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製品や部品を運ぶ「物流」は、企業活動を支える重要なインフラです。中でも、工場から倉庫、物流拠点間など、都市間を長距離で結ぶ輸送のことを「幹線輸送」と呼びます。この幹線輸送において、近年注目されている取り組みが「幹線共同運行」です。
本記事では、幹線共同運行とは何か、なぜ今注目されているのか、導入のメリットや活用事例、導入におけるポイントまでをわかりやすく解説していきます。
幹線共同運行とは?
幹線共同運行とは、物流会社が長距離輸送(=幹線輸送)を行う際、同じ路線を使う他の物流会社と協力し、同じトラックやコンテナなどを共有して運行する仕組みのことです。
たとえば、大阪から東京へ荷物を運ぶ複数の物流会社が、それぞれ別々にトラックを走らせるのではなく、1台のトラックに複数社の荷物を積んで一緒に輸送する。これが幹線共同運行のイメージです。
これは単なる「混載輸送(いろいろな荷主の荷物を一つの車両にまとめて運ぶ)」とは少し異なります。幹線共同運行では、複数の物流会社が計画段階から協力し、車両の手配、運行ルート、積載のタイミングなどを共同で設計・実施する点が特徴です。
幹線共同運行の背景にある物流業界の課題とは?

幹線共同運行が注目される背景には、物流業界が直面するいくつかの課題があります。ここでは主な3つの理由について解説します。
1. ドライバー不足の深刻化
近年の物流業界において最も深刻な問題の一つがドライバー不足です。特に2024年4月に施行された働き方改革関連法により、トラックドライバーの時間外労働の上限が年間960時間に制限され、「輸送力の減少=物流クライシス」が現実化しています。
この「2024年問題」により、特に長距離輸送を担う幹線輸送の担い手が減少する懸念が高まっており、現場では“運べない荷物”の発生が実際に起き始めています。
2. 積載率の低迷と非効率な輸送
多くの物流現場では、トラックの積載率が5~6割にとどまるケースも珍しくありません。特に単独輸送を行っている企業では、帰り便が空車になる「片荷」や「空車回送」が慢性化しています。
こうした非効率な運用は、企業収益を圧迫するだけでなく、環境負荷の増大にもつながります。
3. 燃料費・人件費・維持費の上昇
軽油価格の高止まり、ドライバー賃金の上昇、さらには車両価格やメンテナンスコストの増加などにより、輸送コスト全体が右肩上がりの状況です。
幹線輸送は走行距離が長いため、この影響をより強く受けます。中小の物流事業者ほど、この負担は深刻です。
幹線共同運行のメリット
幹線共同運行は、こうした業界の課題を緩和するための具体的な施策として、多くの現場で注目を集めています。
ここでは、参加する企業やドライバー、さらには社会全体にとってどのようなメリットがあるのかを掘り下げて見ていきましょう。
1. 積載率の向上と台数削減による効率化
異なる物流会社や荷主の荷物を1台のトラックにまとめることで、空きスペースを最小限に抑えた効率的な輸送が実現します。これにより、運行台数そのものを減らすことが可能です。
たとえば、4社がそれぞれ1台ずつ運行していたところを、2台に統合して運行することで、ドライバーの負担軽減やコスト削減の効果が期待されます。
2. コスト分担による経済的な運行体制
幹線輸送は、燃料費、高速料金、人件費といったコスト負担が大きいのが特徴です。しかし共同運行であれば、これらのコストを複数の会社で分担できます。また、積載効率が上がることで、1個あたりの輸送単価を引き下げることにもつながります。
中小企業にとっては、単独運行では実現しにくいスケールメリットを得られるチャンスでもあります。
3. ドライバーの拘束時間短縮・安全性の向上
幹線輸送では、1回の運行で数百キロメートル以上を移動することも珍しくありません。しかし、共同運行を取り入れることで、ドライバーが担当する距離や時間を分割でき、拘束時間や労働負荷を軽減できます。
あわせて、リレー輸送(中継地点でドライバーが交代する方式)なども組み合わせれば、長距離連続運転による事故リスクの軽減にもつながります。
4.脱炭素への貢献と企業イメージの向上
1台あたりの積載率が上がり、トラックの走行距離が最適化されることで、CO₂排出量の削減が期待できます。
物流を担う企業として環境に配慮した取り組みを行っていることは、荷主や消費者からの信頼にもつながり、企業価値の向上にも寄与します。
幹線共同運行の導入の課題と注意点
幹線共同運行は多くの利点がある一方で、導入や運用の過程で乗り越えるべき課題もあります。
1.異なる運用文化・業務フローのすり合わせ
物流会社ごとに、運行管理の方法や積載ルール、作業マニュアルなどが異なります。それぞれの慣習や運用に基づいたノウハウがあるため、単純に「一緒にやりましょう」ではまとまりません。
共同運行を成功させるためには、相手企業との情報共有と業務調整を丁寧に行うことが重要です。
2.情報連携とIT基盤の整備
運行スケジュール、積載量、車両の位置、到着予定などをリアルタイムで共有するには、一定レベルのIT基盤が不可欠です。Excelや電話・FAXといった従来の方法では限界があり、共同運行に適したクラウド型の管理システムや共同プラットフォームの導入が推奨されます。
小規模な企業にとっては、IT投資が負担になる場合もあるため、支援制度の活用も検討が必要です。
3.荷物の相性と品質保持
共同運行では、異なる荷主の荷物を同一のトラックに積載するため、温度管理、荷崩れ防止、輸送中の取扱注意点などに配慮が必要です。
冷凍品と常温品、液体と精密機器といった、取り扱い条件の異なる荷物を同時に輸送する場合は、積載方法や車両の選定に特別な工夫が求められます。
4. トラブル時の責任分担
万が一、事故や遅延、破損などが発生した際、どの会社が責任を持つのかという点も事前に明確化しておく必要があります。
契約や覚書の中で、損害賠償の範囲やトラブル発生時の対応フローを整理しておくことで、スムーズな対応が可能になります。
幹線共同運行の今後の展望

幹線共同運行は、ドライバー不足や環境対策など、物流業界の課題を解決する手段として今後ますます注目されていくと考えられています。今後の展開は、次の3つの方向に広がっていくでしょう。
1. テクノロジー活用による運行の高度化
AI(人工知能)やIoT(モノのインターネット)といった技術を使えば、運行ルートや積載計画を自動的に最適化することが可能になります。たとえば、交通状況や天候、荷物の量などを踏まえて、その日の最も効率の良い運行プランを瞬時に立てるといったことも現実的です。
さらに、クラウド型の運行管理システムを導入すれば、複数企業で荷物やトラックの情報をリアルタイムで共有でき、連携もスムーズになります。こうした技術の導入によって、これまで煩雑だった共同運行の調整が、よりシンプルで実行しやすくなると期待されています。
2. 異業種や地域をまたぐ連携の広がり
これまでの幹線共同運行は、同じ業種や近い物流ルートを持つ企業同士で行われることが多くありました。しかし今後は、業種の異なる企業どうしや、地理的に離れた地域間の企業が協力する動きも広がっていくでしょう。
たとえば、食品メーカーと日用品メーカーが同じスーパーに納品するケースでは、荷物の種類が違っても一緒に運ぶことで効率化が図れます。また、地方では複数の中小物流会社が手を組み、地域内の幹線輸送を共同で担うといった取り組みも活発化しています。こうした連携が広がれば、全国的な輸送ネットワークの柔軟性と持続性が高まります。
3. 国や自治体の支援強化
幹線共同運行の普及を後押しするため、国や自治体も制度面での支援を強化しています。たとえば、運行管理システムの導入に対する補助金や、共同輸送プロジェクトへの助成制度などが整備されつつあります。これにより、中小規模の物流企業でも導入しやすい環境が整ってきました。
また、共同運行における責任の分担や契約のあり方についても、ガイドラインの整備が進んでいます。今後は、こうした制度の整備が進むことで、企業が安心して共同運行に取り組めるようになると考えられます。
まとめ
幹線共同運行とは、複数の物流会社が同一路線でトラックやコンテナを共有して長距離輸送を行う仕組みです。ドライバー不足やコスト高騰といった課題への対応策として、近年注目が高まっています。
輸送効率の向上や環境負荷の軽減といったメリットがあり、すでに多くの企業が導入を進めています。導入には業務連携や情報共有といった課題もありますが、適切な体制づくりと仕組みの整備によって乗り越えることが可能です。
幹線共同運行は、物流の未来を支える重要な選択肢の一つです。今後の動向に注目しつつ、自社での導入や他社との連携を検討してみてはいかがでしょうか。