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対策を講じなければ2030年には輸送能力が約3割不足する可能性があると予測される物流業界で、人材確保と業界イメージ向上は喫緊の課題です。文具・オフィス通販事業を支えるコクヨサプライロジスティクス株式会社は、千葉商科大学との産学連携プロジェクトを展開。学生に物流現場の仕事の流れではなく「人」を見てもらう取り組みを継続しています。今回は、「自社の採用ではなく、業界全体のプレゼンスを上げたい」と語る代表取締役社長の若林智樹さま(以下、敬称略)に、産学連携の意義と物流業界の未来について、お話を伺いました。モデレーターを務めるのは、株式会社ロジテックの川村です。
物流との出会いと「物流のプレゼンスを上げたい」という想い

川村: 今日は産学連携のプロジェクトについて深掘りしていきたいと思います。このプロジェクトは、どんなきっかけで始められたのですか?
若林: 私、コクヨに入社して35年目になります。入社時は物流なんて全く想定しておらず、「物流管理部企画課です」と配属されて驚きました。当時はバブルの絶頂期で人手不足。工学部機械工学科出身だったので、物流センターの現場改善をすることになったんです。そこで物流現場で自分の力が発揮できる実感があって、「これから私は物流で仕事をしていくんだ」という思いが生まれました。
その後、カウネットという通販事業の立ち上げに関わり、ロジスティクス部長になったんですが、そこで転機がありました。カウネットのロジスティクス部に新卒社員を入れてほしいと話をしたら「新卒で採用した人が子会社の物流部門に配属されたら辞めちゃうんじゃないの?」と言われたんです。
その一言がきっかけになって、物流のプレゼンスを上げないと、この流れは変わらないと思いました。それで、新卒社員になる前の大学生にきちんと物流のことを知ってもらいたいという気持ちが出てきたんです。
産学連携プロジェクトの立ち上げ
川村: それで大学との連携を考えられたんですね。
若林: はい。大学の教授と出会う場に積極的に出入りするようになって、そこで出会ったのが大下先生です。といっても、大下先生は当時ヤマト運輸の社員でありながら明治大学に通われている時でした。その後、大下先生が千葉商科大学の先生になられるタイミングで「何かしようよ」とお誘いしたのが、取り組みのスタートなんです。
川村: 若林社長ご自身は、コクヨに入社する時に物流のセクションに行きたかったのですか?
若林: いいえ、全く。工場の生産技術に配属されるんじゃないかと思っていて、当時は物流という仕事がコクヨの中にあるなんて全く頭にありませんでした。
5年間の取り組みと「人」を見てもらう意義

川村: 産学連携プロジェクトは今年で5年目ですね。学生さんにどんな気づきを持って帰ってもらいたいですか?
若林: さっき学生さんたちには、業務の流れではなく、そこで働いている人たちを見てほしいと話しました。最近気づいたのですが、業務の流れを説明して理解してもらっても、それを持ち帰って誰かに話すことなんてないよな、と。やはり持ち帰って誰かに話したくなるような現場でありたい、と。
機械が動いているところではなく、人に関心を持って、そこで働く人たちがどういう気持ちなのかを感じ取ってもらいたいんです。結果的に「物流に取り組んでいる人たちってこういう思いなんだ」「こういうところで働きたいな」と思ってもらえるといいなと思っています。
川村: 社員と直接触れ合わせたいというのは、自信がないとなかなか言えないことだと思うんですが。
若林: 当然、社長である私は自信を持って彼らを送り出したいし、彼らを見てほしいと思っています。「我々の仕事の流れや仕組みを見てください」という社長と、「我々の社員を見てください」という社長、どっちが社員にとって響くのかなということを、最近ようやく考えるようになってきました。
社内の共感をどう得たか
川村: こういう取り組みで苦しかったことや大きな課題はありましたか?
若林: 思いは私が一番強いので、社内で共感してくれる人がいるのかが一番の気がかりでした。なのでこの千葉商科大学との取り組みも、あまり社内で「やるぞ!」と旗を上げたわけじゃないんです。ちょっとこじんまりと、社内のリソースを使わずに始めたのが第一歩でした。
でも1年目に取り組んだ後、みんなから「次も続けよう」という声が出て、ずっと続いているので、やってよかったなと思っています。
川村: 新卒社員は入社したての頃、売上も利益も生み出せない存在ですが、なぜそこに目をつけられたんですか?
若林: 世の中や物流のイメージを上げたいという思いは、おそらく当社の社員の中にもあるだろうなと。そこに響けば、みんな賛成してくれるだろうなと思って、この取り組みに目をつけたんです。
産学連携を広げるための仕組み

川村: 若林社長は、もともと大下先生とのつながりがありましたが、そうではない方が大学や学生とコンタクトする方法はありますか?
若林: 私は日本物流学会に所属したんです。それは千葉商科大学以外との接点をつくるためです。学会に所属して以降、近畿大学、久留米大学、名古屋学院とつながりを広げていきました。大学の先生が集まる場は物流学会やJILS(日本ロジスティクスシステム協会)にあります。そういった場に入っていけば、間違いなく先生との出会いの場は作れます。
学会に入ったら名簿があるので、その中からどの人がいいか調べて、この先生はどういうことを専門にしているのか調べた上でアプローチしていくんですけど、アプローチしたら今は全員OKが出てますね。
川村: それはやはりそういう取り組みへの関心が高いということですか?
若林: 先生方自身が企業にアプローチすることはあまりないと思うんです。企業側からアプローチすればかなりの確度で「一緒にやろうよ」となります。私がやろうとしているのは研究課題ではなく、学生に物流のことを知ってもらいたいという学びの場の提供なので、取り組み自体のハードルはそんなに高くないんです。
川村: この考え方が流行っていくといいですね。
若林: 今私が動こうとしているのは、今の点と点がようやく線になりそうな状態を、面にしていくことです。私だけじゃだめで、いろんな会社が同じような取り組みができる世界観を築き上げたいんです。来月、物流学会で我々の倉庫見学会があるので、そこに化粧品メーカーの物流のキーマンを呼んで、仲間を増やしていこうかなと狙っています。
経営者としての成長と視点の変化
川村: 若い頃と今とで考え方やスタンスは変わりましたか?
若林: 成長しましたよ(笑)。当時は目の前の仕事に一生懸命で、物の流れやフロー、生産性といったところに目がいっていました。でも今の立場になると、それだけじゃリーダーシップは取れない、みんなが一緒の方向を向いて進まないということがようやくわかってきて。モノの流れに注目すると同時に、人に注目することが必要なんだとわかってきました。
川村: この業界には「どうせやったって変わらないよ」という諦めを持っている方もいると思うんですが、変えられるんですね。
若林: そこは個人の力よりは組織なのかなと思っています。社長になってからも短期を追う時期と中長期で見る時期があって、今は中長期で見なさいと言われているので、全然考え方や仕事のやり方が変わってきています。今は特に社員のモチベーション、組織風土に力を入れることを求められているので、ようやく従業員満足度(ES)といったところを見ることができるようになりました。
大学・メディアへの期待と未来構想

川村: 今後の目標や青写真はありますか?
若林: 産学連携の取り組みを広げると同時に、大学側や先生方がどう変わっていくのか、メディアがどう変わっていくのかがポイントです。メディアに関して言うと、2024年問題を社会課題として取り上げてくれるのはいいんですけど、どうしてもネガティブにフォーカスして「マイナスを0にしよう」という報道なんですよね。
物流にも誇りを持って働いている人たちはいるのに、そこにフォーカスする量が少なすぎるのではないか、という思いが強くあります。長年働いている人たちもいるんです。何かしら誇りを持って働いている人たちに我々は支えられているので、そーゆーところにメディアもフォーカスして、ネガティブ発信じゃなくポジティブの量を増やそうよというのが私の思いです。
川村: 大学の先生に対して期待している変化はどのあたりですか?
若林: 先月、物流学会に初めて参加してわかったのは、大学の先生方はあまり横のつながりで連携するのは得意ではないんだなと。自分たちのやっていることで学生の物流に対するイメージが良くなったかどうか、ということはあまり頭の中にないんです。
そこで私、先生の発表後に「皆さんがゼミで物流のことを教えているのはわかるんだけど、それによって学生たちが物流のイメージがどう変わったのかを数値化できないんですか?」とお伺いしました。大学の先生が自分の研究の事だけでなく、物流のイメージを良くしていることが数値で出てくると、先生方の評価や指標にもなるんじゃないかと。
川村: 入口と出口で同じ質問をぶつけて意識の変化を見るのは面白そうですね。
若林: たとえば、大下先生のゼミに入る前にとったアンケートと終わった時のアンケートで、イメージの変化だけじゃなく、結果的に物流職にどれぐらいの学生が就いたかという数字も取れてくると、「ここの大学のこの先生は物流に強い」と明確になります。そうすると物流の仕事をしている人事がアプローチしにいくわけです。そういう循環がうまく回るといいなと思います。
もっと要求したいのは、頑張って「物流・ロジスティクス学部」みたいなものを作ることです。日本は物流を学ぶ大学があまりないんですよね。韓国に行くと結構あったりするんですよ。先生方を上手く、仲間に引き込んで、物流・ロジスティクス学部をつくるところまで踏み込んでいけると、私はやり残したことがないなという感じですね。
自社の採用を超えた「志」の力
川村: そこまでされていて、御社は新卒採用はされてないんですよね。単純に業界のために動かれていて。単刀直入に聞きますが、なんでそんなにいい人なんですか?
若林: きっかけは冒頭の採用の話ですが、やり始めてみると共感してくれる人が結構いるんですね。物流業界で働いている人から「すごいですね」と言われたり、うちの会社の社員からも「この考え方に共感したから入社した」と言われたり。共感を呼び起こす力のある志だから、仲間やつながりができるんです。
自分の会社のためというわけではなくとも、そういうつながりができることで、物流業界も何か新しいことができるので、私は自分の会社のためというところにあまり特化していません。
コクヨサプライロジスティクスの今後

川村: 最後に、御社として今後のビジョンをお聞かせください。
若林: コクヨのビジネスサプライ事業、特に通販を中心とした事業を支える部門として今重要な役割を担っています。来年2026年の秋に新しいセンターを作る予定で、そこは結構な物流投資をした、人手不足を解消するようなセンターに作り上げようとしています。本当に働いている人に優しくて、さらに世の中に誇れるような物流を手がけているコクヨだということが外に向けて発信できるようになればいいなと思っております。
川村: いろいろな取り組みの集合体で、会社としてのブランディングがまたできあがっていかれると思います。今日はありがとうございました。
コクヨサプライロジスティクス株式会社さまとの対談の様子は、以下のURLから動画でもご覧いただけます!
【対談】文具メーカー「コクヨ」が大事にしていること。物流のプレゼンスを上げるためにはどうしたら良い?【コクヨサプライロジスティクス株式会社|第二話】
企業プロフィール
会社名:コクヨサプライロジスティクス株式会社
本社所在地:大阪府大阪市東成区大今里南6丁目1番1号 コクヨ本社ビル5階
設立:2007年7月




