新物流効率化法とは?10分で解説

2025.09.02

ECの拡大や人手不足、2024年問題による労働時間制限などで、物流現場は深刻な効率化の必要に迫られています。こうした課題を解決し、限られた輸送力を最大限に活用するために制定されたのが、新物流効率化法です。本法は、関係者同士の協力と情報共有を促し、業界全体の構造改革を後押しします。

本記事では、この法律の基本的な内容から、実務での活用方法、メリット・注意点、そして業界の最新動向までをわかりやすく解説します。

📌 ポイントはここ
  • 荷主・物流事業者間の情報共有と協力体制の強化
  • 共配・共同配送や倉庫共同利用による輸送効率の向上
  • 2024年問題への対応と持続可能な物流構造の実現

新物流効率化法とは?

「新物流効率化法」(正式名称:「物資の流通の効率化に関する法律」)は、 2025年4月1日から施行された、物流の流れをもっとスムーズで持続可能にしようという法律です。背景には、荷主側と運ぶ側、物流に関係するすべての事業者にかかわる トラック運転手の不足や長時間労働 といったいわゆる「2024年問題」があります。

この法律では、関係者が取り組むべき内容や努力すべき方向を明確にし、荷物のムダな動きを減らしながら、互いに協力して効率を高めることを目指しています。たとえば、空車を減らす仕組みづくりや、荷主と運送業者の情報共有、物流施設や倉庫の活用方法の工夫などが含まれます。

実務でどう活用されている?流れと適用場面

新物流効率化法は、実際にどのような場面で解説されているのでしょうか?ここでは3つの適用場面について解説します。

1. 荷主・物流事業者が情報を開示・共有する流れ

荷主側は、配送数量・時間帯・場所といった情報を、できるだけ スケジュール共有ツールやマッチングシステム を通じて物流業者に提供します。そうすることで、運送業者側は、 空車や待機時間を減らすルートや配車計画 を立てやすくなります。

2. 地域の共同取り組み(共配・共同配送)

たとえば、複数の企業が同じ地域に荷物を送るなら、 荷合わせして同じ車に積む「共配」 や、 複数社が一緒に一台のトラックで配送する「共同配送」 の導入を促します。荷物をまとめることで、輸送回数が減り、環境負荷も小さくなります。

3. 倉庫・輸送設備の共同利用

荷主や物流業者がお互いの 倉庫や配送センター、積み込み施設を共有 することが奨励されます。
こうすることで、 荷物の保管効率向上や余剰スペースの活用 が可能になります。

従来の取り組みとの違いは?

これまでの物流効率化の取り組みは、各企業が自社内で最適化を図る「個別最適」が中心でした。たとえば、荷主ごとの専用便や、自社倉庫だけでの在庫管理などです。これらは社内では効率的でも、業界全体では空車や重複配送といったムダが残ることが多くありました。

一方、新物流効率化法では、業界全体の効率化を目的に、荷主・物流事業者・倉庫事業者などが垣根を越えて協力する仕組みを制度的に後押しします。具体的には、共配や共同配送の促進、倉庫や物流施設の共同利用、情報共有の義務化・努力義務化などが挙げられます。

新物流効率化法導入で期待される効果

新物流効率化法を取り入れることにより、次のような効果が期待できます。

輸送効率の向上によるコスト削減

共配(共同配送)やルートの最適化によって、同じ地域に向かう複数の配送を一つにまとめられるため、走行距離や輸送回数が大幅に減ります。その結果、燃料費・人件費の削減だけでなく、車両の稼働率が向上し、保有車両の台数削減や整備コストの低減も期待できます。

さらに、無駄な運行を減らすことで車両の寿命延長も期待できるでしょう。

トラックドライバーの負担軽減と労働環境の改善

待機時間や長距離運行が減ることで、ドライバーの拘束時間が短縮され、労働時間の平準化が可能になります。特に都市部や長距離輸送では、休憩時間の確保や深夜運行の削減につながり、過重労働の防止に効果的です。

これにより健康面でのリスク低減やワークライフバランスの改善が期待でき、人材定着率向上にもつながります。

CO₂排出削減など環境負荷の軽減

輸送回数の削減は、直接的に車両からのCO₂排出量を減らし、環境負荷の低減につながります。特に、燃費改善や省エネ運転と組み合わせれば、削減効果の期待も。

こうした取り組みは、企業の脱炭素経営やESG評価の向上にも直結し、取引先や投資家からの評価にも影響します。

荷主・物流事業者間の協力体制強化 

情報共有や施設共同利用が進むことで、従来は競合関係にあった企業同士でも信頼関係を築けるようになります。これにより、配送や保管の共同化だけでなく、共同購買や販路拡大など新しいビジネス機会の創出にも発展します。

長期的には、地域や業界を超えたサプライチェーン全体の最適化にもつながるでしょう。

新物流効率化法の注意

一方で、新物流効率化法を取り入れ、仕組みを変えることでの以下のような注意点も挙げられます。

協力相手との調整や合意形成に時間がかかる可能性

複数企業が一つの仕組みを運営するには、配送スケジュールや費用負担のルール作りなど、事前の話し合いが欠かせません。調整に時間がかかれば導入が遅れ、期待する効果が十分に発揮できない可能性があります。

また、意見の食い違いが続くと協力関係が停滞するリスクもあります。

情報共有システムやツール導入のコスト発生

新たに導入するシステムやツールには、初期費用・ライセンス費用・運用保守費用などが発生します。特に中小企業では負担が大きく、補助金や共同出資などの活用が不可欠になる場合があります。

導入効果と費用対効果を事前に精査することが重要です。

競合間での情報共有による商流・機密情報のリスク

取引先情報や販売数量、原価などの機密情報が流出すれば、企業の競争力低下につながります。そのため、共有範囲やアクセス権限を明確にし、必要最低限の情報のみを交換するルールづくりが欠かせません。

情報漏洩対策として、暗号化通信やログ管理も重要です。

利益配分や負担割合に不公平感が生じないような仕組み作りが必要

共同で取り組んだ結果生まれるコスト削減や新たな収益が、一部の企業に偏ると不満や不信感を招きます。公平性を保つためには、事前に成果やコストを数値化し、透明性のある分配ルールを合意しておくことが求められます。

不公平感の回避は、長期的な協力関係の維持に直結します。

最近の業界動向と今後の展望

近年、物流業界ではEC市場の拡大による配送需要の増加に対し、トラックドライバー不足や高齢化、2024年問題による労働時間制限などの課題が深刻化しています。こうした背景から、都市部では共同配送や小規模拠点(マイクロハブ)の活用によるラストワンマイル配送の効率化が進み、同時に環境対応としてEVトラックや水素燃料車、再生可能エネルギーを使った倉庫運営などグリーン物流への取り組みも加速しています。

さらに、AIによる配車最適化や需要予測など、デジタル技術の活用が拡大しており、新物流効率化法が求める情報共有や協力体制強化との親和性も高いです。
今後は、法律による制度的後押しと企業間の連携、技術革新が相乗効果を生み、共配や共同利用の拡大によって業界全体の効率性や環境性能が一段と向上していくことが期待されます。

まとめ

新物流効率化法は、これまで個別最適が中心だった物流の仕組みを、業界全体での効率化へと導く大きな転換点となる法律です。背景には、ドライバー不足や労働時間規制、環境対応など、企業の枠を超えた課題があります。こうした問題に対し、情報共有や共同配送、倉庫の共同利用といった取り組みを制度的に後押しすることで、輸送効率の向上、労働環境の改善、環境負荷の軽減といった効果が期待されます。

一方で、調整負担やシステム導入コスト、情報管理リスク、公平性の確保といった課題も残ります。これらを踏まえ、関係者間で信頼とルールを築きながら取り組みを進めることが、法律を真に活かす鍵となります。新物流効率化法は、単なる法令遵守にとどまらず、持続可能で競争力のある物流を実現するための土台として、今後ますます重要性を増していくでしょう。

新物流効率化法に関するよくある質問とその答え

Q1. 新物流効率化法の対象となるのはどのような事業者ですか?

A. 荷主(製造業・小売業など)、運送事業者、倉庫事業者、物流施設を運営する企業など、物流に関わる幅広い事業者が対象です。特定の業種に限定されず、サプライチェーン全体での協力を促すことが目的です。

Q2. 取り組みは必ず実施しなければなりませんか?

A. 法律で定められた一部の措置は義務ですが、多くは「努力義務」として位置づけられています。ただし、努力義務といえども今後の取引先評価や業界内の信頼に影響する可能性が高く、積極的な対応が推奨されます。

Q3. 新物流効率化法の導入で期待できる主な効果は何ですか?

A. 輸送効率の向上によるコスト削減、トラックドライバーの負担軽減、CO₂排出削減などの環境負荷軽減、荷主と物流事業者間の協力体制強化などが挙げられます。これらは業界全体の持続可能性向上にもつながります。

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