国際物流において、「貨物が日本に到着した後、どのようにして目的地まで運ばれているのか?」と疑問に思ったことはありませんか。特に輸出入に関わる貨物の取り扱いには、関税や検査などのルールが多く存在し、単に「運ぶ」だけでは済まないケースが多々あります。今回は、そんな複雑な物流の中で活用されている「OLT(Overland Transport)」という仕組みについて、わかりやすく解説します。

OLTとは何か?

OLTは「Overland Transport(オーバーランド・トランスポート)」の略で、直訳すると「陸上輸送」を意味します。しかし、物流業界でいうOLTは、ただの陸送のことではありません。

OLTとは、外国貨物の状態のまま、トラックや鉄道を使って国内の特定エリア間を輸送する制度のことです。つまり、まだ輸入手続きが完了していない貨物を、保税の状態のまま、ある指定された保税地域から別の保税地域へと陸上で輸送する方法です。

これにより、港や空港以外の場所でも税関手続きを進めることができ、物流の柔軟性と効率が高まります。

保税の状態って何?

「保税の状態」とは、輸入された貨物がまだ正式に日本国内に入ったとみなされず、関税や消費税の支払いが保留されている状態のことです。こうした貨物は、税関の厳しい管理のもとに置かれており、自由に国内へ持ち込んだり販売したりすることはできません。

この状態の貨物は、港や空港の近くの保税倉庫に置かれるだけでなく、内陸の指定された保税倉庫や保税工場まで移動させる必要が出てくることがあります。例えば、

  • 港の混雑を避けて、内陸の倉庫で通関処理を行いたい場合
  • 一時的に別の保税倉庫へ貨物を移動したい場合
  • 輸入した材料を保税工場で加工・組み立てし、そのまま再び輸出したい場合

こうした状況で、貨物の「保税の状態」を維持したままトラックや鉄道で移動させるために、特別な許可を得て行う陸上輸送が利用されます。これがOLTの役割です。

どうやって運ぶのか?

OLTを使うためには、次のようなステップが必要です。

1. 税関に申請して許可を受ける

まず必要なのは、発地の税関に対してOLT輸送の許可申請を行うことです。
輸送する貨物の内容や輸送経路、発地・着地の保税地域などを明確にして、税関からの承認を得ます。

許可されたOLT輸送は、指定された経路と手段に従って運ばなければならず、途中で勝手にルートを変更することはできません。

2. トラックや鉄道で保税貨物を移動

許可が下りたら、実際の輸送です。
トラックや鉄道などの陸上輸送手段を使って、保税地域間で貨物を運びます。
輸送中は貨物が「外国貨物」として扱われるため、税関の監視が前提となります。

輸送中の管理には注意が必要で、例えば封印(シール)付きのコンテナを使うなど、不正な開封や積み替えを防ぐ対策が求められます。

3. 到着地での取り扱い

貨物が目的地の保税地域に到着した後は、その用途に応じて以下のような処理が行われます。

  • 国内で使用・販売する場合
    通関手続きを行い、関税や消費税を納付したうえで、国内の流通ルートに乗せられます。
  • 再輸出する場合
    輸入としての通関手続きは不要で、そのまま輸出貨物として積み替えや船積みが行われます。
  • 国内の保税工場で加工し、再輸出する場合
    貨物は保税状態のまま加工拠点まで運ばれ、加工後に完成品として再び輸出されます。たとえば、海外から調達した部品を日本国内の保税工場で組み立てて、製品として輸出するケースが該当します。

このように、OLTは単なる輸送手段ではなく、保税貨物の適正な管理と運用を支える重要な仕組みとして活用されています。

OLTの主な活用シーン

1. 港湾の混雑回避

大都市圏の港湾では、輸入貨物の量が増えすぎて、通関処理が追いつかないことがあります。OLTを活用することで、混雑している港ではなく、内陸の通関がしやすい地域で手続きを行うことが可能になります。

2. 内陸の保税倉庫の利用

工場や倉庫が港から遠く離れた地域にある場合、OLTによって保税状態のまま直接最寄りの保税倉庫に運ぶことで、時間とコストを削減できます。

3. 鉄道輸送との組み合わせ

環境配慮やコスト面から、鉄道を使った中長距離輸送が再評価されています。OLT制度を使えば、保税貨物を鉄道で安全に移動させることが可能です。特に北海道・東北・九州など遠方地域への輸送では、鉄道OLTが活躍します。

物流業界での最新の活用動向

近年、物流業界では次のような背景のもと、OLTの活用が広がっています。

サプライチェーンの分散化

災害やパンデミックによって、物流ルートが一部遮断されるリスクが高まる中、港一極集中の運用から脱却し、複数の保税地域を活用した分散型の輸送ルートが注目されています。OLTはその鍵となる仕組みです。

地方拠点の強化

政府や自治体が地方への物流拠点分散を推進する中、地方でも保税通関ができる体制が求められています。OLTは、地方の保税倉庫や工場との連携を可能にし、地方産業の活性化にもつながります。

デジタル化との相乗効果

NACCS(輸出入・港湾関連情報処理システム)など、通関関連のIT化が進んでおり、OLTの申請や管理もスムーズに行えるようになっています。これにより、事務手続きの簡素化と輸送スピードの向上が実現しています。

OLTを利用する際の注意点

便利なOLTですが、利用にあたっては次のような注意点もあります。

  • 許可区間以外では輸送できない
    あくまで税関に申請して許可された区間・経路のみで輸送が可能です。ルートの変更は再申請が必要です。
  • 輸送中の管理責任は重い
    保税貨物は未通関の状態なので、万一の紛失や事故に備えた厳格な管理が求められます。
  • 使用には条件や制限がある
    保税運送を行うには、一定の事業者認可や条件(例えばOLTの実績や設備など)が必要です。誰でもすぐに使える制度ではないことに注意が必要です。

まとめ

OLT(Overland Transport)は、保税貨物を効率的に陸上輸送するための制度であり、現代の物流に欠かせない仕組みの一つです。

港湾混雑の回避や地方拠点の活用といった物流効率の向上に加え、トラック輸送から鉄道や船舶などのモーダルシフトを進めることで、環境負荷の低減にも貢献しています。

とくに、サプライチェーンの柔軟性向上やリスク分散という観点から、今後もますます重要性が増していくと考えられます。

今後の物流戦略に役立てるためにも、ぜひOLT活用方法を自社の物流体制に照らし合わせて検討してみてください。

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