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商品の流通に欠かせない「保管」の業務。多くの企業が在庫管理や配送効率の向上を目指し、日々改善に取り組んでいます。近年、この物流領域で注目されているのが「共同保管」という考え方です。これは、複数の企業がひとつの倉庫を共有し、在庫を保管する仕組み。単なる保管スペースの節約にとどまらず、物流全体の効率化やコスト削減を実現する手法として、導入が進んでいます。
本記事では、共同保管の基本から実際の活用事例、導入のメリット・注意点までをわかりやすく解説していきます。
共同保管とは?
共同保管とは、複数の企業が同じ物流倉庫を利用して商品を保管し、必要に応じて出荷業務まで一体で行う運用方法です。各社が個別に倉庫を持つのではなく、一か所に集約して保管することで、スペースや運用コストを共有する形となります。
この仕組みは、単に「倉庫をシェアする」というだけではありません。例えば、同じ小売店や商業施設に納品する商品であれば、出荷を一括でまとめることも可能になります。結果として、配送効率が上がり、トラックの積載率も向上。ドライバーの手配や配送スケジュールの最適化にもつながるのです。
共同保管のメリット

共同保管を導入することにより、様々なメリットが生まれます。ここでは4つのメリットについて解説します。
1. 保管コストの削減
共同保管により、1社で倉庫を借りるよりも圧倒的にコストを抑えることが可能になります。保管スペースをシェアすることで、面積単価の負担が軽減され、余剰スペースの無駄も生まれません。
とくに在庫の波がある企業にとっては、必要な分だけ柔軟にスペースを確保できるのが大きな利点です。コスト構造の最適化を図りたい企業にとって、導入価値の高い選択肢といえるでしょう。
2. 配送効率の向上
共同保管を活用することで、同じ納品先へ向かう商品を1台のトラックにまとめて出荷することができます。これにより、配送回数の削減や積載率の向上が実現し、物流全体の効率が大幅にアップします。
結果として、配送スケジュールに余裕が生まれ、ドライバーの拘束時間短縮にもつながります。効率的な物流体制を構築するうえで、非常に有効なアプローチになるでしょう。
3. 人材不足対策
物流現場では倉庫作業員やドライバーの確保が難しくなっており、業務の分散・効率化が重要な課題です。共同保管により、出荷作業や検品業務を集約・標準化することで、限られた人材でも効率的な運用が可能になります。
特に、繁忙期に応じて作業量を調整できる柔軟な運用体制は、雇用の安定にも貢献します。作業の分業化や教育コストの削減にもつながります。
4. 環境負荷の軽減
共同保管によって、複数の企業の商品を一つの倉庫に集約できれば、同じ納品先への出荷をまとめて行えるようになります。これにより、従来は企業ごとに個別で行っていた配送を一本化でき、トラックの運行台数や走行距離を減らすことが可能です。結果として、CO₂の排出量削減や燃料消費の抑制につながり、環境に配慮した物流の構築に貢献します。
近年注目されているESG(環境・社会・ガバナンス)対応の一環としても評価される取り組みであり、持続可能な物流戦略の一手としても活用が進んでいます。
共同保管の導入における注意点と課題
一方で、共同保管にはいくつかの注意すべきポイントも存在します。
在庫管理の統一ルールが必要
複数の企業が在庫を同じ倉庫で管理するには、明確なルール作りと統一された運用が欠かせません。商品ごとにバーコードやロット番号を使って識別し、システムで一元的に管理する仕組みが必要です。管理体制が曖昧だと、誤出荷や在庫の取り違えなど、トラブルの原因になりかねません。
共同保管を安全かつ円滑に運用するには、あらかじめ業務フローを整え、担当者に依存しない仕組みを構築しておくことが重要です。
情報共有の壁
共同で倉庫を運用する以上、在庫状況や出荷スケジュールなどの情報を共有する場面が多くなります。しかし、取引先や商品情報に関するセンシティブなデータの扱いに慎重な企業も多いため、円滑な情報連携が課題となります。
運営を中立的な第三者に委託したり、情報の共有範囲を明確に設定することが、信頼関係の維持と運用効率の両立に役立ちます。セキュリティと透明性のバランスが求められる領域です。
保管スペースの偏り
企業によって扱う商品の量やサイズ、季節変動による在庫量の増減にはばらつきがあります。そのため、保管スペースを公平に分け合うことが難しいケースも存在します。契約時には、保管量に応じた柔軟な課金制度や、繁忙期と閑散期を見越した運用体制を整えておくことが重要です。
スペースの有効活用とトラブル防止のためには、定期的な見直しや調整も必要になるでしょう。
どのように使われているのか?物流業界での活用事例

共同保管は、さまざまな業種で導入が進んでいます。具体的には以下のようなケースが見られます。
家電量販店向けの共同配送スキーム
家電メーカー各社が、共通の納品先である家電量販店に対して、商品をまとめて納品する仕組みです。この場合、共同保管倉庫を利用することで、各社の商品を一括して出荷でき、トラックの台数や積み下ろし作業の回数を削減できます。納品先となる店舗側も、受け取り作業が効率化されるため、双方にとってメリットの大きい運用です。
特に、納品時間の指定や店舗ごとの納品ルールがある業界では、有効な手段となっています。
食品業界での温度帯別の共同保管
冷蔵・冷凍など、温度管理が必要な食品の物流では、保管や配送に特別な設備とコストがかかります。そこで、同一地域内で複数の食品メーカーが、温度帯別に管理された共同倉庫を利用し、出荷業務も一体化する事例が増えています。これにより、複数社が必要とする冷蔵スペースを効率的に共有でき、運用コストも抑えられます。
また、配送面でも冷蔵トラックの積載効率が向上し、ドライバーの負担軽減にもつながっています。
アパレル業界のセール対応
アパレル業界では、季節ごとのセールやキャンペーン時に、短期間で大量の商品を保管・出荷する必要があります。これに対応するため、期間限定で共同保管倉庫を利用し、複数のブランドが在庫を集約するケースが増えています。急激に増える出荷量にも柔軟に対応でき、物流負荷の分散にも効果的です。
また、配送の集中を避けることで、納品先での受け入れ体制にも余裕を持たせることができます。
共同保管の今後の展望
共同保管は、単なる「スペースのシェア」を超えて、物流全体の最適化を実現する手法として進化しつつあります。
デジタル技術との連携
今後の共同保管では、WMS(倉庫管理システム)やTMS(輸配送管理システム)などのデジタルツールとの連携が重要になります。AIを活用した需要予測や在庫分析によって、無駄のない在庫配置や出荷指示が可能になります。
また、リアルタイムでの在庫可視化や異常検知など、トラブルを未然に防ぐ機能も進化しており、導入企業の満足度も高まっています。テクノロジーの活用が、共同保管の柔軟性と精度をさらに高めていくでしょう。
新たな業種・業界への拡大
共同保管の仕組みは、従来のメーカーや卸売業だけでなく、今後はさまざまな業種に広がっていくと考えられます。たとえば、EC事業者や小売業、さらには異業種間での物流連携も視野に入ります。類似商品や同じ納品先を持つ企業同士が連携することで、さらなる配送効率化や保管の合理化が可能になります。
既存の業界の枠を超えた「協業型物流」が次のトレンドとなるかもしれません。
まとめ
共同保管は、物流効率を高める有力な手段として、着実に存在感を増しています。物流の現場で発生するさまざまな課題である人手不足、配送の非効率、保管コストの高騰に対する解決策として、多くの企業が導入を検討・実施しています。
単なるスペースの共有ではなく、「納品の仕組みそのものを変える取り組み」としての共同保管。今後さらに多様な形での活用が広がっていくことが予想されます。物流に関わる立場として、ぜひその動向に注目してみてください。