ヤマト運輸が外国人ドライバー500人採用へ
― 10年先を見据えた取り組みから見える、物流業界における人材確保の現実

📌 ポイントはここ
  • ヤマト運輸がベトナムのFPTと連携し大型ドライバー候補を年100名育成、1年半の語学・安全教育後に特定技能1号で最長5年就労──最大500名受け入れ。
  • 対象は宅配ではなく幹線輸送(大型・長距離・夜間中心)。固定ルートで標準化しやすく、国内採用の難所を補完する狙いか。
  • 日本人と同等処遇を前提に投資し、期別の育成→就労→退職が循環する約10年スキームで幹線の輸送力を安定化。

2025年11月、ヤマト運輸はベトナムのFPTジャパンホールディングスと協力し、大型トラックドライバー候補者を年間100名規模で育成し、2027年以降に最大500名まで受け入れる計画を発表しました。

候補者はまずベトナム国内で半年間の日本語・安全教育を受け、その後「留学生」として来日し、約1年かけて日本語学校に通いながら大型免許を取得します。そのうえで在留資格を特定技能1号に切り替え、最長5年間、大型トラックでの幹線輸送を担います。

ヤマト運輸×FPTによる育成スキームの全体像
STEP 1
ベトナムでの事前育成(約6か月)
  • 日本語(N4レベル想定)の学習
  • 日本文化・交通ルールの基礎理解
  • 安全教育(基礎)
STEP 2
日本での留学・研修(約1年)
  • 日本語学校でN3レベルを目指す
  • 外免切替・大型免許の取得
  • 日本での生活・安全教育(応用)
STEP 3
特定技能1号での就労(最長5年間)
  • ヤマト運輸に入社し大型幹線ドライバーとして勤務
  • 社内の安全教育・運行教育を継続
  • 幹線輸送部門の中核戦力として活躍

対象は宅配ではなく、拠点と拠点を結ぶ幹線輸送です。1年半育て、5年働くという一見コストの大きな仕組みを、ヤマト運輸があえて500名規模で実行する背景には、「日本人ドライバーを採れば何とかなる」という従来の前提が変わりつつある現実があります。

本稿では、今回の動きが何を示しているのかを制度と実務の両面から整理します。

なぜ幹線輸送なのか

今回の受け入れ対象は、個人宅への宅配ではなく、全国の拠点を結ぶ大型トラックによる幹線輸送です。

幹線輸送は夜間や長距離が多く、扱う荷物も重量物が中心で、身体負荷と生活リズムの両面で負担が大きい領域です。若年層の応募は細り、経験者の高齢化も進み、国内採用だけで安定的に人材を確保することが難しくなっています。

幹線輸送と宅配のちがい(人材活用の観点)
項目 幹線輸送(大型トラック) 宅配・地場配送
走行ルート 拠点間の固定ルートが中心。事前に危険箇所を把握しやすい。 日々ルートや配達先が変わりやすく、現場判断の要素が多い。
対面コミュニケーション 拠点スタッフや荷主担当者とのやり取りが中心で、相手がほぼ固定。 一般の受取人との対面が多く、説明・トラブル対応など場面が多様。
日本語の要求レベル 点呼・指示の理解、基本的な報連相ができれば回しやすい。 説明力や瞬発的なコミュニケーションが求められる場面が多い。
採用の難しさ 夜間・長距離・大型という条件が重なり、若年層の確保が難しい。 エリアによって差はあるが、幹線よりは候補者が見つかりやすい場合もある。

一方で、幹線輸送は宅配に比べて業務の標準化がしやすい特性があります。
ルートは固定され、発着地は倉庫や拠点に限られ、関わる相手も現場スタッフ中心です。危険箇所や注意点をあらかじめ教育に落とし込みやすく、外国人材にとって負担の大きい即応的な対面作業が相対的に少ない業務です。

つまり幹線輸送は、「国内採用が難しい領域」と「教育設計で調整しやすい領域」が重なる場所であり、外国人材との相性が良い構造があります。

1年半育て、5年働く。それでも投資に踏み切った背景

特定技能1号の在留期間は、資格取得後から通算で最長5年と定められています。

今回のヤマト運輸のスキームでは、その前段階としてベトナム現地での日本語・運転基礎教育と、日本に来てからの実務研修をあわせて、就労開始までに約1年半の準備期間を要します。

企業側から見れば、採用してすぐに戦力になるのではなく、「1年半かけて育てたあと、最長5年働いてもらう」という前提で投資判断を行うことになります。

ここで押さえておきたいのが、特定技能1号では、同じ業務に従事する日本人と比べて報酬水準や処遇を低く設定することは認められていないという点です。賃金だけでなく、賞与や各種手当、教育機会、福利厚生などについても、国籍を理由とした不利益な取り扱いは制度上許されません。

つまり、ヤマト運輸は「安い労働力」として外国人ドライバーを位置づけているのではなく、日本人ドライバーと同等の待遇を前提に、1年半分の育成コストを先に負担することになります。

それにもかかわらず、同社が500名規模の採用に踏み切った背景には、幹線輸送の人材確保が従来の採用手法だけでは難しくなりつつある現実があります。

大型免許を取得する若手は減少傾向にあり、夜間や長距離といった幹線系のドライバー職は、働き方の志向の変化もあって、以前ほど選ばれにくくなっています。ベテランドライバーの引退が重なる一方、働き方改革の進展により、「長時間働いてカバーする」という従来型の運用も維持しにくくなっています。

こうした要因が重なり、国内採用だけでは幹線を安定的に回しきれない局面が見え始めています。ヤマト運輸は、この現実を前提に、「日本人ドライバーと同等の処遇を用意したうえで、1年半かけて育成し、最長5年にわたって幹線輸送の中核戦力として活躍してもらう」という中長期の設計を、制度として組み込んだと見ることができます。一時的な穴埋めではなく、輸送力の土台をどう再構成していくか──今回の取り組みは、その一端を示していると言えるでしょう。

10年続く計画として捉える必要性

「5年間で500人」という数字だけを見ると短期の施策に見えるかもしれませんが、実態は10年規模の計画です。

1〜5期生の研修・就労期間イメージ(特定技能1号)
2026 2027 2028 2029 2030 2031 2032 2033 2034 2035 2036
1期生 研修 就労
2期生 研修 就労
3期生 研修 就労
4期生 研修 就労
5期生 研修 就労
「ベトナム・日本での研修期間」と「特定技能1号での就労期間」の大まかなイメージです。

2026年にベトナムでの育成が始まり、2027年に1期生が就労します。その後も毎年100名規模の受け入れが続き、教育が順調に進むと2031年頃に全5期生、約500名の外国人ドライバーが就労を開始することになります。各期は特定技能1号で最大5年間の就労期間となるため、順次退職するのは2032〜2036年頃となり、2026年からスタートするこの仕組みは10年規模での大規模プロジェクトとなります。

育成、就労、退職が複数期で並行。常に一定数の戦力が現場で循環し、先輩となる外国人ドライバーが後輩を育成しやすい構造です。これは単年度の採用計画ではなく、輸送力を10年単位で安定させるための設計です。

幹線輸送という止められない業務を、どうやって継続的に支えるのか。その問いに対する1つの回答が、このスキームに表れています。

中小企業にとっても無関係ではない

ヤマト運輸の打ち出したこの仕組みを中小企業が単独で再現することは現実的ではありません。教育、語学、生活支援、安全管理など必要な体制は大規模です。

しかし、「再現できない=関係ない」という話ではありません。

すでに一部の中小運送会社では、外部の支援会社と協力し、数人規模で外国人材の受け入れを始める動きが出ています。倉庫作業や構内の補助業務からスタートし、日本語学習や免許取得を支援しながら、数年単位で路線ドライバーを目指すという形です。

規模は小さくても、「日本人だけで人員計画を組むのは難しいかもしれない」という感覚に向き合い始めている点では、大手と同じ方向を向いています。

大手が計画的に外国人材を採用していくほど、日本人ドライバーの採用市場は相対的に狭くなり、地方の中小ほど影響を早期に受ける可能性があります。

今回の動きは、中小も同じ仕組みを真似すべき、という話ではありません。むしろ、自社の輸送網と人材計画をこれまで以上に中長期で見直す必要性を示すサインだと捉えるほうが自然です。

中小物流がまず整理しておきたい3つの問い
  1. 自社の輸送網のどこで人材確保が特に難しくなっているのか (幹線、中距離、地場、宅配などレイヤーごとに切り分けて見る)
  2. 日本人採用だけで今後数年間の人員計画を組めるのか、それとも別の選択肢が必要になりそうか
  3. 外部の支援会社やパートナーと組みながら、少人数からでも新しい人材確保の枠組みを試せる余地があるか

まとめ

今回、ヤマト運輸の打ち出した500名規模の取り組みは、外国人材の受け入れという枠を超えて、物流業界の担い手を中長期でどう確保するかというテーマに踏み込んだものです。

国内採用だけで維持するのか、一部を外国人材に開くのか、あるいは輸送網そのものを再整理するのか。答えは企業ごとに異なります。

ただ、「日本人を採ればよい」という前提だけでは、これからの物流業界を見通すことは難しくなってきています。今回の動きを危機として捉えるのではなく、自社の輸送網と人材戦略を見直すための1つの参考材料として活用していただければと思います。

編集部のひとこと

幹線輸送を「誰に託すか」を、日本人だけ前提にしないで考える時期にきている

ヤマト運輸の取り組みは、「人が足りないから外国人を入れる」という一時的な対処というより、幹線輸送を将来も維持するための一つの設計案と捉えられます。ベトナムでの準備、日本での実務研修を合わせた約1年半の育成期間と、特定技能1号で最長5年働いてもらうスキームは、「幹線を誰を前提に回すのか」「その前提で10年先まで輸送力を確保できるのか」という問いへの一つの回答です。論点は「外国人を入れるかどうか」そのものよりも、輸送網の設計思想をどこまで現実に合わせて見直すかに移りつつあるように見えます。

その一方で、今回のスキームには、見逃せない前提条件やリスクもあります。特定技能1号は、日本人と同等以上の処遇を求める制度であり、「低コストな労働力」として頼ることはできません。また、特定の在留資格と特定の国の人材に依存する構造は、制度改正や外交関係の変化に左右されやすい面もあります。5年で一区切りが来る働き方のなかで、どこまで高度な判断を任せるのか、技能や安全文化をどのように引き継ぐのか、5年後に国内に残る人材をどう位置づけるのか──。輸送力の「量」だけでなく、現場の質や継続性まで含めて設計しなければ、結果として「入れ替え可能な戦力」として扱ってしまう危うさも抱えています。

中小の物流事業者にとっても、この動きを「規模が違うから関係ない」と片付けるのは難しくなっていきそうです。大手が幹線で外国人材の活用を前提にし始めれば、日本人大型ドライバーの採用市場はさらにタイトになり、その影響は地方や中小から先に表面化します。自社の輸送網のなかで、どこを日本人ドライバーで守り、どこを外部パートナーや外国人材と組んで補うのか。今の人員構成と働き方のままで、5年後・10年後のダイヤを無理なく組めるのか。今回の事例は、そうした問いを先送りせず、自社なりの前提条件と選択肢を具体的に描き直す必要があることを、静かに示しているように思います。

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