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物流現場で日常的に使われているアイテムの一つに「物流クレート」があります。食品、工業製品、日用品など、さまざまな商品を運ぶ際に活用されており、特にリターナブル(再利用可能)な輸送容器として重要な役割を果たしています。
この記事では、物流クレートの基本的な定義から実務での使われ方、導入のメリット・デメリットまでを解説します。
- 物流クレートは繰り返し使える物流用の通い箱で、輸送の効率化に貢献
- 業界内で規格化が進み、積載・保管作業がスムーズに
- 自動化・環境配慮など、スマート物流の要としても注目
物流クレートとは?

物流クレートとは、主にプラスチック製の頑丈な容器で、商品の輸送や保管に繰り返し使われる通い箱のことです。通常の段ボール箱と異なり、耐久性が高く、何度も使用できるのが特徴です。
一度使ったら捨てる「使い捨て」の容器ではなく、企業間で循環させて繰り返し使う「リターナブル容器」として活用されています。とくに食品業界では、衛生面や環境への配慮から積極的に導入されています。
実務での使われ方と流れ
物流クレートは、次のような流れで使用されます。
物流クレートの循環的な運用フロー
- 出荷元(メーカーや工場)で商品をクレートに詰める
- 配送業者がクレートごと商品を運ぶ
- 納品先(スーパー、飲食店、倉庫など)で商品を受け取る
- 空になったクレートは、回収されて出荷元へ返却
- 出荷元で再度使用される
このように、物流クレートは“通い箱”として循環し、輸送と保管の両面で活躍しています。
規格化された「食品クレート標準」とは?
2007年4月、物流クレートの効率的な運用を目指し、「物流クレート標準化協議会」が「食品クレート標準I型・II型」という統一規格を決定しました。
この標準化によって、業界内でバラバラだったサイズや仕様が共通化され、以下の2つの基本サイズが基準として採用されました。
食品クレート標準サイズ
- I型(小サイズ):外寸 600mm × 400mm × 233mm
- II型(大サイズ):外寸 600mm × 400mm × 303mm
どちらも同じ底面サイズ(600×400mm)を持つため、積み重ねや保管がしやすく、物流機器との互換性も高いのが特徴です。高さが異なることで、運ぶ内容物の大きさや量に応じた使い分けが可能です。
この規格化は、食品流通の効率化や環境負荷の軽減にも大きく貢献しています。
他の容器との違いは?

物流クレートとよく比較されるのが「段ボール」や「パレット」です。それぞれに特長がありますが、以下のような違いが見られます。
種類 | 主な素材 | 特徴 | 使い捨て/再利用 |
---|---|---|---|
段ボール | 紙 | 軽量でコストが安い | 使い捨て |
パレット | 木・プラ等 | 台車のように下から持ち上げる | 再利用 |
物流クレート | プラスチック | 中身を保護し繰り返し使える箱型 | 再利用 |
物流クレートは、中身の保護と再利用性を両立させた点で、非常にバランスの取れた容器といえるでしょう。
実際の活用シーン
物流クレートは、以下のような現場で活用されています。
食品流通:
精肉や青果、パン、乳製品などの食品を生産地から物流センター、スーパーの店舗などへ配送する際に使用されます。冷蔵・冷凍対応のクレートを使えば、温度管理を保ったまま輸送が可能です。商品をそのまま陳列棚へ並べる「店着陳列」にも活用され、作業の省力化につながります。
外食チェーン:
飲食店やファーストフードチェーンへの食材納品で使用されています。野菜・肉・調味料などの各種食材をクレートに仕分けて運べるため、納品後はそのまま店舗内で保管・在庫管理がしやすくなります。洗浄して再利用できる点も、衛生管理の観点でメリットがあります。
工場間輸送:
自動車部品や電子部品、組み立て途中の製品などを、工場から別の加工・組立工場へ移送する際に使われます。製品ごとの専用クレートや緩衝材入りのクレートを使えば、破損を防ぎつつ効率的な部品供給が可能に。部品棚としても活用され、作業の流れがスムーズになります。
EC物流:
通販商品の仕分けや返品対応、社内での一時保管などで活用されます。再利用可能なクレートは、梱包コストや資材ゴミの削減にも貢献します。また、仕分けステーション間のピッキング作業にも使われることが多く、運用の効率化と環境配慮の両立が図れます。
物流クレートのメリットとデメリット
物流クレートを活用する上での、メリットとデメリットについて紹介します。
物流クレートを活用するメリット
まず最大のメリットは、繰り返し使える点です。紙製の段ボールとは異なり、耐久性の高いプラスチック素材で作られています。何度も再利用することができるので、長期的にはコスト削減につながります。
また、内容物をしっかり保護できる構造になっているため、輸送中の破損リスクを減らすことができます。さらに、サイズや形状が規格化されているものも多く、トラックへの積載や倉庫での保管作業が効率的に行えるのも利点です。
洗浄がしやすく衛生的に保てるため、食品業界などでも重宝されています。
物流クレートを活用するデメリット
クレートは初期費用が高く、導入時にまとまった投資が必要になる場合があります。
また、使い捨てではないため、空のクレートを回収し、保管・管理する仕組みを社内で構築しなければなりません。
さらに、種類が多すぎると現場での仕分けや保管が煩雑になることもあり、導入時には運用ルールの明確化が求められます。
最近の動向と業界での活用トレンド
物流業界では、人手不足や業務の効率化、環境配慮といった課題への対応が急務となっており、物流クレートの活用もそれに合わせて進化しています。近年の主なトレンドは以下のとおりです。
- 自動倉庫との連携対応:
クレートの寸法を統一することで、無人搬送ロボット(AGV)や自動保管棚とのスムーズな連携が可能になります。たとえば、食品メーカーやドラッグストアの物流センターでは、仕分けから保管・出荷までの工程を自動化するために、規格クレートを導入するケースが増えています。 - RFIDタグによる個体管理の自動化:
クレートにICタグ(RFID)を取り付けることで、「どのクレートがどこにあるか」「何を運んだか」といった情報をリアルタイムで把握できます。これにより、在庫・返却管理の手間が大幅に減り、紛失や置き忘れの防止にもつながります。 - リース・シェアリングの普及:
自社で大量のクレートを保有せず、必要な分だけをリースで調達したり、複数の企業で共通クレートを回す「シェアリング」運用も拡大しています。これにより、保管スペースや管理コストの削減が可能になり、特に中小規模の事業者にとっては導入のハードルが下がります。 - 環境対応素材への切り替え:
プラスチックごみ問題への対応として、クレートの素材をリサイクル樹脂やバイオマス素材に切り替える動きも進んでいます。一部メーカーでは「回収した使用済みクレートを再資源化して新たなクレートに再生する」サーキュラーエコノミーの取り組みが始まっています。
こうした動きは、単なる容器としてのクレートの役割を超え、物流全体のスマート化やサステナビリティ推進の一翼を担う存在として注目される要因となっています。
物流現場の効率化に欠かせない物流クレート
物流クレートは、見た目こそシンプルですが、物流の現場で欠かせない存在です。単に物を入れて運ぶだけでなく、「繰り返し使える」「作業効率を上げる」「環境にもやさしい」といった多くのメリットがあります。
特に最近では、業界全体で標準化や効率化の動きが進んでおり、物流クレートの役割はますます重要になっていくと考えられます。
今後、輸送や納品業務に関わる方は、物流クレートの特徴や使い方をしっかり理解しておくことで、現場の改善提案にもつなげられるでしょう。
物流クレートに関するよくある質問とその答え
Q1. 物流クレートは段ボール箱よりコストが高いのでは?
初期費用は段ボールより高くなりますが、繰り返し使えるため長期的にはコスト削減につながります。特に回収と再利用の仕組みが整っている場合、資材費の削減効果が大きくなります。
Q2. 物流クレートはサイズや形がバラバラでも使えるの?
現在は「食品クレート標準I型・II型」など規格化されたサイズが普及しており、積み重ねや保管がしやすい仕様になっています。サイズが統一されていないと積載効率が下がるため、規格化品の利用が推奨されます。
Q3. 物流クレートの衛生管理はどうすればいい?
プラスチック製クレートは高圧洗浄や熱湯消毒が可能で、食品業界では洗浄機での定期的なクリーニングが一般的です。洗浄・乾燥工程を確実に行うことで、衛生面のリスクを最小限に抑えられます。