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目次
- 医療メーカー4社が東日本で共同配送を開始
- 競合同士が物流で協業する新たな動き
- 共同配送は運送負担の軽減だけでなく、物流企業の役割変化も示唆する取り組み
物流の人手不足やコスト上昇が続くなか、荷主側でも「運び方」を見直す動きが見られています。実際に2026年2月3日、医療機器・医療用品メーカー4社が東日本エリアで共同配送を開始しました。競合同士でありながら物流領域で協業し、安定供給と効率化の両立を狙う取り組みです。
本記事では共同配送の概要と背景、運送負担の軽減イメージを整理したうえで、今後の物流業界への影響を考察します。
医療メーカー4社の共同配送とは?

2026年2月3日から医療機器・医療用品メーカー4社が、東日本エリアで共同配送を開始しました。
<共同配送を開始した医療メーカー4社>
・アルケア株式会社
・川本産業株式会社
・株式会社ジェイ・エム・エス
・日本シグマックス株式会社
※五十音順
今回の共同配送は、各社物流センターから商材を1拠点に集約したあと、それぞれの納品先へのトラックを1本化して配送するというものです。

本取り組みは、共同配送を開始した4社を含む、計7社で構成されている「医療流通対策研究会」の施策の第一弾として実施されたもの。まずは限定エリアからスタートし、今後は取引先や対応エリアの拡大も検討が予定されています。
参考:医療メーカー4社による国内医療用製品物流における共同配送を開始 ~「医療流通対策研究会」を設立し、持続可能な医療・ケアを目指す~
医療メーカー4社が共同配送をスタートした背景

今回の4社共同配送は「持続可能な医療・ケア」を目指して行われている取り組みです。その背景をもう少し詳しく確認していきましょう。
1.医療業界特有の配送特性
まず医療用製品は、人の健康や命に関わる商材であり、流通の過程を含め、納期厳守の安定した供給が欠かせません。さらに、災害・感染拡大・急な需要変動などの発生、患者さまの体調の変化などによっては、緊急対応やイレギュラー対応が求められるケースもあります。
医療業界において「安定供給」は社会的使命の一つであり、それを支える要素の一つが物流(配送)。今回の共同配送は、安定供給を支えるためにとられた施策と言えます。
2.2024年問題による輸送力の制限
4社の共同配送が実現した背景には、物流における2024年問題も深く関わっています。
物流における2024年問題とは?
2024年4月からドライバーの時間外労働に上限規制がされたことで、労働環境改善が進む一方、輸送力不足により「モノが運べなくなる」リスクや運賃高騰、ドライバー収入減少、長距離輸送の困難化などが指摘されている社会問題。つまり、ドライバーの労働環境の変化や人手不足の深刻化により、従来と同じ輸送量を維持するのが難しくなってきているのを、医療業界でも重要度・緊急度が高い問題として認識されているのです。今回の共同配送は、安定供給を続けるために、積載率の向上やルート最適化の見直しを行った結果とも言えます。
3.物流コストの上昇と環境への配慮
そして、物流コストの上昇と環境への配慮も4社共同配送が実現された背景の一つ。
物流を取り巻く要素である燃料費や人件費の高騰などにより、物流コスト全体が年々上昇しています。また、SDGsの観点から、二酸化炭素の削減は業界に関わらず、企業にとって持続可能な経営と企業価値向上に不可欠な取り組みです。
そのため、物流コストの抑制やトラック台数の軽減による二酸化炭素削減も期待して、4社の共同配送が実施に至っています。
医療メーカー4社による共同配送で運送負担はどのくらい軽減できる?

続いて、医療メーカー4社による共同配送で運送負担はどのくらい軽減できるかも考えてみましょう。医療業界では「メーカーの物流センター→医療機器ディーラー(代理店)→医療施設」が国内における代表的な商材経路です。今回はこの流れのうち「メーカーの物流センター→医療機器ディーラー」で、同一エリアに同頻度で納品するケースを想定して概算していきます。
まず、従来はディーラーへの配送を各社それぞれで行っていました。例えば、Aメーカーからディーラー5社に同時配送するなら、最低5台のトラックが必要であり、同じ配送をBメーカー・Cメーカー・Dメーカーの3社も行えば、5台×4社分=20台必要です。

一方、今回の共同配送は各社物流センターから商材を1か所に集め、そこからそれぞれのディーラーに配送することになります。そのため、各社物流センターから集約倉庫に運ぶ分が4台、ディーラー5社へ配送する分が5台で、計9台。

現場ではここまで簡単な計算でないにしても、最適化ができれば、従来の配送方法と比較してトラック台数は約半分まで削減できる可能性があるのです。
共同配送を行う4社は競合同士

今回の取り組みで特に注目すべきは、参加企業が商材やサービスにおいて競合関係にある点です。通常であれば、市場シェアを巡って競争する関係にある各社。しかし物流というインフラ領域では、競争よりも安定供給の確保を優先した結果が、今回の4社共同配送です。
「商品や営業活動では競争を続けながら、物流では協業する」という競争と協業を分けた考え方は、今後の産業構造を考えるうえで象徴的な動きと言えるでしょう。
また、医療ニーズが細分化・多様化するなか、単独企業だけで供給体制を維持するには限界があります。共同配送は、効率化策にとどまらず、医療業界の安定供給体制を再構築する取り組みと言えます。
今後の物流業界・企業への影響

そして今回の医療メーカー4社の共同配送は、物流業界全体に示唆を与える事例です。予測できる今後の影響について解説していきます。
1.荷主間連携は今後増える
大前提として、物流はあらゆる産業に不可欠な基盤です。輸送力が限られるなか、同一エリア内での重複配送を削減する動きは、他業界にも広がる可能性が高いです。
また「競合とは協力しない」という考え方はすでに古く、今後は「基盤部分は協業で最適化する」という発想へ。よって、荷主間連携は今後も増加していくと考えられます。
2.物流企業は“運ぶだけ”では生き残れない
あらゆる業界で共同配送が進めば、物流企業に求められる役割は単なる輸送業務にとどまりません。例えば、物流に特化しているからこそ、以下のような価値提供はより求められる可能性があります。
<荷主から求められる価値の例>
・荷主間の調整
・データ共有・管理
・配車・積載の最適化
・配送ネットワークの設計
複数の荷主をまとめたり、共同配送などの配送方法を提案したり…。中小物流企業が生き残っていくためには「物流設計のパートナー」に視点を変えるのも大切です。
3.地域単位での共同配送の可能性
地域密着型の物流企業にとっては、新たな機会が生まれる可能性もあります。エリア内の荷主を束ね、効率的な配送網を構築できれば、ハブとしての役割を担うこともできるでしょう。
地域単位での連携モデルは、今後の有力な選択肢の一つです。
まとめ

医療メーカー4社による共同配送は、物流効率化の枠を超え、供給体制そのものを再設計する動きと言えます。
「競合同士でも、安定供給という共通目的のもとで協業する」との考え方は、今後さまざまな業界へ広がる可能性があります。
物流業界にとっても、個別最適から全体最適へと視点の転換が求められます。連携と設計力が、新たな競争力となる時代が到来しているのではないでしょうか。




編集部のひとこと
今回のニュースは「物流は競争の道具ではなく、社会基盤である」というメッセージを強く感じさせるものでした。また、これは医療業界に限った話ではなく、物流を「自社最適」から「業界全体最適」へと再設計する流れの始まりとも言えます。その判断は、輸送力が限られる時代における合理的な戦略で、企業間連携を前提とした物流モデルは今後広がっていくでしょう。
一方で、共同配送や荷主間連携が進めば進むほど、その枠組みに加われない荷主が取り残される可能性もあります。輸送力が限られるなかで、大口や連携グループが優先され、個別対応の企業ほど調達や配送の確保が難しくなる事態が起こらないとは言い切れません。
だからこそ物流業界に期待される役割は、単に効率を追求するだけでなく、連携の輪からこぼれ落ちる企業をどう支えるかなど、業界全体を俯瞰したネットワーク設計が必要です。それにより、抜け漏れのない供給体制を荷主と連携して築くことが、これからの物流企業に求められる使命ではないでしょうか。
共同配送は、効率化の手段であると同時に、物流の社会的責任を問い直す取り組みでもあります。自社はその変化のなかで「どの役割を担うのか」を改めて考える時期に来ているように感じます。