物流現場取材シリーズ【33】千葉商科大生が見た最新物流センター:コクヨ物流センターの現場

2030年には35%の荷物が運べなくなると予測される物流業界。深刻な人材不足の背景には、若年層が抱く「重労働」「きつい」という根強いイメージがあります。そんな中、コクヨサプライロジスティクス株式会社が千葉商科大学と取り組む産学連携プロジェクトで、学生たちがコクヨの物流センターの仕事を体験しました。江東区にある延床面積1万5000坪の最新物流センターで、ピッキングから梱包までを実際に体験した学生たちが口にしたのは、「初心者でも始めやすい」「ゲーム感覚で面白かった」「アルバイトしたい」というポジティブな言葉でした。人材確保に悩む物流企業へのヒントが詰まった取り組みをレポートします。

1. 産学連携で挑む物流業界の課題解決

「物流業界で働きたい」と考える学生は、決して多くありません。重労働、体力勝負、長時間労働といったイメージが先行し、若年層の応募は年々減少しています。2030年には35%の荷物が運べなくなるという試算もあり、業界全体で人材確保は喫緊の課題となっています。

そんな中、コクヨグループのコクヨサプライロジスティクス株式会社は、千葉商科大学との産学連携プロジェクトに力を入れています。

同社が運営する江東区の物流センター(首都圏IDC)に、「物流現場取材シリーズ【32】千葉商科大学発・実践型物流教育の最前線」にもご登場の、大下教授のゼミ生を招いて物流現場見学・体験会を実施し、学生たちがチームごとに現場での課題をもとにした改善提案のプレゼンテーションを行うという取り組みです。

今回の見学会では、単に施設を見て回るだけでなく、ゼミ生全員が入荷検品、ピッキング、梱包といった実際の作業を体験しました。学生たちは事前に「重労働」「きつそう」というイメージを持っていましたが、実際に体験してみると、楽しみながら作業に取り組んでいました。

2. システム化された現場が示す「誰でもできる」仕組みの可能性

学生たちが「初心者でも始めやすい」と感じた背景には、データとシステムを徹底活用した仕組みがありました。

データが守る品質、ASNで実現する効率化

入荷検品エリアでは、ASN(事前出荷明細)と呼ばれるデータをもとに、ハンディ端末で商品をスキャンしていきます。

「今日、○○会社から○○の荷物が○個届くはず、というデータがASNに入っています。それと実際の荷物を照合して、過不足や誤配送がないかチェックします」

担当者が実演しながら説明しました。バーコードをスキャンすると、予定数量が表示されます。実際の数量を入力してエンターキーを押すと、ラベルプリンターからシールが出力されます。このシールを商品に貼り、フロアごとに仕分けします。

「一度検品が終わった商品は、データから消えます。だから二重検品ができない仕組みです。このデータを使えば、ミスはほぼゼロです」

検品済みの商品を読み込もうとした場合は「そのJANコードはありません」というエラーメッセージが表示されます。システムが人為的ミスを防ぐ設計です。

ただし、ASNデータ自体が正確でなければ意味がありません。物流現場によっては、ASNデータが提供されないケースもあるため、荷主の物流会社に対する協力が不可欠です。

ゲートアソートシステムによる高効率な仕分け作業

圧巻だったのは、GAS(ゲートアソートシステム)と呼ばれる仕分け装置です。12個の間口(ゲート)が並び、それぞれに注文情報が割り当てられています。

従来は1つのオリコン(折りたたみコンテナ)に1顧客分の注文を入れていました。しかしGASを使えば、最大12顧客分を同時に処理できます。

操作は簡単です。商品のバーコードをスキャンすると、該当する間口が開きます。そこに正しい商品を入れると、音が鳴る仕組みです。「目でも耳でも確認できるので、ミスが起きにくく、仕分けしながら検品もできます」とのこと。

さらに、画面には作業スピードの基準値も表示されるため、ゲーム感覚で作業できます。

データによる公平な評価と品質の標準化

ピッキングのスピード、正確性、作業時間などはすべてデータ化され、管理者が確認できる仕組みが整っています。データによる公平な評価の基盤があり、目標値と実績が可視化され、モチベーション向上にもつながっています。

「誰がやっても品質を維持できる仕組みです」と案内担当者が説明する通り、「端末を使ってバーコードをスキャンするだけ」「画面に表示された商品名や商品の写真、数量に従って商品を入れるだけ」という徹底した仕組み化も特徴です。

ベテランから新人まで、誰でも同じ手順で同じ品質を保てるよう属人化を徹底的に排除した設計となっています。これにより、教育期間の短縮と早期戦力化を実現しています。

3. 作業者への配慮が生む「働きやすさ」

システム化による効率化だけでなく、作業者の身体的・心理的負担を軽減する設備投資も徹底されています。

セグウェイで歩行負荷を軽減

コクヨサプライロジスティクスが最近導入したのが、セグウェイ型の搬送支援機です。重心移動で前進・後進し、ハンドルで方向転換します。

広大な倉庫内を歩き回る作業は、想像以上に体力を消耗します。実際、見学の最後には学生からも「結構歩く距離が長いんだなと思いました」という感想が上がりました。セグウェイは、そうした身体的負担を大きく軽減します。

「年配の作業者も積極的に乗っています」と、担当者。年齢や体力に関係なく、誰もが同じパフォーマンスを発揮できる環境づくりが行われています。

細部に宿る環境への配慮

その他にも、以下のような環境整備が行われていました。

1. 空調管理
熱中症対策は法令で義務付けられていますが、ここではそれを超えたレベルで空調管理が行き届いていました。

2. 安全面
倉庫内には白線が引かれ、歩行者とフォークリフトの動線が明確に分離されています。フォークリフトにはライトが装着され、接近を光で知らせる仕組みもあります。

3. 重量物搬送
8キロにわたって張り巡らされた搬送設備で、重量物を人が運ぶ必要性を減らしています。1階から4階まで、商品は自動的に搬送されます。

4. 「物流=重労働」のイメージを変えた体験の力

システム化された現場と働きやすい環境を実際に体験した学生たちの反応は、物流業界の人材確保における大きな可能性を示すものでした。

体験前、学生たちが抱いていた固定観念

「物流って、すごく重労働なイメージがありました」
「体力勝負で、大変な作業が多いんだろうなと思っていました」

見学前の学生たちに共通していたのは、「きつい」「重い」「大変」という印象でした。

体験後の劇的な変化

ところが、数時間の体験を経て、学生たちの言葉は一変しました。

「意外と簡単で難しくない作業が多かったです」
「私でもできそうな作業がたくさんあって、始めやすい職業だと思いました」
「結構ゲーム感覚で面白かったです」

最も象徴的だったのは、複数の学生から出た「アルバイトしたい」という言葉です。

「友達を誘ってアルバイトしてみたい」「タイミングが合えばアルバイトしてみたいです」という、ポジティブな反応が返ってきました。初心者でも戦力になれるという実感が、心理的ハードルを大きく下げたようでした。

教育者の視点——「見る」と「やる」の決定的な差

「やはり見ているのとやってみるのだと、だいぶ差があると思います」と大下教授は語ります。

今回、ゼミ生全員がいずれかの工程を必ず体験できるようにしたそうです。

「課題に取り組むにあたっても、現場を見て、それを踏まえた形での提案というのはやはり必要です」と大下教授は語ります。机上の空論ではなく、リアルな課題に向き合うことが産学連携の意義です。

また、「これまでに、講義のゲストスピーカーとしてお招きした物流業界の方々は、自分たちの仕事の意義だとか、やりがいを学生に伝えたいという熱い気持ちを持って参加してくださっています」とのこと。

その筆頭が、今回受け入れを行ったコクヨサプライロジスティクス株式会社の若林代表取締役社長だといいます。

「こういった形で学生と一緒に課題に取り組ませていただいているのは本当にありがたいです」

5. 物流企業が学ぶべき3つのポイント

今回の産学連携から、人材確保に悩む物流企業が学べるポイントは3つあります。

ポイント1:システム化による属人化脱却が、採用力を高める

「経験不要」「初日からできる」という言葉は、若年層にとって大きな魅力です。

多くの物流現場では、ベテラン作業者の勘と経験に頼っています。しかし、それは新人にとって高いハードルになります。「自分にできるだろうか」という不安が、応募をためらわせます。

システムを導入すれば、誰でも同じ手順で同じ品質を保て、教育コストも削減でき、早期戦力化も可能です。

データ管理による公平な評価も、若い世代には響きます。「頑張りが正当に評価される」という納得感が、定着率向上につながります。

ポイント2:働きやすさへの投資が、差別化要因になる

「物流=きつい」というイメージを覆すには、実際に「きつくない」環境を作るしかありません。

空調、セグウェイ、物流用の機会や設備など、こうした投資は短期的にはコストかもしれません。しかし、離職率低下、採用コスト削減、生産性向上を考えれば、十分にペイします。

「働きやすい物流」は、それ自体が採用ブランディングになります。学生たちが「アルバイトしたい」と言ったのは、まさにこの点が響いたからです。

人材難の時代、「働きやすさ」は競争力そのものになります。

ポイント3:産学連携・現場開放が、未来の人材を育てる

学生との接点づくりは、長期的な投資です。

今すぐ採用につながらなくても、「物流って面白い」という体験が、将来のキャリア選択に影響します。また、学生の視点から出てくる改善提案は、現場の固定観念を打破するヒントになります。

何より、物流の社会的意義を発信する場として、産学連携は有効です。「モノを運ぶ」だけでなく、「生活を支える」「社会を動かす」という誇りを、若い世代と共有できます。

コストや手間を考えると、現場開放はハードルが高いかもしれません。しかし、将来への種まきとして、検討する価値は十分にあります。

6. まとめ——人材確保の新たな道筋

学生たちはこれから、今回の見学や体験を踏まえて、物流現場の課題解決提案に挑みます。

「社会人の方々を驚かせるような提案をしてもらえると嬉しいです」という大下教授の期待に、学生たちは応えようとしています。

体験前は「重労働」「きつい」というイメージしかなかった学生たちですが、数時間の現場体験で、「面白い」「やってみたい」に変わりました。この変化こそ、物流業界の人材確保に必要なヒントが詰まっています。

システム化で誰でもできる仕組みを作ること。働きやすさに投資して、「きつくない物流」を実現すること。そして、若い世代に現場を開放し、実態を知ってもらうこと。

2030年問題が目前に迫る今、一社だけでなく、業界全体でこうした取り組みを広げていく必要があります。コクヨサプライロジスティクスと千葉商科大学の挑戦は、その可能性を示しています。

学生たちの今後の課題解決提案にも、大きな期待がかかります。物流の未来を変えるのは、もしかしたら、彼らのような新しい視点かもしれません。

千葉商科大学の学生たちが物流現場の見学・体験をした様子は、以下のURLから動画でもご覧いただけます!
【調査】コクヨの物流倉庫に学生といざ潜入!【コクヨサプライロジスティクス株式会社|第一話】

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