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物流や納品の現場では、荷物の受け渡し方法にさまざまな種類があります。その中でも比較的よく使われるのが「軒先渡し」という方法です。初めて聞くと、「軒先」とは何を指すのか、実際にどのような場面で使われるのかがイメージしづらいかもしれません。
本記事では、その意味や特徴、メリット・デメリット、そして最近の活用状況まで、わかりやすく解説します。
- 軒先渡しは、荷物を建物の入口や玄関先まで運び、そこで受け渡す配送方法
- 宅内搬入よりも作業が簡潔で、配送効率やコスト面に優れる
- BtoB・BtoC問わず、非対面配達や効率化のニーズで利用が拡大中
軒先渡しの基本的な意味
軒先渡しとは、配送業者が荷物を届け先の建物の入口や玄関先まで運び、そこで引き渡す配送方法を指します。建物の内部や指定の部屋まで運び入れることはせず、あくまで外側の入り口付近での受け渡しとなるのが特徴です。
例えばオフィスや工場の場合、建物のドア前や搬入口で商品を渡すイメージです。家庭向けであれば、自宅の玄関前での引き渡しにあたります。
軒先渡しと他の配送方法との違い
他にも似たような荷物の受け渡し方法がありますが、それぞれ対応範囲や作業内容が異なります。ここでは、軒先渡しとよく比較される代表的な方法との違いを見ていきましょう。
1. 宅内搬入との違い
宅内搬入は、配送業者が建物の中や指定された部屋、倉庫などの所定の位置まで荷物を運び入れる方法です。玄関先での受け渡しにとどまらず、室内の奥まで搬入するため、重量物や大型家具、精密機器など、持ち運びや設置に手間がかかる荷物の場合によく選ばれます。搬入時には通路の確保や養生作業が行われることもあり、受取側の負担が少ない一方で、配送業者には時間と労力がかかります。
軒先渡しはこの宅内搬入と異なり、建物の外や入口付近で引き渡しが完了するため、作業範囲が限定されます。
2. 置場渡しとの違い
置場渡しは、配送業者があらかじめ取り決められた場所まで荷物を運び、そこで引き渡す方法です。置き場所は建物内の一角である場合もあれば、敷地内の屋外スペースである場合もあります。荷物の搬入は指定場所までで完了し、その先の移動や設置は受取側が行います。工場や倉庫など、構内の受け入れ手順が明確に決まっている現場でよく利用され、受け渡しの効率化や作業動線の確保に役立ちます。
一方、軒先渡しは置場渡しと異なり、受け渡し場所が建物の玄関や搬入口などの入口付近に限定されるため、場所の自由度は低くなります。
3. 車上渡しとの違い
車上渡しは、配送業者が荷物をトラックの荷台上で引き渡す方法です。荷下ろしやその後の搬入作業はすべて受取側が行うため、配送業者の作業範囲は最小限にとどまります。建設資材や重量物、パレット積みの荷物など、受取側がフォークリフトやクレーンなどの荷役機器を用意できる現場でよく採用されます。効率面では優れていますが、荷受人側の作業負担が大きく、受取準備が整っていないと受け取りが難しい方法でもあります。
軒先渡しは、この車上渡しよりも一歩進んで、荷物を建物の入口や搬入口まで運んでくれるため、受取側の労力が軽減されます。
軒先渡しが使われる主な場面

ここでは、軒先渡しが使われる主な場面について紹介します。
イベント会場
展示会やコンサート、地域イベントなどの設営に必要な資材や消耗品を、会場の入口や搬入口まで届けます。パネル、照明機材、配布用パンフレット、飲料などが典型的な例です。会場内での設営や配置はイベント運営スタッフが行うため、配送業者は入口での引き渡しまでを担当します。
短時間で複数会場に納品するケースも多く、効率的な受け渡し方法として重宝されています。
法人向け納品
小型から中型の荷物を企業のオフィスや店舗に届ける際に利用されます。たとえば、文房具や消耗品、店舗用什器、パッケージされた商品などが該当します。配送業者はビルの受付や店舗の入り口まで荷物を運び、受取担当者に引き渡す形です。
室内奥や倉庫までの搬入は行わないため、受取後は社内スタッフが各部署やバックヤードへ運び込みます。
住宅向け配送
通販サイトや家電量販店で購入した商品を、自宅の玄関前まで届ける場合に使われます。段ボール箱に入った日用品や家電、小型家具などが対象です。受取人が在宅していれば玄関前で直接受け取り、不在時には置き配として玄関周辺に設置される場合もあります。宅内への搬入や設置は行わないため、大型家具や重量物は別の配送方法が選ばれることもあります。
軒先渡しを活用するメリット

軒先渡しを活用することで、受取側・配送側の双方にメリットが生まれます。ここではそれぞれの立場においてのメリットについて解説します。
受取側のメリット
- 荷台から自分で降ろす必要がなく、入口まで届くため手間が減る
荷台から自分で荷物を降ろす必要がなく、配送業者が建物の入口や玄関先まで運んでくれるため、受取側の作業負担を大きく減らせます。特に重量物やかさばる荷物の場合、荷台からの持ち運びは人手や機材が必要になることも多いため、この点は大きなメリットです。 - 小規模事業者や個人宅でも利用しやすい
軒先渡しは小規模事業者や個人宅でも利用しやすい配送方法です。例えば、スタッフ数が限られている店舗や事務所、自宅で荷物を受け取る場合でも、入口まで運んでもらえることで受け取り作業がスムーズになります。人員や設備が整っていない環境でも対応できる点が、多くの利用者に支持される理由のひとつです。
配送側のメリット
- 宅内まで入らないため、作業時間が短縮され効率的
宅内まで入らないため、搬入や設置の作業が不要となり、配送業者の作業時間を大幅に短縮できます。特に複数件への配送を1日のうちに行う場合、1件あたりの滞在時間を数分単位で削減できることは、全体の配送効率向上につながります。結果として、同じ人員や車両でより多くの荷物を届けられるようになり、コスト面や人員不足対策にも効果的です。 - 宅内作業に伴う破損リスクや安全管理の負担が減る
さらに、宅内作業に伴う壁や床、家具などの破損リスクがほぼなくなるため、賠償や補修対応の負担が軽減されます。宅内に入らないことで、作業員や受取人双方の安全面にも配慮でき、特に狭い通路や段差が多い場所、精密機器や貴重品がある空間での事故防止に役立ちます。このように、効率性とリスク低減の両面でメリットが大きい方法です。
軒先渡しを活用する注意点
一方で、軒先渡しを活用する上での注意点も存在します。ここでは3つの注意点について解説します。
- 室内への搬入は受取側で対応する必要がある
どんなに重い荷物であっても、軒先渡しでは建物の入口や玄関先までしか運ばれないため、そこから室内や指定の設置場所までの搬入は受取側で対応しなければなりません。
特に、大型家電や複数人で運ぶ必要がある重量物の場合は、あらかじめ人手や台車などの搬入用具を準備しておく必要があります。 - 荷物が雨や風の影響を受ける可能性がある(特に不在時の置き配と組み合わせる場合)
荷物は入口付近で引き渡されるため、天候の影響を受けるリスクがあります。雨や風が強い日には、梱包が濡れたり汚れたりする可能性があり、特に不在時に「置き配」と組み合わせて利用する場合は注意が必要です。
天候のリスクに備え、安全な場所や屋根のある場所での受け取りを指定すると良いでしょう。 - 荷受担当者が不在だと、再配達になることがある
荷受担当者が不在の場合には、その場で引き渡しができず再配達となることがあります。
再配達は配送効率を下げるだけでなく、追加の時間や費用が発生するケースもあるため、受け取り時間の調整や担当者の常駐が重要です。
物流業界における近年の活用事例
近年、物流業界では人手不足や効率化のニーズ、さらには非対面受け渡しの需要増加などを背景に、軒先渡しの活用が広がっています。従来は特定の業種や条件で利用されることが多かった方法ですが、現在ではBtoB・BtoCを問わず幅広いシーンで選ばれるようになりました。
ここでは、その背景や具体的な活用の傾向について見ていきます。
1. 労働力不足への対応
物流業界では慢性的なドライバー不足や人件費の高騰が課題となっています。軒先渡しは、宅内搬入に比べて作業範囲が限定されるため、1件あたりの配送時間を短縮でき、限られた人員でも多くの荷物を効率よく届けられます。
特に都市部では、配達件数を増やしつつ人件費や残業時間を抑える取り組みとして導入が進んでいる状況です。
2. 非対面配達との組み合わせ
新型コロナウイルスの影響以降、対面での受け渡しを避けたいという需要が急増しました。軒先渡しは、玄関先まで届けて受領サインや写真撮影で受取完了とする非対面配達と相性が良く、感染症対策の一環として広まりました。現在では衛生面だけでなく、防犯面や受取時間の自由度を高める方法としても利用されています。
たとえば、共働き世帯や在宅ワーク中の受取人が多い地域では、受け取り負担を減らす手段として定着しています。
3. BtoB配送の効率化
法人間の取引でも、軒先渡しの利用が増えています。特に小ロット商品や日用品の定期納品では、わざわざ構内や室内まで搬入せず、玄関や搬入口でスムーズに受け渡すことで配送ルート全体の効率化につながります。
製造業の工場や小売業の店舗などでは、限られた受取時間枠や構内ルールに従って迅速に作業を終える必要があるため、軒先渡しは無駄な滞在時間を減らす有効な手段です。
まとめ
軒先渡しは、配送業者が建物の入口まで荷物を運び、そこで引き渡す方法です。宅内搬入よりも作業負担が軽く、効率的な配送を実現できますが、荷物の搬入は受取側が行う必要があります。
物流業界では、労働力不足や非対面ニーズの高まりを背景に、この方法の活用が広がっています。効率と利便性の両立を図る仕組みとして、今後も重要性を増していくでしょう。
軒先渡しに関するよくある質問とその答え
Q1. 軒先渡しでは室内まで運んでもらえますか?
A. いいえ。軒先渡しは建物の入口や玄関先での引き渡しが基本です。室内への搬入や設置は受取側が行います。
Q2. 不在の場合でも軒先渡しは利用できますか?
A. 事前に置き配指定や再配達の手配をしていれば可能です。ただし、天候や盗難リスクがあるため、受取時間を合わせることをおすすめします。
Q3. 重い荷物や大型商品でも対応してもらえますか?
A. 対応は可能ですが、入口までの運搬にとどまります。重量物の場合は、受取側で搬入用の人員や機材を事前に準備することが求められます。