物流現場取材シリーズ【40】キリンビールが描く業界協調と2035年ビジョン

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2026年2月、株式会社ロジテック主催で「第2回ロジパレフォーラム」を開催しました。テーマは「物流改革の現在地とこれから 法改正がもたらす"実装のリアル"」。2024年に施行された物流二法改正を受け、官公庁、荷主、物流事業者、研究者が登壇し、制度の実装における現場の課題を掘り下げました。

登壇者の一人が、キリンビール株式会社 生産本部 SCM部長 林達也氏です。

全国9工場から災害時も途切れることなく日本全国にビールを届け続けるキリンビール。同社はアサヒビールやサントリーとの共同配送・共同倉庫、デジタル技術を活用した需給最適化システム「MJ(未来の需給)」の導入など、業界の垣根を越えた改革に挑戦しています。 

今回は、ウェビナー終了後に林氏(以下、敬称略)に、飲料メーカーならではの物流課題と、2035年に向けたサプライチェーンビジョンについて、お話を伺いました。

キリンビールにとっての物流――ブランド価値を支える基盤

――まず、キリンビールにとって物流はブランド価値のどういった部分を支えているのでしょうか。

林: すごくいい質問ですね。やっぱりキリンビールに入って思うのは、キリンビールの商品って、おそらく北は北海道から南は沖縄までどこにでもありますよね。そこを今、私どもで全国に9つのビール工場がありますけども、そこで作って、本当に全国くまなく商品をお届けできている。しかも切らさずにね、どんな災害があっても全国あまねくお届けしているって、個人的にはすごいなって思っています。私は会社に入って今35年になりますけど、ここは誇れるところなのかなというふうにも思っています。

24年ぶりの物流部門復帰で見た変化

――24年ぶりに物流部門に戻られたとのことですが、当時と今とで何か変化を感じますか。

林: 私が30代前半で物流部門に配属された時は「運んで当たり前」の時代でした。運べなかったら営業に怒られていました。だからモチベーションとしては、正直なところ「早く異動したい」そういう本音があったんですけど(笑)。それから今、24年ぶりに物流部門に戻ってきたんですよ。

今感じることは、「作って運ぶのが当たり前じゃないか」というのが私の中にあったんですけど、大きく環境が変わった中で、そういうことが今もできているというのがすごいと思います。ただし、今は運べてますけど、この先、5年後、10年後、本当に全国くまなく商品を提供できるのかっていうことを考えると、やっぱり今から手を付けないといけない。良い商品を一生懸命全国で作っていただいているんです。我々もそれを届けるために、今から仕掛けておかないといけないんです。

――実際に現場を回られたそうですね。

林: 9工場、あと蒸留所全10カ所、物流現場を回りまして、本当にドライバーさん不足ですね。あと構内の作業員の方がなかなか採用できないという現場の悩みを聞きました。

物流は「運んで当たり前」でしたから、いわゆる物流の価値っていうのが、相対的に低く見られていた部分があったと思うんです。24年ぶりに物流に戻ってきて感じるのは、物流業界の現状を鑑みると、キリンビールの経営にとって常に重要でなければならないということです。社長を含め、物流とかサプライチェーンに対する問題意識、課題認識というのは非常に高いと感じます。

飲料メーカーならではの物流課題

――飲料メーカーだからこその物流の難しさとか、課題みたいなのはありますか。

林: 飲料メーカーとしては、重くて大きいものを運んでいるので、そこがこれから先、ますます厳しくなるんだろうなって思うんですよ。それに加えて、やっぱり繁閑差(はんかんさ:需要の波)があるんですね。ずっと一定じゃないんですよ。これは多分、飲料物流ならではかもしれませんね。

業界の垣根を越えた協業の必要性

――他のビールメーカーさんも同様の課題を抱えていると思いますが、どういう取り組みをされていますか。

林: だから今、ビールメーカーでは全体での共同配送に既に取り組んでいます。これから先は、特に地方部なんかは一緒に配送をしなければいけない時代になるんだろうなと思います。あとは倉庫も、今はそれぞれ各社単独で持ってますけど、やっぱり共通化して少しでも効率良くやっていくことが求められるんだろうなというふうに思っています。

実際、今、アサヒさんとは共同の倉庫で管理しています。共同配送ではないんですけど、共同倉庫からそれぞれ配送するということをやっているところです。そういう状況が、地方でさらに広がっていくんだろうなと思います。今は共同倉庫が金沢にあって、あと東京ではサントリーさんと3社で共同配送しています。もうこれは必須だと思います。

――今回のウェビナーでも、協業の必要性が語られていましたね。

林: メーカー同士、荷主とメーカー、卸、それぞれが何をやらなきゃいけないかを考えて、やっぱりそこを連携してやらないとだめだと思います。例えば緊急時は運べないところは卸さんに運んでもらうとか、何かあったらみんなで商品をお届けするという、そういう発想です。他業界ともコラボしながら縦、横、水平でやらなきゃいけないだろうし、やっていく。

この領域はマーケティングと違って、協調領域だと思うんですよ。競争ではなく共に創る。そういう意味でいろいろこれからやりようがあるんじゃないかなと。

――とはいえ、実現には難しさもあるのではないでしょうか。

林: やっぱありますよね。それぞれの思惑というか、利害関係っていうところがあると思うので、それはあると思います。我々も、自社の利益を考える部分はあると思うんですけど、個人的にはやはり多少不利になっても、それが世の中に良くなるのであればやるべきかなって、今は思っています。直接キリンビールの利益に繋がらなくても、それが世の中全体に良い影響を与えるのであれば、結果としてキリンビールも良くなると思うんですよね。

デジタル化による需給最適化――未来の需給MJ」

――今後キリンビールが考える理想のサプライチェーン像について教えてください。

林: そうですね。例えば、今取り組んでいるのは、いわゆる需給計画です。今までは全部アナログでやっていたんですね。

私どもは今、9工場でいろんな商品を作っているのですが、どの工場で、何を、いつ、どのように作って運ぶのがいいのかっていうことをやっていますけど、人間の限界があって、労働時間も結構長くなっていたりするんですよ。そこをデジタルの力を借りて今やろうとしていて。

その仕組みが12月1日にグランドオープンしまして、MJ(エムジェイ)と言っているんですけども。未来の需給「MJ」です。今はまだ慣れない部分もあるので試行錯誤していますけれども、だいぶ成果が出てきていると。

需給計画の精度も上がるし、メンバーの労働時間や作業時間が減って、少しでも考える時間を創出できる、というふうになり始めています。

その領域もデジタルの力を借りて、もっと効率化して、もっと需給精度を高めたり業務品質を上げたり、そういう取り組みをやろうとしています。

物流現場への感謝と処遇改善

――物流現場で働くドライバーや、拠点の皆さんに日々感じることはありますか。

林: 私が九州統括を担当していたとき、コロナど真ん中だったんです。そのとき、福岡工場の皆さんとか、ドライバーさん、作業員の皆さんが危険を顧みず現場で作業をしている様子を目の当たりにしたんです。商品を作って配送していただいている現場の皆さんに、心から感動したんですね。

それで今回も現場を回って、一生懸命頑張っていただいている現場の皆さん、トラックドライバーの皆さんには本当にもう頭が上がりませんね。彼らがいるからこそキリンのブランドがあるというふうに思ってます。

――待遇改善についてはどのようにお考えですか。

林: もうそれは、私も絶対必要だと思うので、そういうところは最優先でやっぱりやるべきだと思います。

グループ全体で連携しながら、上げるべきところまで。やっぱり私としてはしっかり経営に説明をしようと。しっかりと伝えるのが私の役目なんでね。そのことを言う人がいないといけないんです。

2035年ビジョン――日本の物流をリードする

――最後に、物流業界に対するメッセージをお願いします。

林: 私が部門に戻ってきたのは2021年でして、それで成果を上げてまいりましたけれども、まだまだ世の中的に見れば全然だと思っているんですね。2035年のビジョンとして、サプライチェーンの未来を切り開いてキリンの事業と日本の物流・社会をリードする。そういうビジョンをみんなで考えて作り上げました。

まだ全然そこには到達していないですけども、10年後そうなっていたいということです。これは私たちの志なんです。その思いを持ちながら、自社の利益も大切ですが、日本の社会課題解決というところに少しでも、キリンビールとして、キリングループとして、お役立ちできればいいかなって思います。

キリンビール株式会社 林さまへのインタビューの様子は、以下のURLから動画でもご覧いただけます!

  【特別インタビュー】「日本の物流をリードする存在になる!」キリンビールの覚悟に迫る!【第2回ロジパレフォーラム After Session|Vol.3】

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   物流改革の現在地とこれから〜法改正がもたらす“実装のリアル”〜

企業プロフィール

会社名:キリンホールディングス株式会社

本社所在地:東京都中野区中野四丁目10番2号中野セントラルパークサウス

設立:1907年(明治40年)2月23日

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