統廃合により、リージョナル拠点を新たに設けるパターンもあります。

国土交通省の資料「物流を取り巻く動向について」によると「大規模な物流施設が多く立地している4つのエリア(臨海部・外環道沿道およびその内側・圏央道沿線・北関東道沿線)に注目すると、臨海部において立地件数が最も多いが、 2000年以降に開設した事業所に限ると、圏央道沿線における立地が進展し、立地件数が最も多い。」という記載があるように、消費地に近い郊外への倉庫の建設が増えていることがうかがえます。

リージョナル拠点も同様に、首都圏に近い郊外で大規模に整備されてきており、それにより以下の効果が実現できます。

BCPの強化

リージョナル拠点は大消費地の首都圏に集中しがちですが、首都圏から離れることでBCPの強化にもつながり、リスク分散に進みます。

・広い土地の確保により、大規模な倉庫を設けやすい

郊外であれば、広い土地の確保がしやすいため、自動化を取り入れた最新の設備や、環境に配慮した大規模な倉庫の建設を行うことができます。

・広域配送の実現

は高速道路のIC付近に整備されている場合が多く、首都圏だけでなく地方への配送もできるので、広範囲での配送が可能です。

参照:国土交通省「物流を取り巻く動向について

4. ZEB対応の新倉庫設立

環境に配慮した経営は物流業界でも求められている重要な要素です。物流センターの統廃合をきっかけとして、ZEB(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)を取り入れた施設の設備を進める企業が増えています。

ZEBは太陽光などのエネルギーを活用しながら、最新の設備を導入することで省エネを実現させ、エネルギーを自分で賄って消費するという仕組みを作っています。そうすることで、CO2の削減やランニングコストの抑制の効果が期待でき、環境に配慮した物流の実現につながります。

まとめ

物流センターの統廃合はただの集約にとどまらず、現代の物流ニーズに対応したサービスを提供するための戦略的な再構築として位置づけられています。最新設備の導入による作業の効率化、環境に配慮した設備、職場環境の向上などの視点を組み込んだ対策を進め、より最適化された倉庫運営の実現を目指すことが求められます。

物流センターの統廃合を進める際は、費用対効果を見極めながら、慎重に計画を進め、戦略的な拠点運営を実現させることが重要です。

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