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物流業界におけるM&A
(合併・買収)〜前編〜

現在、物流業界は多くの課題に直面しており、事業の継続が厳しい会社や、今後問題となる2024年・2025年問題に頭を悩ませている経営者も少なくありません。そんな中、解決策の1つとして注目されているのが【M&A】、企業の合併買収です。

今回、株式会社ロジテック 代表取締役 川村将臣 氏(写真右)が物流業界におけるM&Aについて学ぶため、多くの案件を仲介してきたM&Aの専門家である小林修公認会計士税理士事務所 小林修 氏(写真左)と対談を行いました。

プロフィール

川村将臣 氏:上智大学 外国語学部を卒業後、総合キャリアグループに入社。その後、バイトレ事業に創業メンバーとして参加し、株式会社バイトレを設立。同社の代表取締役を務めました。そして2021年に株式会社ロジテックを設立し、現在代表取締役として活躍中。

小林修 氏:神戸大学工学部を卒業後、大手監査法人に入所。その後、産業再生機構に出向、大手企業の経営企画部、独立系のM&Aコンサルティング会社にてM&A業務に従事。現在はフリーの立場で、事業承継型のM&A支援をおこなっている。

物流業界では業界M&Aは活発に

川村氏:「多くの課題や2024年問題に対して、なかなか解決策を持つことができていない企業が少なくありません。そのため物流業界にとってM&Aは切っても切れないテーマとなっており、M&Aという単語はあらゆる場所で飛び交っています。しかし、多くの経営者がM&Aはハードルが高いという印象を持っているのが現状です。」

小林氏:「2024年問題以外にも、団塊の世代が75歳以上となる2025年問題による大量の後継者不足への懸念もあり、物流業界では業界M&Aは活発になってきています。しかし、会社を売るということに対して一歩踏み出せない経営者も多く、さらにはM&Aという選択肢自体を持っていない人もいる状況です。」

実際、合併買収と聞くとネガティブな印象を持つ経営者も少なくありません。今回は前編と後編に分け、川村氏と小林氏の対談の様子をお伝えします。前編では

・物流業界を取り巻く課題
・M&Aとは何なのか
・物流業界におけるM&A事情

これらについての話がメインとなります。

ぜひ、2人の対談を通してM&Aについて知り、自身の事業のためにM&Aを考えるきっかけにしてみてください。後編では、M&Aの具体例や始め方についての話をお伝えします。ぜひそちらも参考にしてください。

物流業界を取り巻く課題

小林氏:「多くの課題を抱えている物流業界では、問題を解決するためにM&Aを行う会社が多くいます。」

川村氏:「お客様の声でも、直接M&Aの話は出なくても『来年はどうしよう…』という声は上がっています。しかし、実際は対応する手立てがないところが多くあります。」

物流業界は需要が増加している一方で抱える課題は多く、このままでは近い未来に事業運用が困難になる会社も少なくありません。今回の対談でも、物流業界の課題について話が行われました。

①人材問題

人手不足

小林氏:「物流業界は【人】がメインとなる仕事が多いのが特徴です。しかし、現在では人手不足が深刻化しています。」

川村氏:「いわゆる3Kという仕事はやはり若い人からは避けられており、新しい従業員が確保できない状況です。」

物流業界では慢性的な人手不足が大きな問題となっています。ネットショッピングやフリマアプリにより配送需要は増えているため、深刻な人手不足を招いている状況です。さらに労働環境の過酷さとともに、少子化により働き手自体の数も減っており、人材の確保が難しくなっているようです。

高齢化問題

さらに川村氏は「ドライバーや経営者の高齢化も大きな問題となっています。」と語りました。

高齢の従業員は今まで仕事の経験も豊富であり、ベテランと言われ多くの仕事を任せられるのも事実です。しかし定年などの理由により今後退職する人が増え、人材不足のさらなる深刻化が懸念されています。さらに経営者も高齢となる一方で、若い世代が業界に入ってこないため、結果、後継者が見つからず事業を畳むケースも少なくありません。事業継続のためにも後継者を見つけることは重要なポイントとなっています。

②2024年問題

2024年4月1日より適用される働き方改革関連法にどのように対応していくのかは、物流業界にとって今、最重要テーマとなっています。これにより様々な規制や改善が必要となり、物流業界は多くの問題が発生する、いわゆる2024年問題に直面しています。現在大きな岐路に立たされており、対談の中でも話が行われました。

時間外労働時間の上限改正

2024年問題の中で最も懸念されていることの1つが「時間外労働時間の上限」が変更されたことではないでしょうか。トラックドライバーの長時間労働の改善を目指し、時間外労働の上限が960時間に減少しました。

川村氏:「運送や物流などは、もちろん荷物を運ばなければ儲からない仕事です。働き方改革自体の捉え方も様々で、稼ぎたい人にとってはネガティブに捉えている人もいます。」

小林氏:「経営者側も管理を徹底しなければいけないため、かなり大変です。残業規制が入り、月60時間も目安となっています。」

川村氏:「60時間を超えた分に関しては1.5倍の割り増しが必要となっていますが、経営サイドとしても出すのは難しいですよね。」

小林氏:「人件費が上がると、同時に物流コストも上がってしまい結果売り上げが減ってしまいます。そのため、特に中小企業にとっては厳しいと思います。」

2024年問題により、人件費の高騰や、ドライバーの確保とシフト調整など、経営上にも大きな打撃になることは間違いないでしょう。さらにドライバーにとっても良いことのように思われますが、給与の減少からさらなる離職が起き、人手不足が進む可能性も危惧されています。

③大手企業の寡占による条件の悪化

物流業界はネットショッピングやフリマアプリの普及によりますます拡大を続けており、物流業界に参戦する大手企業も増加しています。

小林氏:「大手企業は仕事も安定しており、価格単価も上がりやすいです。」

川村氏:「物流業界は多重下請け構造なため、アンダーに入れば入るほど厳しくお金にならない仕事が多くなります。大手のゲームチェンジャーが出てきたことで、やらなければならないことも増えました。仕事を選べない中小企業は3Kの仕事が流れてきてしまい、単価も安く苦しくなっています。」

大手業者の台頭により3Kの仕事や単価の安い仕事が下請けに流れてくる傾向が強まっており、事業環境の悪化の要因の1つとなっています。

④原価高騰の影響

「燃料を含め様々なものが高騰しており、費用がよりかさむようになってしまっている。」と、川村氏は現在の価格高騰の影響について話をしました。

原材料が高くなることで影響を受ける梱包費、原油の高騰で大きなダメージを受ける輸送費、さらにドライバーなど人材不足により上昇する人件費。様々な外的・内的要因により、輸送原価が上がり続けています。しかし、原価高騰を解決する有効な対策が難しいのが現状。原価高騰も経営悪化に大きな影響を与えている一因です。

 

解決策の1つとしての「M&A」

上で述べた以外にも現在、様々な問題が物流業界で発生しており、解決のために多くの会社が頭を悩ませています。そして多くの解決策がある中で、選択肢の1つとして注目されているのがM&Aです。

M&Aは特別なものではない

川村氏:「経営者の高齢化や法律への対応などにより会社を売るという話になった際、M&Aという考えが浮かぶと思います。しかし中には、難しそう、大変そうという理由から避けている人もいるし、特別なものとして捉えている人も多いのではないでしょうか。」

小林氏:「確かに少なくありません。M&Aはあくまでも様々ある解決策の中の1つです。決して特別なことではありません。」

M&Aとは企業の合併・買収のことを言い、2つ以上の会社が1つになったり、またはある会社が他の会社を買収したりすることを意味します。一般的には「会社や経営権利の取得」を指しています。以前は「M&A=会社を乗っ取られる」というイメージが強くありましたが、現在では企業の抱える課題解決や成長戦略の1つとして活発に行われるようになっています。

小林氏:「M&Aは事業の成長のために行うものです。課題を解決するための手段の1つであることを頭に入れておくことが重要です。」

川村氏:「会社を売る・買うというM&Aありきで進める必要はないということですね。」

ではどのような課題解決の手段があるのか、M&Aを含め、主な解決法を確認していきましょう。

M&Aでできる課題解決

社外の人的リソース手配

人手不足の解決としてよく行われる方法が業務委託、つまり外注です。出荷作業だけでなく、検品・保管・在庫管理・加工など自社では厳しいところを業務委託することで、コストや手間の削減に繋がります。多くの業務を捌けるようになるための手段として実施している会社も数多く存在しているのです。

パートナー企業を増やし生産性を補完

企業の多くは得意分野がある一方、苦手とする領域もあるのではないでしょうか。この苦手領域を改善することは、企業成長のための大きな一歩です。その解決策として行われるのが、自社の苦手な領域を補完してくれるパートナー企業を増やすこと。

川村氏:「業界内でも、内製化か外注化かという話がよく出ます。物流は、物を運ぶ人や物を置く場所、加工する人など色々な要素が絡まっており、まとめて自社で行うのは大手でない限り厳しい状況です。」

小林氏:「例えば、施設や人、車両などは会計士の観点から見ると固定費に当たるため稼働率が重要となります。パートナー企業を増やし稼働率が上がればシナジーが発生し、利益が増加します。」

いいパートナーを見つけることで生産性や需給バランスの安定化などが図れ、経営状況が改善できる可能性があります。さらにパートナー企業によっては、自社が取り組んでいなかった新たな領域へと事業の幅を増やすことができるのも大きな強みです。

一時的な資金注入

今回のコロナでは多くの企業が打撃を受け、経営が厳しくなったところも少なくありません。コロナだけではなく、予期せぬトラブルなどにより資金繰りが難しくなることも。その際に、一時的に銀行や外部から資金を確保し、経営難を乗り切るという会社も多くあります。継続的な経営悪化の状況では難しいですが「この期間を乗り切れば…」などの一定期間では効果を発揮する可能性があります。自己の会社経営を振り返り、一時的な資金注入をするのか、別の方法を取るのかをしっかり判断しましょう。

新しい経営者、事業責任者の採用

新しい経営者や責任者を雇うのも解決方法の1つです。雇用にあたって後継者問題の解決はもちろんですが、経営難を乗り越えるためにも行われています。外部から優れた経営者を新しく雇うことで、経営を見直し事業の立て直しに成功した会社も多くあります。新しい経営者を探すのは簡単ではありませんが、非常に有効な手段です。

全て、または一部を解決するM&A(合併・買収)

M&Aも事業の立て直しや課題解決の方法として有効なものの1つです。先ほどまでの解決方法は、各課題に特化しているのが特徴です。一方でM&Aに関しては、特化した問題だけでなく、複数の問題を総合的に解決できる方法として注目されています。

川村氏:「企業によっては、資本の注入だけで済んだり、人手などの不足しているリソースを足したりすることで峠を越えられたということもありますよね。」

小林氏:「M&Aも100%売るという形だけではありません。会社の一部を持ってもらい、従業員や経営者を派遣してもらう、必要なリソースを確保する、繁閑期のギャップを少なくして事業を安定化させるというM&Aもあります。」

事業の全部、または一部をM&Aにより移転させることで、会社の継承問題・事業の安定化・従業員の継続雇用など様々な効果があります。「自分の会社が乗っ取られる」と考える人も多くいますが、M&Aは従業員の雇用を守るため、そして事業を継続していくための選択肢の1つとして考えておくといいでしょう。

M&Aを行うことのメリットやデメリットなどについては後編の対談で詳しく取り上げていきます。

「対応が進んでいる会社に任せる」という選択

川村氏:「物流業界では、物が売れるのはキャンペーンやセールのタイミングに多く、注文が一気に集まります。そのため一気に捌く必要があり、働き方改革の面でも労働時間の問題が出てきています。仕事に対して単価が見合わないこともあり、それを解決するには自力でいい顧客を見つけるか、M&Aで解決するという形が上がると思います。」

小林氏:「単価が上がらないことで売り上げが減ってしまい、会社を売却しようと考える企業は実際増えています。」

様々な問題が発生、または懸念されている物流業界。現在では、解決する方法の1つとしてM&Aを行う企業が増加しています。

さらに、物流業界が直面する大きな課題に2024年・2025年問題があります。

川村氏:「2024年・2025年問題が間近に迫り、物流業界も激動の時期になると思います。」

小林氏:「実際、すでに対応できているところはないですよね。」

川村氏:「業界内の中小企業では周りの動きを見る人が多く、こう着状態です。一方で、大手企業は対応を済ませているところも多くあります。」

小林氏:「事業内容ややり方も大幅に変更しなければならないですしね。」

資金面や従業員の数など多くの理由で、中小企業にとって2024年・2025年問題は経営を続けていく上で非常に深刻です。そんな中、大手などすでに対応している企業とM&Aを行うことで、低コスト、またはコストをかけずにシステムを刷新し、あらゆる問題を解決しようと考える経営者も出てきています。

川村氏:「さらにロボティックスなどの話も出てきていますが、配送の自動化には限界があり、大変な仕事は皺寄せとして下請けに流れてきてしまい、より苦しくなるのではと考えています。」

多くの業種で進められているDX化。物流業界においても、ドライバーが少ない中で効率よく業務を行うためにも必要なポイントです。勤怠管理や輸送計画、在庫管理などを自動化・機械化することで、業務効率は格段に上がります。しかし、DX化を進めるには導入コストがかかるため、資金面で厳しい会社ではなかなか進まないのが現状です。

小林氏:「物流は多重下請け構造となっているため、確かに厳しいと思います。その問題に対応するために、高齢の経営者だけではなく、若い経営者もM&Aを検討しています。」

つまり「自社での対応が難しい、だからしっかりと対応できる会社に任せる」という選択が増えてきているのです。

まとめ:M&Aは物流業界の課題を解決する選択肢の1つ

この記事では、物流業界が抱えている課題、そして記事の後半ではM&Aについて紹介しました。実際2024年問題を始め重大な問題に直面し、経営維持や従業員の雇用を守るために日々試行錯誤や努力を続ける経営者も多くいます。その中で、物流業界ではM&Aに対する興味関心が高まり、M&Aに踏み切る会社も増加しています。

川村氏:「M&Aはどうしても特別なものに見えてしまいがちですよね。お客様の中にも抵抗感があったり、敷居が高いと感じたりしている人も多くいる印象です。」

小林氏:「M&Aは企業成長のための選択肢の1つです。自分の会社を維持・拡大してくれる企業に経営の一部または全部を持ってもらえるようにしましょう。」

川村氏:「我々としても、リソースや機会に困っている企業に対して解決策を提供できる立場にいたいと考えています。その中の選択肢の1つにM&Aが入ってきて、経営者の方々のハードルを少しでも下げられたらいいなと思っています。」

M&Aは数多くある経営維持・拡大のための手段の1つです。様々な問題に出会った際に、多くの解決策を知っていることは強みとなります。今回の記事を参考にして、選択肢の1つとしてM&Aも検討してみましょう。

後編の対談では、M&Aを考えている人や興味のある人に向けて「M&Aのメリットやデメリット」「具体的な始め方」などについて紹介していきますので、ぜひそちらも参考にしてください。

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