【業界ニュース】置き配の“標準化”が明文化
──約款改正へ向かう制度づくりが、物流現場にもたらす次の論点とは

📌 ポイントはここ
  • 国交省提言で、置き配は“検討テーマ”から“制度化前提の設計段階”へ
  • データ標準化・責任ルール整理など、現場オペレーションに直結する論点が可視化
  • 改正は2026年度以降を見込み、今から運用・契約の棚卸しが求められるフェーズへ

今年6月、ロジパレジャーナルでは「置き配を標準サービスにする方針が検討されている」とお伝えしました。
あれから5か月。議論は“検討段階”を離れ、制度づくりそのものが動き出しています。

11月に公表された国土交通省の有識者検討会の提言では、置き配を宅配の“標準的な受け取り方法”とする方向性が明確に示されました。
標準宅配便運送約款の改正を見据えた内容で、6月時点とは比べものにならないほど踏み込んだ論点が示されています。

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【業界ニュース】置き配が“標準”に
──宅配の新ルールが物流現場にもたらす変化とは

明文化された「検討段階」から「制度づくり」への移行

置き配“標準化”の主な動き

2023〜2024年ごろ

・再配達率の公表と削減目標の設定
・置き配の普及に向けた実証実験やガイドライン案が議論

2025年6月

・「標準サービス化の検討」が表明される

2025年11月(今回)

・有識者提言で“標準的な受け取り方法”として位置づけが明文化
・約款改正・データ標準化・責任ルールなど、制度づくりの焦点が整理

2026年度以降(予定)

・標準宅配便運送約款の改正・関連制度の見直し
・現場運用・契約・マニュアルの更新が本格化

国土交通省が示した今回の提言は、置き配の位置づけを“例外的な受け取り方法”から“標準的な手段”へと整理する方向が、初めて明文化された点がポイントです。

6月時点では「標準化を検討する」という表現にとどまり、制度設計の細部までは見えていませんでした。
一方で今回は、約款改正の方向性や実務面に関わる論点まで踏み込み、議論が明らかに次の段階へ進んでいます。

制度改正が実施されるのは2026年度以降と見込まれていますが、現場が向き合うべきテーマはすでに姿を現し始めています。

制度設計が示した3つの焦点

1. 配送データの標準化

オートロック物件を中心に広がる“受け取り環境の多様化”に合わせ、配送データの形式を事業者間で標準化する方針が示されました。
宅配会社・不動産管理会社・システム事業者がそれぞれ独自仕様で運用している現状を踏まえると、この標準化は情報連携の基盤づくりにつながります。

2. 置き配時の責任分担ルール

盗難や破損などのトラブルを想定し、ガイドライン整備を進めるとしています。
証跡管理の方法、補償範囲の明確化、再委託先への説明フローなど、線引きが曖昧にできない領域がいくつも含まれています。

3. 標準宅配便運送約款の見直し

置き配を“標準的な選択肢”として扱う方向が示されました。
それに伴い、契約書・マニュアル・利用者への案内文など、幅広い実務文書のアップデートが必要になる可能性があります。

6月の段階では見えていなかった具体策が、今回の提言で一気に可視化されています。

「手渡し有料化」はまだ確定ではない

決まったこと/まだ決まっていないこと

今回の提言などで方向性が示されたこと 現時点でまだ具体像が見えていないこと
・置き配を「標準的な受け取り方法」として位置づける方向性
・標準宅配便運送約款の見直し
・配送データ形式の標準化を進める方針
・盗難・破損時の責任分担に関するガイドライン整備
・手渡しを含む料金体系の具体案(有料化の有無・水準)
・いつからどのようなスケジュールで改正が適用されるか
・各社の個別サービス・約款への反映の仕方
・保険・補償の具体的なスキーム

一部報道やメディアでは「手渡しが有料になる」という表現が注目を集めていますが、今回の提言には料金項目は含まれておらず、主要宅配会社からの正式な発表も出ていません。
制度として“料金に踏み込んだ判断が下された”わけではない点は押さえる必要があります。

ただし、再配達削減や受け取り方法の多様化といった背景を踏まえると、将来的に料金設計の議論が深まる可能性は否定できません。
この段階で誤解が広がると、契約更新や運用設計を前倒しで見直してしまい、本来不要なコストや調整負担が発生する恐れがあります。

だからこそ今は、
「制度として何が決まり始めているのか」
「まだ示されていない論点はどこなのか」
を分けて把握することが現場の判断精度につながります。

置き配“標準化”は誰に何を求めるのか

制度改正は2026年度以降とされていますが、今回の提言が示した論点は、宅配会社だけでなく、荷主・EC事業者、不動産管理会社、物流支援企業など、業界全体に関わってきます。

置き配が“例外”から“標準”へ移行する過程では、プレイヤーごとに向き合うテーマが異なります。

宅配事業者

置き配を前提としたオペレーションづくりが求められます。
写真による証跡管理のルール化、盗難・破損時の説明手順、再委託先との責任分担など、運用面の細かな線引きが避けられません。
約款改正が進めば、マニュアルや教育内容の見直しにもつながっていきます。

荷主・EC・小売事業者

配送方法の選択UIや、顧客への案内方法をどう再設計するかが論点になります。
置き配を選択する利用者が増えれば、トラブル発生時の対応フロー、返品・交換の基準、問い合わせの導線整理など、顧客体験の設計そのものを見直す必要があります。
EC独自の「置き配ガイドライン」を検討する企業も増えるかもしれません。

住宅管理・不動産側

オートロック物件における置き配の扱い、マンション規約の整理、住民への方針共有など、管理会社側の判断も求められます。
配送データの標準化が進めば、建物側のシステム対応が議論になる可能性もあります。

業界全体に共通するテーマ

事業者間でのデータ連携、トラブル対応の基準づくり、そして荷主×配送×管理会社の三者での合意形成――。
今回の提言で論点が可視化されたことで、各プレイヤーがそれぞれの立場から自社の論点を棚卸しし、調整を進めるステージに入ったと言えます。
制度化が進む前のこの期間を活用し、関係者間の役割分担を整理しておくことが、改正後の混乱を抑える手がかりになります。

置き配“標準化”で浮かび上がる、プレイヤー別の主な論点

プレイヤー 主な論点・テーマ
宅配事業者 ・置き配時の証跡取得ルール(写真・ログなど)
・盗難・破損時の説明手順と補償の扱い
・再委託を含む責任分担の整理
・非対面前提のマニュアル・教育体制
荷主・EC・小売 ・配送方法選択UIと案内文の見直し
・トラブル発生時の顧客対応フロー
・返品・交換ポリシーとの整合性
・自社版「置き配ガイドライン」の整備
住宅管理・不動産 ・オートロック物件での置き配可否とルール
・管理規約・注意文書の更新
・住民への方針共有とトラブル時の窓口整理
・建物システムと配送データの連携
生活者 ・受け取り場所・方法を選ぶ際の判断材料
・万一のトラブル時の相談先・手続き
・生活スタイルに合った受け取り方の選択

置き配は単なる“再配達対策”ではない

置き配の議論は、再配達率の改善にとどまりません。
共働き世帯の増加、高齢者の外出負担、在宅時間の多様化など、生活者の受け取り方そのものが変わる中で、「選べる受取方法」を整える意義が高まっています。

利用者にとっては“時間に縛られない受け取り体験”につながり、
事業者にとっては配達の平準化や不在時の負荷軽減が期待されます。
制度の整備は、生活者と現場双方の安心と効率を両立させる取り組みと言えます。

まとめ

今回の提言は、置き配の標準化に向けた制度づくりが本格的に動き始めたことを示しています。
6月時点では見えなかった「データ標準化」「責任ルール」「約款改正」という具体策が示され、業界全体が向き合うべき論点が明確になってきました。

・置き配の標準化は“検討段階”から“制度設計”へ
・新たな論点が宅配・荷主・管理会社の実務に直結
・改正までの猶予期間を、契約・運用の棚卸しに活かす

ロジパレジャーナルでは、制度の進展と現場への影響を丁寧に読み解き、物流の現場に役立つ視点を引き続きお届けしていきます。

編集部のひとこと

“置き配の標準化”が示すもの

今回の提言を読んで感じるのは、行政が見据えている論点が「宅配そのものの効率化」から、もう一段上のレイヤーへ広がっているということです。標準化の背景には、人手不足や再配達率だけでなく、都市生活の変化や住環境の多様化といった“生活基盤のアップデート”が透けて見えます。

とりわけ鍵を握るのは、宅配と住宅の“境界面”です。オートロック物件の扱い、管理規約の見直し、データ連携の設計など、これまでは個別の事業者努力で吸収されてきた領域に、制度が踏み込み始めています。置き配を巡る議論が、宅配の現場だけでは完結しなくなってきた象徴と言えるでしょう。

制度が整うことで業務負荷が減る部分もあれば、新たなルールづくりが必要になる部分もあります。ただ共通して言えるのは、「これからの受け取り方」は、事業者だけではなく、住宅側・生活者側を含めた“街全体”で考えるフェーズに入っているということです。今回の提言は、その転換点を示すサインのひとつだと感じています。

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