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運送業界に特化した安全教育サービスを提供する株式会社アスア。現在1,400社を超える運送会社と契約し、事故の低減と燃費改善を通じて業界の構造転換に挑戦しています。燃費データを活用した対話型の安全教育が、ドライバーの意識を変え、事故を半減させています。
今回は、安全教育と積載効率改善で業界に新たな価値を提供する株式会社アスア代表取締役社長の間地寛さま(以下、敬称略)に、安全活動のアウトソーシングという新しい考え方と、新物流2法時代における積載効率改善への取り組みについて、お話を伺いました。モデレーターを務めるのは、株式会社ロジテック代表取締役の川村です。
通信業界から物流業界へ「魔法のセラミックス」から学んだコミュニケーションの力

川村: まず、御社が物流業界に入られた経緯を教えていただけますか?
間地: 26歳で起業し、最初はガスもれ警報器の取り付けから始めました。そのうち、ガスもれ警報器と電話回線をつなげて24時間管理する通信関係の工事の仕事が必要になりました。28歳の時には完全に通信事業に切り替わり、通信コスト削減の営業をしていました。飛び込み営業先には、運送会社さんが多かったんです。
川村: それは面白いですね。
間地: 運送会社さんに通信コストの削減を提案すると「通信コストより燃料コストを削減してくれないか」と言われました。ちょうど燃料費の高騰が始まった直後で、そういうニーズが結構あったんです。そこで国の研究機関と共同開発した燃費改善セラミックスを導入し、5,000台に設置して平均15%の燃費改善という実績が出ました。
川村: 15%は大きいですね。
間地: 当時、大型トラックの長距離便は月間40万円ぐらい燃料を使っていましたから、15%だと6万円。100台なら年間7,200万円の削減です。紹介から紹介で広がっていきました。ところが、ある自動車メーカーからカタログ燃費での検証を求められ、日本自動車研究所で測定したところ、セラミックスの効果はゼロだったんです。
川村: それは驚きですね。では、なぜ実際には燃費が改善したんですか?
間地: 検証の結果、セラミックスの効果を確認するために燃費を記録してもらい、それをもとに毎月ドライバーさんとミーティングをしていたことが理由だと分かりました。「ブーンとふかしたり急発進したりすると燃費が悪くなりますから、そういう運転はやめましょう」という話を一生懸命していたんです。つまり、燃費の可視化と定期的なコミュニケーションでドライバーさんの意識が変わったことが真の理由でした。
セラミックスを全回収して返金し、燃費を評価するシステムのビジネスモデル特許を取って、コンサルティング会社に転換しました。これが20数年前の話です。早稲田大学との共同研究では、燃費が8.7%改善すると交通事故が半減することも立証され、これが現在の事業の基盤になっています。
燃費データを使った「褒める教育」―減点法から加点法へ

川村: 現在はどのような事業をされているんですか?
間地: 現在、1,400社を超える運送会社と契約し、月間6,000〜7,000人のドライバーさんと膝詰めでミーティングをしています。燃費の改善、事故の低減、ドライバーさんとのコミュニケーションによって、悩んでいること、苦しんでいること、困っていることを改善しながら安全活動を推進しています。
サービスは2つあります。訪問型の「TRYESサポート」は、大体トラック30台以上保有の運送会社さんが対象で、中心層はトラック50台ぐらい保有の会社さんです。もう1つの「TRYESレポート」は、Web教材を提供するサービスで、トラック10台以下の運送会社さんも幅広くお使いいただいています。
川村: デジタコ(デジタルタコグラフ:運転記録計)を使った教育とは違うんですか?
間地: デジタコはドライバーさんの課題を明確にしてくれるという意味ではすごく良いものだと思っていますが、いざ教育で使おうとすると基本的に減点法なんです。「あなたは81点だった。100点まで19点の差がある。これをやめてくれ」と言われても、ドライバーさんは「はい、分かりました」としか言えません。
やはり教育って「教え育む」だから、その人の抱えている課題とか問題点とか、そういったものを一緒に考えていくことが大事なんです。
川村: 具体的にはどのように?
間地: 私たちは、燃費データを使ってドライバーさんに徹底的に話してもらいます。燃費データってすごく曖昧なデータなんですよ。その人の運転技術も反映されますが、荷物の状況、高速道路の状況など、さまざまな状況によって燃費が変わるんです。言い方を変えると、言い訳しやすい理由がいっぱいあるんです。
それを徹底的にドライバーさんに話してもらうと、ドライバーさん自身が自分の運転が良かったかどうか一番分かっていますから、だんだん自分が本当にやらないといけないことに気づいてくるんです。
最初の1〜2か月は不自然なミーティングなんですが、そのうち自分の運転を振り返るようになってくるので、3回目、4回目になると自分の運転をどう改善したらいいのかを語ってくれるようになります。
川村: ドライバーさんの反応はどうですか?
間地: 私たちの一番得意なのは「褒める」ことです。これがドライバーさんには結構刺さるんですよね。そうするとミーティングも楽しくなってくるので、ドライバーさんも「こんなことやったから褒めてくれ」という感じで話してくれます。
そこを私たちは細かく見つけてしっかり評価して、管理者や経営者にしっかり引き継いでいくんです。運送会社の経営者からは「ドライバーさんの生の声を聞けるようになった」と喜ばれています。
安全活動のアウトソーシング―第三者だからこそできること

川村: 2024年問題や新物流2法で管理者の業務が増えていますが、御社のようなサービスへのニーズは高まっていますか?
間地: 間違いなく増えています。昔と比べると、今は圧倒的にデジタル技術が入ってきました。そうなると、すべてがオールインワンになって業務が簡単になるんじゃないかと思われていますが、デジタル機器が増えれば増えるほど、やるべき業務も増えています。やらないといけないことが山積みなんです。
さらに、去年は2024年問題、今年は新物流2法の改定によって、運送会社の管理者さんがやることがさらに増えています。そういう状況で人が増えているかというと、ほとんど増えていないんです。そうすると、一番やらなきゃいけないのに一番後回しになってしまうのが、安全活動なんです。
川村: 確かにそうですね。
間地: 今日の荷物は今日運ばないとお客さんに迷惑をかける。だけど安全活動って、今日やらなくても、明日困るわけじゃないから、忙しい時はできなくなるんです。そういう状況だと、やはり大きな事故が起きてしまったり、あってはならない問題が起きたりしてしまう。そういう経験をした事業者さんは、お金を払ってでもプロにやってもらおうという意識が芽生えます。私の感覚だとそういう会社さんが年々増えていると思います。
川村: 御社のような第三者が入ることの強みって何でしょうか?
間地: 運送会社の管理者さんは多くの業務を抱えていて、安全だけやっていればいいという管理者さんっていないんですよね。だから、突発的な業務が発生したり忙しかったりしたら「今日は安全活動の業務は中止」とかになっちゃうんです。
でも、私たちはこれが専門だから、決められた時間に決められた量を必ずやる。これが第三者に教育を委託するメリットなんじゃないかなと思っています。そういった意味で、今年7月から「物流アウトソーシング事業」という名前に変えました。
川村: 管理者さんとの関係はどうなんですか?
間地: 最初は、私たちがやってみせるということを徹底的にやるんですけど、それによって管理者さんは「こういう風にやればいいんだ」というのが分かってきます。そうすると、普段の朝礼の時の会話の仕方とか、そういうものができるようになりますから、管理者さんが間違いなくレベルアップしていくんですよね。私たちのやり方をどんどん覚えてもらって活用していただいています。
それに、私たちが安全活動を行う分時間が空いて、違うことにも時間を使えるようになります。さらに、自分では聞けなかったドライバーさんの本音を私たちが聞いてきてお伝えするので、「彼はこんな風に思っていたんだ」みたいなことが知れるだけでも、次の接し方が変わりますよね。そういった意味でも、管理者が育っていくというメリットがあるんです。
導入は経営者の決断から約1か月でスタートするケースが多いですね。
積載効率改善への挑戦―新物流2法時代の課題解決

川村: 安全教育以外に、今取り組まれていることはありますか?
間地: 今、一番注目しているのが積載効率です。私たちは燃費軸で相当データを蓄積してきたんですが、燃費があらわす社会的な効果っていうのは、まさにコスト削減とCO2排出量の削減なんですよね。今回の物流2法の改定によって、一番強く言われているのが積載率の改善です。国の指標でも、積載効率の改善が、荷物が運べなくなる問題に対する改善効果が一番大きいんです。
川村: 積載率と積載効率は違うんですか?
間地: そうなんです。積載率は、改正省エネ法でも求められる数字で、荷主さんだけでも計算できます。トラックの荷台に対して何%荷物が積まれているか、という数字です。ところが積載効率になると、いわゆる帰り便の実車率もかけ合わせないといけないので、運送会社さんと一緒になって改善していかないといけない取り組みなんです。今までは、どちらかというと、荷主さんだけの問題で運送会社さんは言われたことをやるみたいな状況だったのが、荷主さんと運送会社さんが一緒になって改善に取り組む問題になりました。これが積載効率なんです。
川村: 具体的にはどんな取り組みを?
間地: 3年前からトヨタモビリティパーツさんと部品物流で取り組んでいます。トラックの荷物ってパレットの上にダンボールが乗っていたら積載率を可視化しやすいんですけど、部品物流の場合、タイヤがあったり、オイルがあったり、バッテリーがあったり、ドア1枚、バンパー、場合によったらトランスミッションがあったりと、こういったものを修理のために運ばないといけないんです。当然手積み・手下ろしだから、積み方も、何%かっていうのが分かりにくい状況だったりするんですよね。
それをいかに計算してシステム的に積載率をシミュレーションできるようにするかというのに取り組んでいて、去年11月に成功して、今は積載率改善の施策を続けています。また、TDBC(運輸デジタルビジネス協議会)でも、いろんな運送会社さんやメーカーさんと一緒になって積載効率を可視化しようという取り組みをしているんですよね。
川村: 荷主さんの意識も変わってきているんですか?
間地: 変わってきていますよ。トヨタさんの場合、荷物の量が一定なら、車両効率を上げた方が車両台数が減るじゃないですか。通常は、荷主さんは運送費が下がってハッピーになって、ここで終わりです。でも運送会社さんは余った車両をどうするのみたいな感じになるんですが、トヨタさんの場合は、この積載効率が上がった分に関しては1台あたりの車両運賃のベースを上げるんです。さらに余った車両に関しては、他の荷物を集めて運べるような体制もつくっていこうとしています。
運送会社さんにとっても荷主にとっても、さらに、販売店に送るという着荷主にとっても、みんながいい仕組みをつくっていこうという荷主さんがどんどん増えています。そういう状況になってくると、魅力ある物流をつくっていけるんじゃないかなと思うんですよね。
今回の新物流2法もそれを言っていますよね。荷主さんだけじゃなくて、物流業者さんと一緒になってやっていくんだと。
魅力ある物流業界へ―今後の展望

川村: 最後に、御社の今後の展望を教えていただけますか?
間地: 当社は、今までは物流の中においてこの「人」に特化した取り組みをしてきました。ですけど、この物流業界全体を考えた時に、ドライバーさんの問題だけじゃなく、荷物の問題、それから車両と荷物をかけ合わせた積載効率の問題など、さまざまな課題があります。その一つには、実は、物流業界の人手不足という問題もあると、私たちは強く感じているところです。
そういった意味では、これまで取り組んできたドライバーさんを中心にしたこの安全教育の事業から、それ以外の運送会社さんのお困りごとをどれだけ改善できるか、そこに挑戦したいと考えています。
川村: 具体的には?
間地: まず一つ目に考えたのが、この積載効率の課題、こういったものにも取り組んでいきたいと思っています。もう一つは、これまで車両の事故の問題に取り組んできましたが、荷物事故の問題も、業界として大きな課題だと思っていまして、こういったものに取り組んでいきたいです。
最後には、やっぱりドライバーとして新しい人がこの業界に入ってきてもらえるようになるにはどうしたらいいか、これは共通の課題じゃないかなと思っています。ぜひこの点に関しては一緒になって、この物流業界の魅力を、どう若い方々やドライバー経験のない方に伝えていけるか、そこに取り組んでいきたいと思っています。
運送会社さんの現場に行くと、ドライバーから賃金が安い、労働時間が長いといった声を聞くことがあるんですが、何とか魅力ある物流をつくっていきたいと強く思っていて、それに対して今、全社一丸となって取り組んでいます。
川村: 挑戦しつづけるという企業文化があるんですね。
間地: 私たちには「アスアクオリティ」という、行動指針が書かれた手帳があるんですけど、それの第1条、第1項が「挑戦」です。とにかく、あきらめずにいかに挑戦しつづけるのか、これがやっぱり大事だと思っています。私たちも過去を振り返ってみると、一貫してやってきたのが、対象の会社さんの改善をサポートするということでした。
川村: 御社と当社は、多分目指す方向や未来が同じなんだなということが今日知れて、本当にうれしく思っております。どうもありがとうございました。
間地: ありがとうございました。
- 株式会社アスアさまとの対談の様子は、以下のURLから動画でもご覧いただけます!
【対談企画】トラックの燃費を上げるためには魔法のセラミックス!?【株式会社アスア|第一話】
https://www.youtube.com/watch?v=MzVlfhwIbuQ
企業プロフィール
会社名:株式会社アスア(ASUA Inc.)
本社所在地:愛知県名古屋市中村区黄金通一丁目11番地
設立:1994年7月




