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国際物流の現場では、貨物の安全な輸送と管理のために、さまざまな確認や手続きが日々行われています。
そのなかでも、コンテナの受け渡し時に使用される「EIR」という書類は、物流業務の円滑な進行とトラブル防止に欠かせない重要な役割を果たしています。
今回は、「EIR(イーアイアール)」が何のために存在するのか、どのように使われているのかを、わかりやすくご紹介します。
「EIR」とは何か?その基本的な役割

EIRは「Equipment Interchange Receipt」の略称で、直訳すると「機器受け渡し証」となります。国際物流では、海上輸送で使用されるコンテナがターミナル(港湾施設)と輸送車両(主にトラック)との間で受け渡される場面が頻繁にあります。
このときに、コンテナの状態をお互いに確認し合い、その内容を記録するための書類がEIRです。
EIRは、実際にはコンテナを運ぶトラックのドライバーと、港にあるターミナルオペレーターとの間で交わされます。つまり、コンテナがターミナルから出ていくとき(搬出)や、ターミナルに戻されるとき(搬入)に、「このコンテナは今、どのような状態で、誰が引き取り、返却したか」を記録しておくための証明書です。
なぜEIRが必要なのか?トラブルを防ぐ「証拠」の役割
コンテナ輸送には、荷主(メーカーなど)、フォワーダー(輸送の手配業者)、港のターミナル、運送会社など、多くの関係者が関わります。このような複雑な輸送の流れの中で起こりやすいのが、「コンテナの損傷」や「返却の遅延」といったトラブルです。
たとえば、荷物を積んだコンテナが目的地まで運ばれ、返却された際に傷が見つかった場合、「いつ」「どこで」その損傷が生じたのかがはっきりしなければ、誰が修理費用を負担すべきかという責任問題に発展します。
こうした場面で役立つのが、EIRの情報です。
EIRでは、コンテナの搬出・搬入時に外観の状態を確認し、その内容を記録します。たとえば、「搬出時は無傷だったが、搬入時にへこみがあった」とEIRに記されていれば、その間の輸送中に問題が発生したと判断できます。
このように、EIRはトラブルの責任を明確にし、必要な争いや誤解を防ぐための「客観的な証拠」として重要な役割を果たしているのです。
EIRには何が記載されているのか?
EIRに記載される主な内容は以下のような情報です。この情報をもとに、物流関係者は後から状況を把握することができます。特に、コンテナに損傷があった場合は、その位置や程度を図で示すこともあります。
- コンテナ番号:コンテナごとに割り当てられた固有の番号
- 搬出・搬入日時:いつ出されたか/返されたかの記録
- 搬出・搬入場所:どのターミナルで行われたか
- ドライバー名・トラック番号:実際に受け渡しをした運転手や車両の情報
- 外観状態:コンテナの傷、へこみ、汚れなどの有無
- 特記事項:異常があればその内容を記載
EIRが活用される代表的なシーン

EIRは日々の物流現場において、次のような場面で大きな役割を果たしています。
コンテナ損傷時のトラブル回避
コンテナに傷やへこみなどの損傷がある場合、EIRの記録により搬出時・搬入時の状態を比較でき、責任の所在を明確にできます。これにより、荷主や運送会社間での不要なトラブルや誤解を防ぐことが可能です。
輸送品質の見える化
EIRをデジタルで管理することで、コンテナの受け渡し状況を関係者全員でリアルタイムに把握できます。これにより、輸送の透明性が高まり、荷主との信頼関係構築にもつながります。
業務記録の効率化と証拠保全
紙のやりとりでは紛失や誤記のリスクがありますが、EIRのデジタル化によりデータが自動で保存・管理され、業務効率の向上と万が一のトラブル時の証拠として活用されます。
昨今の物流業界におけるEIRの活用とデジタル化の動き
以前はEIRも紙でのやりとりが主流でした。しかし、近年ではデジタル化が進み、多くの港湾ターミナルや物流会社で電子化されたEIR(e-EIR)システムが導入されています。これらの港湾では、港湾DX(デジタルトランスフォーメーション)の一環として、EIRを含む各種書類や搬入出管理の電子化が進められており、今後もさらなる拡大が見込まれます
デジタルEIRのメリット
デジタルEIRを導入することで、以下のような3つのメリットが存在します。
1.確認時間の短縮
ドライバーは紙の書類を提出・保管する手間がなくなり、タブレットやスマートフォンでの処理が可能になります。
2.トレーサビリティの向上
EIRのデータはクラウド上で保管されるため、関係者がいつでも確認可能です。
履歴管理も容易にできます。
3.トラブル対応の迅速化
万が一、コンテナの損傷や遅延が発生した際も、システム上で証拠をすぐに確認でき、迅速な対応が可能です。
このように、港湾の混雑緩和や作業の効率化が求められている昨今、デジタルEIRはその課題解決に貢献しています。
EIRの今後:さらに進化する情報連携
今後、EIRの役割はさらに広がっていくと考えられます。例えば、IoT(モノのインターネット)やAIとの連携によって、コンテナの状態を自動検知し、EIRに自動反映する仕組みも研究・開発が進められています。
EIRは単なる受け渡し証明にとどまらず、輸送プロセス全体の情報起点として活用される方向性が現実的になっています。港湾と物流業者、荷主など複数の関係者が同時にアクセスできる共通プラットフォームの導入が進めば、EIRが単なる受け渡し証明から、「輸送情報の起点」としての役割を担う可能性もあります。
まとめ
EIRは一見すると単なる受け渡しの確認書類に見えるかもしれませんが、その実態は、物流現場での「信頼」と「安全」を支える重要なツールです。目に見えないコンテナのやり取りの裏側で、トラブルの防止、作業の効率化、そして関係者の信頼構築に大きく貢献しています。
デジタル化が進む今、EIRもまた進化を遂げつつあります。物流に関わるすべての人にとって、EIRの仕組みと重要性を理解することは、より円滑な業務遂行に繋がる第一歩となるでしょう。