種まき方式とは?10分で解説

2025.08.28

物流センターや倉庫で欠かせない作業のひとつが「ピッキング」です。これは、在庫の中から必要な商品を取り出し、出荷先ごとに仕分けていく工程のことを指します。

ピッキング作業の効率は、そのまま人手・時間・コストに影響するため、日々の物流業務において非常に重要なポイントです。

そのようななかで、ピッキング作業を効率化するために考案されたのが「種まき方式」という手法です。本記事では、種まき方式の基本的な考え方や、通常のピッキング方法との違い、導入メリット、注意点、そして近年の活用状況までをわかりやすく解説します。

種まき方式とは?

種まき方式とは、複数の出荷先向けの商品を一括でピッキングし、その後に仕分け場で出荷先別に分ける方式です。

この作業の流れをイメージするために、まず「畑に種をまく」様子を思い浮かべてみてください。一度にたくさんの種(=商品)を取り出し、それを適切な場所に分けて配置していくという意味合いから、「種まき方式」と呼ばれています。

この方式は「トータルピッキング」あるいは「マルチピッキング」とも言われ、出荷先が少なく、それぞれの納品先に多くのアイテムを出荷するケースにおいて、特に高い効果を発揮します。

通常のピッキング方式との違い

ピッキングには複数の方式があり、代表的なものは「オーダーピッキング」と呼ばれる方法です。これは、1件の出荷指示(オーダー)に対して、1つずつ必要な商品を集めていくという方式で、小口配送や出荷先が多い場合に適しています。

一方で、種まき方式では、「複数のオーダーにまたがる商品を一括して集める」という点が大きな違いです。つまり、集めるときは「出荷先ごと」ではなく「商品ごと」に行い、その後にまとめて仕分けるという流れになります。

【通常のピッキングと種まき方式の比較】

比較項目オーダーピッキング種まき方式(トータルピッキング)
ピッキング単位出荷先ごと商品ごと(複数出荷分をまとめて)
作業回数出荷先の数だけ繰り返し商品ごとに一括で済む
適したケース出荷先が多く、品数が少ない出荷先が少なく、品数が多い

種まき方式の具体的な流れ

種まき方式は大きく以下のステップで構成されます。

1. 一括ピッキング

出荷指示に基づき、倉庫内の在庫からすべてのオーダー分の商品をまとめて一括でピッキングします。この時点では、出荷先ごとに分けることはせず、同じ商品を一度に必要な分だけ取り出すのがポイントです。

2.荷さばき場へ搬送

ピッキングされた商品は、荷さばき場や仕分けスペースに運ばれます。ここで、出荷先ごとの振り分け作業が始まります。

3.出荷先別の仕分け(種まき)

集められた商品を、出荷指示に従って各出荷先ごとの容器や台車に分けていきます。この段階でようやく、個別のオーダーに沿った出荷単位が完成します。

種まき方式のメリット

種まき方式を導入することで、どのようなメリットが得られるのでしょうか?ここでは代表的な3つのメリットについて解説します。

1. ピッキング作業の効率化

種まき方式では、複数のオーダーを同時に処理するため、作業員が倉庫内を何度も移動する必要がなくなります。たとえば、オーダーごとに異なる棚を行き来していた従来の方式に比べて、同一商品を一度にまとめて取り出すため、移動距離と作業工数が大幅に削減されます。

その結果、ピッキング作業のスピードが向上し、同じ人員でも処理できるオーダー数が増えるため、人的リソースをより効率的に活用できるのです。これは、労働力不足に直面する現場にとって大きなメリットといえます。

2. 同一商品をまとめて処理できる

この方式では、複数の注文に共通する商品を一括でピッキングし、後工程で個別のオーダーに仕分けることができます。そのため、数量確認や梱包といった作業がシンプルかつスムーズになり、作業時間の短縮だけでなく、品質の安定にもつながります。

また、バーコードやQRコードを活用したスキャン作業と組み合わせることで、在庫管理の正確性が向上し、ヒューマンエラーの削減にも貢献します。単純な反復作業が減ることで、作業員の負担軽減や教育時間の短縮にもつながる点も見逃せません。

3. 検品精度の向上

種まき方式では、ピッキング後の商品を一括して取り出し、その後の仕分け工程で個別オーダーに分類するため、検品のタイミングと内容が明確になります。検品のルールや手順が統一しやすく、確認漏れや誤出荷のリスクを大幅に軽減することが可能です。

また、出荷時点での照合作業がしやすくなるため、トレーサビリティ(物流履歴の追跡)を確保する上でも有利です。万が一、誤出荷やクレームが発生した場合でも、原因の特定がしやすく、迅速な対応が取れるという利点もあります。

種まき方式の導入における注意点

もちろん、すべてのケースにおいて種まき方式が有効というわけではありません。導入時には現場の特性や物流条件に応じて、慎重な判断が求められます。以下のような点に留意することで、より効果的な運用が可能になります。

1. 出荷先・品種数のバランスが重要

種まき方式は、特に「出荷先が少なく、扱う品種数が多い」場面に適しています。たとえば、1拠点から複数の商品を一括出荷するようなケースでは、高い効率を発揮しますが、反対に、1日に数十〜数百の出荷先に対して小口出荷を行うような現場では、仕分けや検品にかかる工数が増えて逆効果となることもあります。

そのため、自社の出荷パターンやオーダー構成を分析したうえで、種まき方式が本当に適しているかを見極めることが大切です。

2. 仕分けスペースの確保

ピッキングした商品を後工程で仕分けるには、ある程度まとまったスペースが必要になります。とくに、複数のオーダーを並行して処理する場合には、誤仕分けや混載を防ぐために、商品ごと・オーダーごとに明確な区画や作業台を設ける必要があります。

また、仕分け精度が求められる場合には、作業導線や什器の配置も重要なポイントとなります。スペースの確保が難しい現場では、物理的な制約が導入の障壁となることもあるため、事前のレイアウト検討が欠かせません。

3. ITシステムとの連携

種まき方式では、商品をまとめてピッキングした後に正確に仕分ける必要があるため、ITシステムとの連携が成功の鍵を握ります。ピッキングリストや出荷指示データといった情報をリアルタイムで把握できるよう、WMS(倉庫管理システム)の導入や最適な設定が不可欠です。

また、ハンディターミナルやバーコードスキャンによる読み取り・照合が仕分け精度の向上につながるため、現場の作業フローとITの仕組みがシームレスにつながっていることが求められます。導入前にはシステム面の整備と運用教育もあわせて行うことが理想です。

種まき方式が活用されている現場

種まき方式は、実際の物流現場でもさまざまな業種で導入されています。導入の背景には、業種ごとの業務特性や出荷形態が深く関係しています。以下に代表的な活用シーンを紹介します。

製造業(部品供給)

製造現場では、1つの製品を組み立てるために多品種の部品を必要とするケースが一般的です。複数の製造ラインや外注工場に同じ部品を供給する際に、種まき方式で部品を一括ピッキングし、ラインごとに仕分けることで効率的な供給が可能となります。これにより、供給ミスやライン停止のリスクが減少し、全体の生産性向上にも寄与します。

とくに、ジャストインタイム方式を採用している現場では、正確かつ迅速な部品供給が求められるため、種まき方式との親和性が高いといえます。

量販店・チェーンストア向け配送

大手スーパーやドラッグストアなどへの配送では、同一商品を複数店舗に同時に出荷することが多くあります。このようなケースでは、種まき方式で商品をまとめてピッキングし、店舗別に仕分けることで、短時間で大量のオーダー処理が可能になります。

また、納品先ごとに微妙に異なる数量にも柔軟に対応できるため、在庫管理の精度向上にもつながります。結果として、納品効率と店舗側の受け入れ作業のスムーズ化を両立させることができます。

通販物流センター

ECサイトや通信販売における物流センターでも、種まき方式は特定のタイミングで有効に活用されています。たとえば、季節イベントやキャンペーンなどで同一商品を多数の顧客に出荷する際、まとめてピッキングし、住所や注文内容に応じて後から仕分けることで、大量出荷を効率的に処理できます。

また、ギフト商品やセット商品などの仕分けミスを防ぐうえでも、トレーサブルな種まき方式は重宝されています。繁忙期だけの一時的な導入も可能で、柔軟な運用に適しています。

なぜ今、種まき方式が注目されているのか

近年、物流業界を取り巻く環境は大きく変化しており、従来の運用方法だけでは対応しきれないケースも増えています。こうした課題に対して、種まき方式は現場の柔軟性と効率性を両立させる有効な手段として再評価されています。

人手不足への対応

物流業界では慢性的な人手不足が深刻化しており、とくに現場作業者の確保が難しくなっています。限られた人数でより多くの業務をこなすためには、作業の効率化と省人化が不可欠です。

種まき方式は、移動時間や作業の手戻りを最小限に抑えられるため、1人あたりの処理能力を高めることができます。特別なスキルがなくても運用しやすいため、即戦力化もしやすいというメリットがあります。

納期短縮への対応

EC市場の拡大や消費者ニーズの多様化により、「即日出荷」や「翌日配送」などのスピード対応が求められるようになっています。こうした状況では、いかに短時間で正確にオーダーを処理できるかが重要です。

種まき方式を活用することで、ピッキングから仕分けまでを効率よく一括処理でき、リードタイムの短縮が可能になります。突発的な大口注文や繁忙期への柔軟な対応にも向いており、サービスレベルの維持にもつながります。

システムと現場の連携強化

WMS(倉庫管理システム)やハンディターミナル、バーコードスキャン機能の進化により、現場作業とITとの連携が容易になってきました。これにより、種まき方式のような「一括ピッキング+後工程での自動・半自動仕分け」の運用モデルが現実的な選択肢として広がっています。

現場のデジタル化が進むなかで、作業ミスの削減や履歴管理の強化など、品質向上にも寄与するため、今後ますます注目されると考えられます。

まとめ

種まき方式とは、複数の出荷先分の商品をまとめてピッキングし、後工程で個別に仕分けることで、効率化を実現する手法です。

出荷先が少なく、多品種の商品を大量に扱う場面において、高い作業効率と検品精度を両立できるのが最大の特長です。

人手不足や物流の複雑化が進むなかで、種まき方式の導入は、倉庫運営の生産性を高める有効な選択肢となるでしょう。自社の出荷パターンや作業環境に応じて、最適なピッキング方式を見直すことが、これからの物流現場の鍵となります。

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