
今回は物流業界の2030年問題について解説します。この記事では、2024年問題との関係性をはじめ、物流会社にどのような影響を及ぼすものなのか解説しています。また、政府の方針までご紹介しているため、今後の物流の在り方について知りたい方は記事をご参考ください
2024年からの働き方改革関連法の施行により、時間外労働の上限規制が適用されて輸送能力の低下が懸念されました。また、物流業界に追い打ちをかけるように2030年問題が待ち受けています。
輸送能力を確保できなければ物流インフラの停滞や混乱を招くため、政府の方針を把握して早急に対策を講じることが不可欠です。今回は2030年問題について詳しく解説します。政府の対策から考える今後の展望までご紹介するため、企業が持続的に発展するためのヒントとしてお役に立てれば幸いです。
2030年問題とは、2030年頃に65歳以上の人口が総人口の約3割を占めることで表面化する、社会全体の深刻な課題を指します。

内閣府『令和6年版高齢化社会白書[4] 』によると、2023年10月1日時点の日本の総人口は1億2,435万、高齢化率(65歳以上の割合)は29.1%達し、2030年には高齢化率が30.8%に上昇すると予測されています。高齢化社会は経済の根幹を揺るがすもので「個人」「地域」「企業」に悪影響を及ぼすため、企業も自分事として捉えて対策を考えていかなければなりません。
個人 | 長時間労働の常態化により、ワーク・ライフ・バランスが悪化[5] 社会保障負担の増加により、手取り収入が減少[6] 経済的な不安から、結婚・出産を控える世帯の増加など[7] |
地域 | 医療・介護従事者の不足によりサービスが困難に 自治体の財政難で、公共施設やインフラの維持が困難に[8] コミュニティの共助機能が低下など[9] |
企業 | 生産年齢人口が減少により、人手不足が深刻化 人材獲得競争の激化で採用・雇用コストが増大 ビジネス競争力の低下により業績悪化や倒産の増加など |
物流業界における2030年問題とは
物流業界では、2030年に向けて人材採用が更に難しくなることが予想されています。

厚生労働省の「一般職業紹介状況(令和7年1月分)」によると、全業界の有効求人倍率は1.26であるのに対し、物流業界の有効求人倍率は3.27となっています。[11] 2025年1月時点でも人材獲得競争は既に激化していますが、今後も加速する見込みです。
企業は基本給のベースアップや福利厚生の充実を進めているため、人件費の高騰は避けられないでしょう。したがって、人材採用や離職防止に力を入れる必要があります。
2024年問題との関係性
物流業界は2024年問題に直面しました。

出典:「建設業・ドライバー・医師の時間外労働の上限規制 特設サイト」(厚生労働省)
2024年4月からドライバーの時間外労働が原則45時間以内、年360時間(特別条項:年960時間)に制限されることにより、長距離走行が難しくなり輸送能力の低下が問題となっています。
労働環境を見直すことで荷待ち時間や荷役時間を削減することは可能ですが、輸送能力の向上には限界があります。
長距離配送を実現するためには、新たな拠点の立ち上げや1車2人制の導入が必要不可欠です。つまり、ドライバーの採用・育成が欠かせません。しかし、労働人口の減少に伴い人材獲得競争は激化しています。そのため、ドライバー採用は容易ではなく大きな課題となっています。
2030年問題が物流会社に与える影響

2030年に向けて、物流業界ではどのような問題が発生するのでしょうか。ここでは、2030年問題が物流会社に与える影響を見ていきます。
物流コストの上昇[13]
物流業界のドライバー不足は深刻な問題となっており、政府はドライバーの賃金を10%引き上げる方針を打ち出すなど人材流入を促進しようとしています。[14]
また、全日本運輸産業労働組合連合会も春闘においてドライバーの賃上げを要求しています。[15]
つまり、物流会社はドライバーの賃上げを行わなければ人材採用が難しくなっている状況です。そのため、燃料価格の高騰が問題となっていますが、人件費と相まって物流コストの更なる上昇は避けられない状況にあります。
人材獲得競争の激化
人材獲得競争はますます激化しており、企業は人材採用や離職防止に一層注力しなければなりません。
例えば、採用活動では採用サイトやSNSを活用するほか、ダイレクトリクルーティングやリファラル採用といった多様な手法を駆使する必要があります。
最近では、物流センターの見学会や若手社員との交流イベントを開催し、内定辞退率や採用ミスマッチの改善に取り組む企業も増えています。[17]
さらに、入社後に長期的に働いてもらえるよう、適切な人材育成や評価制度、適材適所の人材配置も不可欠です。このように、人事採用や定着の取り組みを強化し、ドライバーを確保していくことが重要となってきています。
サービス品質の低下
人手不足が改善されず、限られた人数で業務を回さなければならない状況が続くと、サービス品質の低下が懸念されます。
例えば、少人数での業務運営では荷物の取り扱いが雑になりやすく、その結果、誤配送や配送事故(破損・紛失)が増加してしまうのです。
また、お客様からの苦情が発生しても、カスタマーサポートの人員不足により対応が遅れ、不満が高まり、企業の評判が低下するリスクも高まります。このように、物流業界における人手不足は、顧客満足度の低下や企業のブランド価値の損失にもつながります。
<h3>ドライバー不足・コスト高騰による倒産</h3>[19]
ドライバー不足とコスト高騰により、今後さらに倒産が相次ぐと予測されています。東京商工リサーチの調査によると、2024年の運送業の倒産件数は過去10年で最多の374件に達し、4年連続で増加している状況です。この傾向は今後も続くと見られ、人手不足や人件費の上昇に対応できない企業は経営難に陥る可能性が高まっています。[20]
特に、中小規模の物流会社はコスト上昇を価格転嫁しにくく、事業継続が困難になるケースが増加しています。
物流業界における2030年問題に向けた政府の方針

物流会社は2030年問題に向けた対策を検討しなければなりませんが、政府はどのような方針を示しているのでしょうか?対策を検討する前に2024年2月に官僚会議で発表された「2030年度に向けた政府の中長期計画(物流革新緊急パッケージ)」を見ておきましょう。
物流業界の成長を支える法改正
政府は流通業務総合効率化法や[22] 貨物自動車運送事業法などの法改正を発表しました。[23] 荷主や物流会社に対して物流効率化のために取り組むべき措置を策定し、指導・助言、調査・公表を実施します。
また、一定の規模の物流会社を特定事業者とし中長期計画の作成や報告を義務付けました。荷待ち・荷役時間の削減、積載率向上による輸送能力の増加が狙いの法改正です。
法人税や固定資産税の減免の適用や、モーダルシフト等の取り組みに関する経費補助にも影響するため法改正の内容を理解した上で対応していきましょう。[24]
デジタル技術の活用支援

政府は物流業務の自動化に必要な設備・システム(自動フォークリフトやAGV・ピッキングロボット等)への投資を支援することで、ドライバーの荷待ち・荷役作業等時間の削減を目指しています。
また、物流データを標準化してデータ連携を促進し、共同輸配送[25] (荷主共同輸配送・輸送業者間共同輸配送)や帰り荷[26] 確保ができる社会の実現を目指して取り組んでいます。
鉄道や内航海運の活用促進
政府はトラック輸送の依存を減らすために、鉄道や内航海運など多様な輸送モードの活用を推進しています。鉄道や内航海運による輸送は大量輸送に適しておりトラック台数を減らすことで二酸化炭素排出削減にも貢献することが可能です。

モーダルシフト推進に向けた協議会での検討では、大型コンテナ等の導入促進やRORO船ターミナルの機能強化について検討されています。また自動運行船舶の運行についても協議されています。
大型トラックの高速道路速度の引き上げ
大型トラックの最高速度は80km/hとされていましたが、輸送能力を上げるために政府は大型トラックの高速道路速度を90km/hへ引き上げました。[27]

また、サービスエリアとパーキングエリアにおける大型トラックの駐車マスの拡充が予定されています。さらに輸送能力を向上させるために、トラック1台で2台分の輸送を可能とするダブル連結トラックの導入なども計画されています。
自動運転技術を活用したインフラ構築

ドライバー不足の問題を解決するために、自動運転トラックやドローンなどを活用したインフラ構築が開始されています。2030年には自動運転やドローン物流がスタートできるように協議されており、過疎地域からドローン運転の実証実験が行われる予定です。そして、全国展開していくと発表されています。
荷主・消費者の行動変容の促進

物流会社の負担を軽減するために、政府は荷主・消費者の行動変容を促す施策を考案しています。例えば、荷物の置き配やコンビニ受取などの受取方法、ゆとりある配送日時を指定した消費者に対してポイント還元するなどの施策が検討されています。また、法制化で標準運賃の引き上げが行われました。
物流会社が2030年問題を乗り越えるための取り組み

2030年問題に向けた政府の方針、迫りくる課題に向けた取り組みたいものには、次のようなものが挙げられます。
中長期計画の作成
2030年に物流会社は人手不足や物流コストの高騰などの問題に直面します。そのため、これらの問題をどのように乗り越えるかを考え、中長期計画を作成することが重要です。中長期計画とは、社内の現状を分析し、目標を設定し、それに向けて取り組み、その効果を検証するためのものです。人[28] 口減少による人手不足への対応や、法改正にどのように対応するかを計画しておくことで、持続可能な経営がしやすくなります。
物流DXの推進
人手不足でも事業を展開していくためには、物流DXを推進し、物流業務の効率化を図ることが重要です。AIを活用して配送ルートの最適化を行えば、効率的に荷物を届けることができます。[29] また、さらに、ロボットによる荷役作業の自動化も進めることができます[30] 。自動運転やドローン輸送も、実証実験が終了した後に導入を検討するのが良いでしょう。

出典:「物流効率化に向けた先進的な実証事業」(経済産業省)[31]
物流業務を効率化するための設備・システムを購入する際には、補助金を上手く活用しましょう。物流効率化に向けた先進的な実証事業では、2024年に機械装置・システム費、技術導入費、専門家経費、運搬費、クラウドサービス利用費に充てられる補助金が支給されていました。本年度も同様の実施が予測されているため公式サイトを確認しておくことをおすすめします。
共同輸配送の実現
輸送能力を高めるためには、共同輸配送(荷主共同輸配送・輸送業者間共同輸配送)が欠かせません。複数の企業が協力して配送を行い、トラックの積載率を向上させることで輸送能力を上げることができます。また、CO₂排出量の削減にも貢献します。共同輸配送を実現するためには、物流センターの共有化や配送ルートの統合、システム構築が必要ですが取り組むことをおすすめします。
人材採用・人材育成の強化
物流業界では深刻なドライバー不足が懸念されています。この問題を解決するためには、まず人材採用と人材育成を強化することが重要です。
近年、クレーン付トラックが普及し、シニアや女性でもドライバー業務を担えるようになっています。この技術の進歩により、多様な人材が活躍できる環境が整いつつあります。特に、シニア層や女性層の活躍を推進することで、業界全体の人材確保が進んでいます。[33]
例えば、従来は50歳までの年齢制限が設けられていたドライバー募集を、65歳まで緩和したところ、応募が殺到した事例もあるようです。さらに、業務の効率化により、他の部署から人員を配置転換する動きも広がっています。こうした柔軟な対応により労働力確保がより現実的になります。
まとめ
物流業界は2024年問題に続き、2030年問題への対応が急務となっています。高齢化に伴う労働人口の減少により、ドライバー不足が一層深刻化し物流コストの上昇が避けられません。
政府はデジタル技術の導入支援、自動運転技術やモーダルシフトの促進など、物流の効率化を目的とした対策を進めています。企業も自社の持続可能な成長のために、抜本的な改革を進める必要があります。
2030年問題を乗り越えるには、業界全体の協力と柔軟な適応力が求められており、今こそ変革の時です。ぜひ、これを機会に2030年を見据えて対策してみてください。