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新聞販売店のネットワークを活用したラストワンマイル配送サービスを提供するラストワンマイルソリューション株式会社。物流業界が直面する深刻な人材不足に対し、異業界との連携という発想で配送インフラの新たな可能性を切り拓いています。 今回は、「運べなくなる時代」への危機感から新たな配送モデルを構築し、地方から始める逆転の発想で事業を展開するラストワンマイルソリューション株式会社代表取締役社長の近藤正幸さま(以下、敬称略)に、新聞販売店活用の実際と、その先に描くビジョンについて、お話をうかがいました。モデレーターを務めるのは、株式会社ロジテック代表取締役の川村です。
「運べなくなる時代」への危機感から生まれた挑戦
川村: まずは、近藤社長の会社で取り組まれている事業の概要について教えていただけますか。
近藤: 実は、ラストワンマイルソリューションを立ち上げる前、2009年にロジコンシェルという物流会社のマッチングサービスからスタートした会社を経営していました。
そこで様々なお客さん、つまり荷主企業や物流企業とお話をしていく中で、「運び手が将来たりなくなるのではないか」「運べなくなる時代が来るのではないか」という声が日に日に大きくなっていったんです。
2015年、2016年になってくると、物流業界だけではなく世の中全体に「宅配クライシス」や「物流クライシス」という言葉が社会課題として広がってきました。
川村: なるほど。それが現在の事業を始めるきっかけになったわけですね。
近藤: はい。やはり自らリスクを取って旗を振り、配送する機能を新たに作ろうと考えて設立したのが、ラストワンマイルソリューションです。
今までの10年、20年間、ラストワンマイルの領域では個人事業主の方にたくさん集まっていただいて、最後のお届けをやっていただいていました。けれども、この個人事業主の方たちも人口減少によって労働力全体が不足しています。
今、配送に関わっていない方たちに、ある程度の規模やボリュームで関わっていただかないと、将来の配送できる荷物数が増えないのではないかと考えました。
ラストワンマイル危機を打開する「3つの戦略」

川村: 具体的にはどのような解決策を考えられているのでしょうか。
近藤: 大きく3つの方向があると考えています。
まず1つ目は、ある程度の規模で、今は配達業務に関わっていない方に関わっていただくことです。2つ目は外国人の方にどんどん関わっていただくこと。そして3つ目は、男性中心の業界ですので、女性にも働きやすい環境や配達ができる環境を提供していくことです。
私どもが今推進しているのは1つ目の、ある程度の規模で今は配達業務に関わっていない方たちに関わっていただこうということで、主に新聞業界、新聞販売店さんに新聞を届けた後に宅配の荷物を届けていただくというのが当社の事業になります。
川村: 新聞販売店さんを活用するというのは非常に興味深いアイデアですね。改めて、ラストワンマイルソリューションとして目指している世界観について教えていただけますか。
近藤: 私たちラストワンマイルソリューションは、全国のお客様の手元に安心・安全・スムーズに荷物を届ける最後の役割「ラストワンマイル」を目指しています。
目まぐるしく変化していく私たちの生活の中で、EC市場はさらなる成長を遂げてきています。一方で、「小口配送増加」や「少子高齢化による労働力不足」など物流業界には依然として大きな課題があります。
また、物流業界の課題だけでなく、「買い物弱者」と呼ばれるシニア層の買い物事情や、シニア層をターゲット層に持つ個人店の不況など、高齢化社会は私たちの生活の中で大きな影響を及ぼしています。
私たちは、豊富な配送の知識と地域に密着した新聞販売店の強み—住宅街の中にある拠点や地域の住人との信頼関係—を活かした全く新しい配送網を生み出すことで、届けたい思いと届けてほしい思いの需要と供給のバランスを適切に整えたサービスを構築し、より幅広い層の方が住みやすい世界の創出に貢献したいと考えています。
川村: 非常に社会的意義の大きな事業ですね。実際の全国展開はどのように進められたのですか。
近藤: 通常ですと、東京23区を集中的にインフラを構築してから、首都圏、関東、そして関西、中部といった形で展開していくべきところなんです。けれども、私どもの戦略は逆で、需要度が高いところから始めました。
設立した当初、中心部の23区は、まだまだ配送業務をやっていただける方がたくさんいるエリアでした。その一方で、地方では少しずつ人手が不足して集まらないという現象が起きていました。そういった地方の人が集まらないエリアから順に、対応していただけるエリアを開拓していったのが私どもの戦略です。
都市部ではなく「地方から」始める戦略的判断
川村: 事業展開という観点から考えると、本当に身につまされる話ですね。私たちロジテックは南関東と関西で事業を展開していて、簡単に言ってしまうとプレイヤーがたくさんいるから事業としての立ち上げが早いんです。でも、面を広げれば広げるほど、都市部ではないところの展開になればなるほど、事業展開としては結構しんどい部分がたくさんあると思うんです。それでも踏み切られたわけですね。
近藤: そうですね。ご指摘の通りで、事業の展開としては非常に厳しいというのが本音です。本来であれば23区でしっかりと利益を稼いでから地方を展開していかなければならないんです。けれども、需要が高いところからどんどん展開していきましたので、利益という意味で言うと非常に厳しいというのが正直なところです。
川村: そこで1つお聞きしたいのが、先ほど3つの代案のお話がありましたが、この業界では「経験があった方がいい」という当たり前のことを提示されてしまうと、一気に選択肢が狭まって「誰もいないじゃないか」となってしまいます。パズルのピースのように欠けている部分に、未経験者がすぐにはまるかというと、はまらない部分が多いと思うんです。そこにはどんな工夫をされているんですか。
新聞業界と物流業界の「常識の壁」をどう越えたか

近藤: まさにそこが非常に大きなポイントです。新聞業界には新聞業界の本業がありますし、新聞業界の常識があります。ここがなかなかマッチするのは難しいだろうなと考えていました。
やはり最初の1年、2年は非常に大変でした。物流側、委託する側にも新聞の常識に合った形で協力をしていただいたり、本業に支障のないところで一緒にモデルを作っていったり、こういったところを本当に1つ1つコツコツやってきました。
ギグワーカーさんの市場も今後どんどん伸びていきますし、ギグワーカーさんのような働き方の方たちもどんどん入っていただいて、選択肢がどんどん増えていくのが重要だと思っています。その中の選択肢の1つを私どもはどんどん増やしていきたいと考えています。
「安すぎる配送費」からの脱却-付加価値で単価向上を実現
川村: 1つ伺いたかったのが、なんでこんなにこの業界って安いんですか。
近藤: これは配送のところでいうと、本当に30%、20%といった手数料がいただけるような業界ではないんですね。
翌日ではなくて当日で、なおかつ届けるプラス何らかの付加サービスで単価を上げる、こういったことが必要になってくるのではないかと思っています。そういったサービスのところについては、しっかりと料金をいただけるようなサービスの設計をしていきたいと思っています。
川村: 私としては、付加サービスなはずのことが標準のサービスみたいになっている感覚を覚えています。
それこそ御社の場合で考えた時に、最後の1マイルのところまで荷物が届いています。「取りに行くのが大変だから代わりに届けて」となれば、それってまさに付加価値だと思うんです。それを「数十円でやって」となってしまうと…。例えば「駅まで行くのが面倒だからタクシー呼んで数十円」なんてありえないわけじゃないですか。
実際に付加価値として提供できるものは、御社のサービスの中だとどういうことが想定されますか。
近藤: 例えば、私どものような地域密着のサービスであれば、お届けした時にプラスアルファの何かをお渡ししたり、お声がけをしたり、そういったことは非常にやりやすい組織でもあります。
川村: これはやっぱり地域を限定していることで、全国展開されている会社さんだと全国で統一したサービスなので、そこでできないようなことができる、というわけですか。
近藤: そうですね。それがまさに地域密着、地域限定でやりやすいところでもあります。
新聞業界の構造変化を物流インフラ拡大の機会に

川村: 今後の課題についてもお聞かせください。
近藤: これから私たちの業界の課題として、夕刊業務がなくなっていくと言われています。今、全国で約1万2000店ほど新聞販売店があり、20万人の方が配達業務をされています。
その20万人で朝刊と夕刊の2便体制で配達をしていて、そのうちの夕刊の1便がなくなった時に、こういう言い方はあまりしたくないんですけれども、ものすごい戦力が余るという状況になります。ここを別のことで活用できるようになります。物流側ではインフラを活用することができますし、新聞店側では親和性の高いサービスを提供できるようになります。
川村: なるほど。業界の構造変化をチャンスとして捉えているわけですね。
B2C進出を目指す物流企業との連携強化
川村: 御社のソリューションを上手に使いたいとか、同じようなことをやっていきたいというお客様や関係の方もいらっしゃると思います。メッセージをいただけますか。
近藤: 私も共に創る「共創」というテーマを掲げています。今、本当に一部の取り組みが昨年からスタートしているんです。
都道府県の中で、「これが得意なんだ」とか「こういった物流に特化しているんだ」といった企業様でも、まだB2C(個人向け)のところには進出していないけれども、いずれ進出したいという企業様を、ぜひ興味を持っていただけるような物流企業様であれば、私どもの事業に参画していただいたり、共にサービスを作ったり、こういったことを一緒にやっていきたいと思っています。
川村: B2Cはやってみないと魅力が分からないところや、利益の出し方、ビジネスとしても成り立つ方法はいくらでもあると思っていますので、参画者が増えていただけるとうれしいですよね。
近藤: はい、そうですね。
川村: 本日はラストワンマイルソリューション、近藤社長にお話を伺いました。近藤社長、どうもありがとうございました。
近藤: ありがとうございました。
既存リソースの再発見が切り拓く、物流の新たな可能性
今回のインタビューで特に印象的だったのは、新聞販売店という身近な存在を物流インフラとして再発見する視点でした。
新聞を取っている方は少なくなっているかもしれませんが、街の中を見るとたくさんの販売店があります。それがシェアできるリソースなんだという捉え方をすると、活用方法は無限に広がります。
また、今日のお話の中で「確かに」と思ったのが、品質の高さというお話でした。
触れたことがないテーマだからこそ、「こういうものだろう」という決めつけをしてしまってはいけません。新たに活用できるリソース、ヒューマンパワーがある場所が新聞販売店だということを感じました。
物流業界が直面する人材不足という課題に対して、従来の発想を超えた解決策を提示する近藤社長の取り組み。地方から始める逆転の発想、異業界との粘り強い連携、そして付加価値による収益改善など、多くの示唆に富んだお話でした。
今後も物流業界の革新的な取り組みを追い続け、読者の皆様にとって有益な情報をお届けしてまいります。
企業プロフィール
会社名:ラストワンマイルソリューション株式会社
本社所在地:東京都中央区日本橋蛎殻町1-38-12 油商会館ビル 6F
設立:2014年6月