物流現場取材シリーズ【25】数字で変わる業界構造改革の実現ー物流コンサル山田氏

日本のトラック運送の業界では、供給が追いつかないほど需要が増えているのに価格が上がらず、価格転嫁率が全業種中最下位。 その一方で、アメリカのトラックドライバーは全業種の平均所得の約1.2〜1.25倍という高い水準にあるといいます。

今回は、物流業界の「今」を変え、より良い未来を創り出そうと挑戦する業界のキーマンである山田経営コンサルティング事務所 代表の山田健さま(以下、敬称略)との対談記事第2弾です。ドライバー待遇改善の必要性と数字を活用した経営革新について、お話をうかがいました。モデレーターを務めるのは、株式会社ロジテック代表取締役の川村です。

山田さまとの対談シリーズその他の記事はこちら

第1弾:物流現場取材シリーズ【22】変革の時、物流業界の未来を拓く羅針盤(山田経営コンサルティング事務所様)

「教師からドライバーへ」が象徴するアメリカとの違い

川村:日本の運送業界の現状について、印象深いエピソードがあるそうですね。

山田:ええ。私は旅番組が好きでよく見るんですが、アメリカで日本のタレントがヒッチハイクで横断するという企画の番組を見ていたときのことです。

ある女性のトラックドライバーに乗せてもらって、車内での会話の様子が放送されました。日本のタレントがr「前は何の仕事をされてましたか?」と聞くと「教師をやっていた」と答えたんです。

川村:教師からトラックドライバーへ、ですか。日本では考えにくい転職パターンですね。

山田:そうなんです。「なぜ転職されたのですか?」と聞くと「給料が高いから」という答えでした。これがアメリカの現実なんだと驚きました。お金を稼ぎたいからドライバーになる。日本とは真逆の選択肢ですよね。

実際、2023年の新聞記事で見たのですが、アメリカの宅配大手の会社であるUPSのドライバーがストライキを起こしそうになった時の平均年収が、日本円で1370万円だったんです。

川村:1370万円!それは驚きの数字ですね。

山田:それでも彼らは「コロナの時、みんながリモートワークをしている中で、自分たちは毎日休まず働いた。だからストライキをしてでも賃上げを要求する」と言っていたんです。

もちろん、この数字をそのまま日本に当てはめることはできません。アメリカはインフレが進んでいますから。ただ、調べてみると、アメリカ人の平均所得と比べてもドライバーの方が高い水準にあります。

川村:やはり日本のドライバーの待遇をもっと上げなきゃいけないっていうのは、決して的外れな話ではないんですね。

山田:日本の場合はドライバーの方が2割ほど低いんです。

それでなくても魅力的とはいえない職業で、賃金以外の要素を議論する以前の問題として、あまりにも差が開いてしまっている。やっぱり最終的には、そこに手をつけないことには抜本的な解決にはならないんじゃないかと、最近つくづく思うんです。

なぜかトラック運賃だけが市場原理の枠外という現実

川村:金額の決まり方でいうと、需給バランスで考えるべきですよね。仮に日本とアメリカで比べて、アメリカのドライバーの方が給料が2倍高いとした場合、その需要と供給のバランスが2倍ずれているという捉え方でもいいんでしょうか。

山田:いや、そうではないんですね。本来なら需要と供給で決まるべきなのに、トラック運送はその理屈から外れてしまっているんです。

同じ物流業界でも、トラック以外は需要と供給で決まっています。たとえば、海運業界なんかはコロナのときに3倍ぐらい上がったんですよ。

航路の便数がなくなって、船が滞留してしまうということで運賃が上がって、海運会社はとんでもない利益を出したんですよね。売上以上の利益が出るという、非常に不思議な現象もありました。

それはある意味、当たり前の経済原理なんです。なぜかトラックだけは、これだけ供給がひっ迫しているのに価格が上がらない。

川村:価格転嫁の問題ですね。

山田:いまだに、コストの価格転嫁率は31業種中最下位なんですよ。これは経済産業省か中小企業庁が調査して発表しています。つまり価格転嫁がまるで進んでいないってことなんです。

ところが「単価を上げるための料金交渉をとにかく頑張りましょう」で、議論が終わってしまう。

たとえば「荷主さんとの古くからの約束がそうなんだ」「慣例的にこうだから変えられない」と、単価の交渉に行き着かないケースが非常に多いんですね。

現実には存在しなかった“認可運賃”の見えない壁

川村:その背景には運賃決定の仕組み自体に問題があるということでしょうか。

山田:問題の一つは、認可運賃だと思っています。例えばタクシーや電車、バスの運賃は認可運賃ということ。認可運賃とは、国土交通省に申請をして、それで認められた運賃ですね。

もともと、トラックの運賃も認可運賃だったんです。それが規制緩和の対象になったことによって、価格競争が激しくなったわけです。

ただ、昔、私は営業をやっていて、認可運賃なんて思ったことは1度もないし、もちろん荷主さんもそんなことを知らないのが現実でした。実態は実勢運賃がずっと続いているという状況に法律が追いついたんです。

それでも、認可運賃は「運賃はこのぐらいの金額でなければいけない」という考えの基準にはなっているのでしょう。

いくら運送業者さんに「もっと運賃交渉を強気で」って言っても、前には進まないような気が最近はすごくしています。

川村:おそらく、簡単な解決策は出てこないですよね。

山田:残念ながら出てこないですね。かなり政策的な問題になってきてしまうと思います。本気でやろうと思えば。

「俺の背中に書いてある」から脱却する数値化の重要性

川村:ここでテーマを変えていきたいと思います。「物流を数字で語ろう」というところで、ちょっと伺いたいことがあります。

当社、株式会社ロジテックは、2025年で5期目です。5年前に人材派遣の領域から倉庫を借りて自分たちで物流事業を始めて、業界の有識者の皆さんのところへ勉強しに行きました。

そうすると8割ぐらいの方が「答えは俺の背中に書いてある」っていう感じなんですね。

山田:そうですか。

川村:もちろん職人的な仕事の仕方として、見て盗むことは大事だと思うんですが、なぜそうなっているのかっていうのを理解するまでけっこう時間がかかった印象があります。

それを数値化や言語化する必要性があるんじゃないかな、と感じたんです。数字で語るっていうことは業界的に不得意なんでしょうか。

山田:残念ながら、極めて数字に弱いというか、そもそも数字を見ないんです。

ずいぶん昔の話ですけど、私が昔入った会社で、先輩に言われたことがあるんですよね。

「俺は算数ができないから運送に入ったんだ」って言うんですよ。その時に、すごくがっかりして「あ、就職先間違えたな」と真剣に考えましたけどね。

研究所での経験で学んだ「数字の威力」

川村:「右にあるものを左に運びましょう」という作業は、ある意味算数は要らないと思うんですけど、「何分で何個運ぶ」は算数ですよね。

山田:そうです。そうです。物流っていうのは物を動かしているわけですから、そこには全部数字がくっついてきているはずなんですよね。積載率や運賃、何から何まで。

特に数字が大事な場面は2つあって、一つは荷主さんに提案するとき。それから、現場を改善しようとするとき。この2つで必要になるんですよ。

ただし、私が物流会社で営業をやっているときは、ご多分に漏れず数字には全く関心がなかったです。

数字の大切さに気付いたのは、私が研究所に移ってからです。親会社の営業部隊の支援をする際に、我々が荷主さんのデータをいただくんですよ。それを解析して、たとえば「ここをこうすれば、これだけコストが下がります」と提案し始めました。

そしたら、営業の成功確率が非常に高く…というか、ほぼ100%仕事を取れました。

川村:100%!すごい確率ですね。

山田:特に、荷主さんがメーカーさんの場合は、もう確実でしたね。

メーカーさんっていうのは、数字で語った提案以外は一切見てもくれないんですよ。「ここをこう改善すればいいです」って口でもしくは文書で言ったとしても、そんなものは全く相手にしてもらえない。

ちゃんと論理的に数字を使って、数字できちんと答えを出すと、驚くほど相手は反応してくれるということに気がついたんです。「営業やっているときは、全くこれをやってなかったな」と思いました。

川村:山田さん自身も、最初から数字の大切さを知ってたわけじゃなくて、そういう経験によって数字の大切さを知っていったんですね。

山田:全くそうです。お恥ずかしながら。研究所に行って、そういうアプローチをし始めて初めて気がついた。

川村:ある意味、数字を触らなくても仕事として回すことができてしまうっていう見方もできます。

山田:かつては、それで回していたわけですよ。でも必然的にそれは見積もりの値段での勝負になってしまう。そうじゃなくて、極端に言えば見積もりの値段は変えずに物流の仕組みを変えることで、荷主さんが求めていることが実現できることをちゃんと数字で証明してあげることが、重要なんです。

時代の変化と数字活用の必要性

川村:黙っていても仕事が入ってきて、それなりの金額で回せていた時期は、算数は要らなかったのかもしれないですね。荷主さんが言う通りにやっていれば、仕事が成り立った時代は確かにありましたから。

山田:その当時は良かったんでしょうね。今は、単価が下がってきてしまっている中で、物流の仕組み自体を大きく変えていかなければいけない。これはきちんとデータを使わないとできないですよね。

川村:そうなると例えば、単価の交渉をしに行って「数字で根拠を示せません」ではダメですよね。

山田:ダメですね。

川村:あと、何か要望・要求をされた時に、数字で反論ができれば、ちゃんとした議論になっていくということですよね。

山田:そうです。やはりメーカーさんっていうのは数字が共通言語なんですよね。数字で語ったことについては間違いなく耳を傾けてくれる、そういうDNAみたいなものがありますので、そこをよく理解しておく必要があります。

川村:数字の重要性にお気づきになられたきっかけが営業支援的な役割ということでしたが、数字に興味をお持ちの会社さんは、やっぱり営業面も強いんですか。

山田:そうですね。3PL(※サードパーティー・ロジスティクス)の中でも、メーカー系のところは当然そういうDNAが引き継がれていますから。それは営業面、特に提案営業という意味で強いことは間違いないです。

川村:営業って、提案型の営業と、タイミングさえ合えば受注するというタイミング営業とでいうと、やっぱりタイミング営業の方が単価はいじりにくいですよね。

山田:そうですね。

川村:私たちも感じることがあるんですけど、数字を語れるようになることと、数字を語る自分の話を聞いてくれる方にアプローチすることと、両方必要ですよね。

山田:それはありますね。

川村:やっぱり業界の中で、そこに気づいていかないと戦えないじゃないですか。

山田:そうです。そうです。

トラブル解決から始まる数値化への気づき

川村:ただ、必要だと言われても自らがそこに必要性を見出さないことには、勉強しにくいと思うんですけど、気づくきっかけみたいなものが何かあれば教えていただけますか。

山田:きっかけは、荷主さんといろんなトラブルが起きたときですね。

最近お手伝いしたケースですが、多分、倉庫ではよくある話で、荷主さんと何坪でいくらという坪貸し契約をやっていると、必ずトラブルが起きます。

たとえば、荷主さんが「この貨物は1000坪に入るはずだ」と。これに対して運送会社さんは「積載効率が悪いから1500坪じゃないと」とか。しょっちゅう揉めるんですよ。お互いに数字で語っていないから結論が出ないわけです。

川村:水掛け論になってしまうわけですね。

山田:それは、今の在庫量をきちんと数字で積み上げて、ある程度の必要面積っていうのはデータで計算できるんですよね。通路の幅がどのぐらいで、パレットにいくつ置いて、パレットを何段積んで…と。

川村:第三者である山田さんが、ファクトチェックセンターとしての役割を果たすことができるんですね。では、自身や自社で判断しないといけない場合はどうすればいいんでしょうか。

山田:大事なのは、仮説を持つこと。どんなに数字やデータを集めてきても、そこに仮説がないと分析のしようがないんですよ。だから、まずは「あるべき姿」を思い描いて、そこからデータを使って分析していくことですね。

山田さまとの「物流と数字」の話は、この後、さらに深い話に突入します。以下のURLから対談動画もぜひご覧ください!

【物流レジェンドシリーズ】山田先生に聞く!物流を数字で語ろう!
https://youtu.be/GoCRZNkMOOw?si=t1ivCRELRUuQbtwt

企業プロフィール

会社名:山田経営コンサルティング事務所

本社所在地:東京都中央区銀座6-6-1 銀座風月堂ビル5F

設立:2014年6月

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