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グローバル化が進む現代社会において、物流は単なる「モノを運ぶ」機能を超え、企業の競争力を左右する重要な要素となっています。そんな中で注目を集めているのが、FAZ(Foreign Access Zone)と呼ばれる「輸入促進地域」の存在です。
この記事では、FAZの基本的な仕組みから、実際に物流業界でどのように活用されているのかまでをわかりやすく解説します。
FAZ(輸入促進地域)とは何か?
FAZとは、日本語で「輸入促進地域」と訳されるもので、海外からの製品や原材料の円滑な流通を支援するために国が指定したエリアです。この地域内では、一定の税制優遇や手続きの簡略化などが整備されており、輸入品を一時的に保管・加工・流通させることが可能です。
例えば、海外から届いた製品をFAZ内の倉庫に保管し、日本国内の需要に応じて分配したり、簡単な加工を行ってから出荷したりする運用がされています。
この制度は、1992年の「総合保税地域」制度に基づき、国が外資系企業の日本市場参入や貿易の活性化を狙って整備したものです。
FAZが設置されている場所と選定基準

FAZは、港湾や空港などの国際物流拠点に隣接する地域に設置されることが多く、2020年代に入ってからは全国各地で再整備が進められています。これは、国際物流の多様化や越境ECの拡大、さらにはサプライチェーンの再構築ニーズが高まっていることが背景にあります。
また、貿易を通じた地域経済の活性化や、外資系企業の誘致を目的に、地方自治体も積極的に取り組みを進めているのが特徴です。設置場所の選定基準には以下のようなポイントがあります。
- 輸入貨物の流通が多い港湾・空港に近い
- インフラ整備が進んでいる(高速道路や鉄道など)
- 周辺に倉庫や加工工場などの用地が確保できる
- 地域の自治体や企業がFAZの活用に積極的
これにより、FAZは単なる保税倉庫の集合体ではなく、「輸入ビジネスを総合的に支援する拠点」として機能しています。
物流業界におけるFAZの活用とその意義
FAZは、貿易手続きを効率化し、物流コストを抑制する拠点として、物流業界で多様に活用されています。特に、次のような機能面での活用が進んでいます。
1. 保税機能を活用した在庫最適化
FAZに設置された保税倉庫では、輸入品を関税未納のまま一時保管できます。この仕組みにより、企業は製品を必要なタイミングで通関し、関税を支払うことができるため、在庫の回転率を上げたり、過剰在庫を防いだりする運用が可能になります。とくに季節性のある商品や販路が未確定な製品においては、この柔軟性が大きなメリットとなります。
2. 軽加工・流通加工による付加価値向上
FAZでは、保税状態のままラベル貼付や包装、検品といった「軽加工」(流通加工)を行うことが認められています。これにより、輸入品を国内市場向けにカスタマイズしてから正式に通関し、効率的に出荷することが可能になります。このような仕組みは、製品の付加価値を高めつつ、国内倉庫との連携を最小限に抑える点でも評価されています。
3. サプライチェーンの柔軟性確保
製造業では、海外から調達した部品や素材をFAZ内で一時保管し、生産スケジュールに応じて通関・供給する体制が整えられています。これにより、国内の生産拠点では必要な分だけを必要な時に受け取ることができ、ジャストインタイム方式に近い運用が実現されます。原材料の価格変動や為替リスクがある場合にも、FAZの活用は安定供給の一助となります。
4. 越境ECなど新たな物流モデルへの対応
近年は、個人輸入を前提とした越境ECの需要が急増しています。こうした背景のもと、FAZは国際EC物流の「前線基地」としての役割も担い始めています。たとえば、海外から届いた商品をFAZ内で一時保管し、日本国内の注文に応じて必要分のみを通関・配送する仕組みが注目されています。これにより、配送のスピードとコストの最適化が両立できると期待されています。
FAZの主なメリット

FAZが設置されることによるメリットはいくつかありますが、ここでは3つのメリットについて解説します。
1. 保税機能の活用によるコスト削減
FAZでは、輸入品を保税状態のまま保管・加工できます。これは、「関税や消費税を支払う前に必要な加工や分配ができる」という意味で、企業にとってはキャッシュフローの改善や在庫管理の柔軟性といった面で大きなメリットがあります。
2. 簡易な通関手続き
通常、輸入手続きには多くの書類作成や審査が必要ですが、FAZでは通関手続きが簡略化されている場合が多く、リードタイムの短縮につながります。
3. 海外企業の日本進出をサポート
FAZは外資系企業にとって、日本市場への「入り口」としても機能します。初期投資を抑えながらも、日本国内での流通網を構築できるため、新規参入のハードルを下げる役割も果たしています。
今後の課題と展望
FAZは国際物流の拠点として注目され、活用の幅も年々広がっていますが、その成長をさらに加速させるためには、いくつかの課題を克服していく必要があります。
1. 地域ごとの制度・運用ルールの違い
まず、地域ごとの制度や運用ルールの違いが大きな壁となっています。各FAZで支援内容や手続きが異なるため、複数地域で活用したい企業にとっては手間やコストの面で負担が大きくなりがちです。全国的な制度の標準化と連携強化が求められています。
2.デジタル化の遅延
次に、手続きのデジタル化の遅れも課題です。保税や通関に関わる業務の多くが依然として紙ベースで行われており、処理の効率化やミス防止の面で改善の余地があります。電子申告の推進やシステム連携の強化が不可欠です。
3. 専門人材の不足
さらに、専門人材の不足も深刻です。通関や保税管理など、高度な知識を必要とする業務に対応できる人材が限られており、属人化が進んでいる現場も見られます。今後は若手育成や業務のマニュアル化も重要になるでしょう。
一方で、政府や自治体による補助制度や支援体制の整備も進みつつあり、FAZの利活用を後押しする動きも見られます。また、脱炭素化や地域活性化の観点からも、FAZは今後ますます注目される存在となるでしょう。
まとめ
FAZは、単なる輸入貨物の一時保管場所ではなく、戦略的に物流をコントロールするための拠点です。保税・加工・通関といった多様な機能が集約されており、企業の輸入ビジネスに大きな利便性をもたらしています。
物流業界にとっても、FAZの活用はコスト削減・納期短縮・柔軟な対応力といった観点から重要性を増しており、これからの国際物流を考えるうえで欠かせない要素です。
今後の制度改正やテクノロジーの導入を通じて、より多くの企業がFAZを活用し、グローバルな物流網の中で競争力を高めていくことが期待されています。