改正トラック法による「再委託2回以内(実質2次下請け)」努力義務と多重下請け是正——多重下請け構造がもたらす運賃・労務・コンプラリスクの可視化

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2026年4月1日、貨物自動車運送事業法の改正により、「再委託2回以内(実質2次下請け)」の努力義務化が施行されます。改正法の施行まで残り4ヶ月を切った今、多くの物流企業から「努力義務とはいえ、どこまで対応すべきか」「実運送体制管理簿の作成負担が大きい」といった声が聞こえてきます。

しかし、この法改正を単なる事務負担の増加と捉えるのは誤りです。むしろ、多重下請け構造がもたらしてきた「運賃の不透明性」「労務リスクの増幅」「コンプライアンスの空洞化」という3つの深刻な問題を可視化し、業界全体の健全化を図る千載一遇の機会なのです。

本記事では、改正トラック法の実務的なポイントを押さえながら、多重下請け構造が生み出すリスクの本質を明らかにし、経営層・管理職が今すぐ取り組むべき対応策を提示します。

1. 改正トラック法のポイント:「再委託2回以内」努力義務とは何か

貨物自動車運送事業法の改正により「再委託2回以内(実質2次下請け)」の努力義務化が2026年4月1日から施行されます。努力義務までの流れや、義務の内容など、ポイントをおさえていきましょう。

1-1. 法改正の全体像と施行スケジュール

2025年4月1日施行済み
・実運送体制管理簿の作成義務化(元請事業者)
・運送契約の書面交付義務
・運送利用管理規程の作成義務(一定規模以上の事業者)

2026年4月1日施行予定
再委託2回以内(2次下請けまで)の努力義務
・違法な白トラ事業者に運送委託した荷主等も処罰対象(罰金が科され得る)
・元請事業者への行政処分・社名公表

▶今後施行予定
公布(2025年6月)から概ね3年以内を目途に、許可更新制度や適正原価(運賃・料金)の考え方、処遇確保に関する措置が段階的に施行される見込みです。

1-2. 「再委託2回以内」の具体的な意味

再委託2回以内とは、元請が引き受けた運送を再委託する場合に、委託の階層を「元請→1次下請→2次下請」までに抑えるよう努めるものです。

対象は貨物自動車運送事業者および貨物利用運送事業者です。現時点では「努力義務」ですが、実運送体制管理簿により取引構造が可視化されることで、多重下請けを常態化させている事業者は行政指導や監査の対象となりやすくなります。

全日本トラック協会の提言でも、業界全体として2次下請までの制限を自主的に実施することが求められています。「努力義務」という表現から「守らなくても罰則がない」と解釈するのは危険です。

2. 実運送体制管理簿は多重下請け構造の「可視化装置」

次に、実運送体制管理簿の基本や重要性、実務ではどのように対応していけば良いかについて、順番に解説していきます。

2-1. 実運送体制管理簿の基本

2025年4月から義務化された実運送体制管理簿は、多重下請け構造を「見える化」するための管理ツール。作成義務者は、真荷主から直接運送を受託した元請事業者です。

記載必須事項:

実運送体制管理簿には、少なくとも「実運送事業者名」「貨物の内容・運送区間」「請負階層(一次・二次等)」を記載します。対象は1荷主の1運送依頼あたり重量1.5t以上で、運送完了日から1年間保存が必要(デジタルデータでの保管推奨)です。

2-2. なぜ実運送体制管理簿が重要なのか

実運送体制管理簿には3つの重要な狙いがあります。

(1) 多重下請け構造の実態把握

これまで不透明だった「荷主→元請→?→?→実運送事業者」という取引構造が明確化され、請負階層が可視化されます。

(2) 運賃適正化の基盤づくり

公益社団法人全日本トラック協会(全ト協)の調査では、標準的な運賃を希望額通りに収受できている事業者は全体のわずか2割。管理簿により「どの階層でどれだけ運賃が減額されているか」が可視化され、不当な運賃据え置きに対する是正指導の根拠となります。

(3) 労務管理・安全管理体制の明確化

実運送ドライバーの労働時間管理責任が明確になり、2024年4月から適用された時間外労働の上限規制(年960時間)の遵守状況を元請・荷主が把握できます。

2-3. 実務負担への対応策

「取引条件の変動が多く、その都度管理簿を作成するのは中小事業者には負担が大きい」という課題に対しては以下のような対応策が挙げられます。

  • デジタル化の推進:配車システムとの連携により入力を自動化
  • 定型取引のマスター化:常時取引先の基本情報を登録し、可変情報のみ入力
  • 下請事業者との情報共有:再委託先から必要情報を事前に受け取る仕組みを構築
  • 社内体制の整備:配車・営業・事務部門を含めた管理体制を構築

3. 多重下請け構造がもたらす3大リスクの可視化

続いて、多重下請けに潜むリスクについて解説していきます。

3-1. リスク①:運賃の不透明性と収益性の悪化

構造的な運賃減額のメカニズム

多重下請け構造では、取引が階層を経るごとに中間マージン(利用運送手数料)が差し引かれます。告示で定められた利用運送手数料は運賃の10%ですが、実態は以下のようになっています。

【運賃減額の実例】

  • 荷主支払運賃:100,000円
  • 元請事業者受取:100,000円(手数料10,000円を差し引き)
  • 1次下請受取:90,000円(手数料9,000円を差し引き)
  • 2次下請(実運送)受取:81,000円
  • 3次下請(実運送)受取:約70,000円前後

全ト協の資料でも、「孫請け、ひ孫請けの中小・零細事業者がもらえるのは、荷主が払った運賃から3、4割は減額されたもの」と指摘されています。これでは燃料高騰や人件費上昇に対応できず、適正な労働対価を支払うことも困難です。

結果として、ドライバーの賃金水準が全産業平均を下回り、人材確保が困難になり、安全投資・車両更新・DX投資などの余力もなくなります。

3-2. リスク②:労務管理の空洞化と2024年問題

多重下請け構造では、実際に運行するドライバーの労働時間・休息時間の管理責任が曖昧になります。元請や荷主は「下請に任せている」、下請は「さらに再委託しているので把握していない」という状況が発生します。

2024年問題との関連:

  • 元請・荷主が実運送ドライバーの拘束時間を把握できない
  • 運賃が低いため、中継輸送や交代運転士の配置などの対策が取れない
  • 無理な運行計画による法令違反のリスクが増大
  • 過労運転による重大事故のリスク

労働基準法違反や改善基準告示違反が発生した場合、元請事業者や荷主にも責任が及ぶ可能性があります。

3-3. リスク③:品質管理・安全管理の機能不全

多重下請け構造では、取引が階層を経るごとに以下のような問題が起こりやすくなります。

  • 荷主の要求品質が正確に伝わらない(伝言ゲーム化)
  • 温度管理・振動管理など特殊輸送の基準が曖昧に
  • 事故・トラブル発生時の責任の所在が不明確
  • 再発防止策が実運送事業者に届かない

具体的には、冷凍・冷蔵品の温度逸脱による商品廃棄、精密機器の破損、配送遅延によるサプライチェーン全体への影響、情報漏洩などのリスクが増大します。

4. 元請事業者が今すぐ取り組むべき実務対応

元請事業者が今すぐ取り組むべき実務対応についても確認していきましょう。

4-1. 法令遵守の体制づくり

(1) 実運送体制管理簿の運用定着

配車システムへの組み込み、記載漏れ・誤記載のチェック体制構築、再委託先からの情報収集フローの確立を進めます。

(2) 再委託先の精査と契約見直し

現在の再委託構造を可視化し(何次請けまで発生しているか)、3次請け以降が常態化している取引を見直します。再委託基準を明確化し、価格だけでなく安全性・法令遵守状況を評価します。

(3) 社内教育の実施

配車担当者・営業担当者への改正法の周知と、コンプライアンス意識の醸成を行います。

4-2. 取引構造の最適化

(1) 直接取引の拡大 

実運送事業者との直接契約を増やし、中間マージンを削減します。これにより、実運送事業者への適正運賃の支払いが可能になり、運行管理・品質管理の精度が向上します。

(2) 協力会社ネットワークの再構築 

長期的なパートナーシップを結ぶ協力会社を選定し、繁閑に応じた柔軟な配車体制を構築します。情報共有プラットフォームを導入し、運行状況・貨物情報のリアルタイム共有を実現します。

(3) 運賃交渉力の強化 

全ト協の提言では、「元請運送事業者は、荷主から標準的な運賃に加えて、利用運送手数料10%を収受するための交渉を積極的に行うべき」とされています。運賃の内訳を明示し、コスト増加要因を定量的に説明することで、荷主との信頼関係を構築し価格交渉を実現します。

4-3. 持続可能な経営基盤の構築

配車システムの高度化(AIによる最適配車)、デジタルタコグラフとの連携、実運送体制管理簿のデータ分析による取引構造の最適化を進めます。適正運賃の確保により、ドライバー・配車担当者の処遇改善を実現し、人材の定着と採用力の強化を図ります。

また、物流効率化法の改正により荷主にも課された「物流効率化に取り組むべき事項」に対応し、荷主と連携した荷待ち時間の削減、積載効率の向上、輸配送ルートの最適化を推進します。

5. 荷主企業が理解すべきこと:共存共栄の物流パートナーシップ

最後に、荷主企業が理解すべきことについてまとめていきます。

5-1. 荷主責任の明確化

2025年4月施行の改正法では、荷主に対しても運送契約の書面交付、物流効率化への協力(努力義務)が課されています。2026年4月からは白トラ(無許可事業者)利用に対し100万円以下の罰金が科されます。

5-2. 荷主が取り組むべき実務対応

(1) 適正運賃の理解と支払い 

「安ければ良い」という発注姿勢は、業界全体の持続可能性を損ないます。標準的な運賃の意味を理解し、元請事業者が利用運送を行う場合は利用運送手数料(10%)を別途支払うことが望まれます。

(2) 物流効率化への協力 

荷待ち時間の削減(予約受付システムの導入)、積載効率の向上(梱包サイズの標準化)、リードタイムの適正化(短納期発注の見直し)を進めます。

(3) 実運送事業者の把握 

実運送体制管理簿により、自社の貨物を実際に運んでいる事業者を把握し、直接コミュニケーションを取ることで品質向上・トラブル防止につなげます。

多重下請け是正は業界全体の生存戦略

2026年4月に施行される「再委託2回以内」の努力義務は、トラック運送業界にとって大きな転換点です。この法改正を単なる規制強化と捉え、最低限の対応で済ませようとする姿勢では、業界の未来は開けません。

多重下請け構造は、運賃の不透明性、労務管理の空洞化、品質・安全管理の機能不全という3つのリスクを生み出し、業界全体の持続可能性を脅かしてきました。今回の法改正は、これらのリスクを可視化し、健全な取引構造へと転換する千載一遇の機会です。

多重下請け構造の是正は、一朝一夕には実現しません。しかし、2026年4月を起点として、業界全体が一丸となって取り組むことで、「実運送事業者が適正な運賃を収受し、ドライバーが誇りを持って働ける業界」への道が開けます。

あなたの会社は、この変革の波に乗り遅れていませんか? 今こそ、自社の取引構造を見直し、持続可能な経営基盤を構築するときです。

【参考資料】
・国土交通省「改正貨物自動車運送事業法の解説」
・全日本トラック協会「多重下請構造のあり方に関する提言」(令和6年3月)
・国土交通省「実運送体制管理簿の作成・情報通知の義務化」
・物流ニッポン「二次下請け制限と白トラ規制、4月から」(2025年11月21日)

編集部のひとこと

「再委託2回以内」がもたらすのは、取引構造の“選別”かもしれない

「再委託2回以内」は回数の問題というより、これまで曖昧だった取引構造を可視化する制度です。見える化が進めば、誰が運び、誰が価値を生んでいるのかもはっきりしてきます。


その結果、これからの物流では「単に運べる会社」よりも、直接取引を持つ企業や、特定の輸送品質・ネットワークを持つ企業が選ばれやすくなる可能性があります。


中小の物流企業にとって重要なのは、この変化の中で自社がどの立場で価値を発揮するのかを考えておくこと。制度対応だけで終わらせず、自社の役割を見直すきっかけにできるかどうかが、これからの分かれ道になるのかもしれません。

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