物流現場取材シリーズ⑦
ANA Cargo様
物流業界における航空貨物の
有効性と今後の可能性

ANA Cargo
左からANA Cargoの末原常務取締役、弊社の川村

ANAグループの貨物事業を担う株式会社ANA Cargoは、国内外の航空貨物に関連する事業戦略の立案や輸送商品の開発、マーケティング、セールス、空港オペレーションなどを行っています。

今回、国内貨物事業を統括する常務取締役の末原氏にご協力いただき、株式会社ロジテックの代表取締役である川村がモデレーターとなり、物流業界における航空貨物を利用するメリットや、業界が抱える問題を解決するヒントなどについて対談を行いました。その内容をここでご紹介します。

旅客機と貨物専用機を組み合わせた輸送体制

川村:最初に御社の概要についてお教えください。

末原:当社は、ANAグループのホールディングス化に伴って、2014年にANAの貨物部門が事業会社として独立しました。社員数は約1000名で、航空機で貨物を運ぶ運賃収入で生業を立てている会社です。私は、2016年から取締役として国内貨物部門を統括しています。

川村:どのように貨物を運んでいらっしゃるのですか。

末原:使用する航空機は2種類あります。1つは全日本空輸株式会社(ANA)が運航する旅客機で、もう1つは「フレーター」と言われる、窓のない貨物専用機です。旅客機は客室の床下にある貨物室に貨物コンテナを積み、フレーターの場合は床下に加えて床上にも貨物を積める構造になっています。大型のボーイング777の貨物専用機(以下、B777F)ですと、床下だけで約20t、床上が約80tで、合計約100tを積載可能です。 現在所有する貨物専用機は2機のB777Fと9機のB767F、ANAが運航する旅客機とのコンビネーションで安定した輸送サービスを行っています。

あまり知られていない航空貨物の5つのメリット

川村:御社の航空貨物事業には、どのような特徴がありますか。

末原:まず、『機動性』です。空港という“点”と“点”を結ぶビジネスなので、たとえば道路がつながっていなくても、中間地点で地震や台風などの災害が発生しても、点と点さえオープンしてれば輸送することができます

たとえば、2023年夏に、沖縄に台風が居座ってコンビニに商品がなくなった際には、成田からフレーターの臨時便4便で約200tの商品を運びました。

川村:「航空貨物」というと敷居が高く感じてしまって、おそらく物流業界の関係者の皆さんも「航空機で運ぶ」という手段が頭にない方も多いのではないかと思います。私たちがさまざまなご相談を受けるなかで、船舶や鉄道での輸送の話は出ても、航空機の話はほとんど出ません。

末原:おっしゃる通りだと思います。私もさまざまな物流業界の方々とお話をしますが、ほとんどの方が「航空貨物を使う」という概念さえお持ちでないようにお見受けします。

川村:航空貨物のメリットが理解されていないのですね。

末原:残念ですが、それが現実ですね。たとえば、航空貨物には大きく5つのメリットがあります。

1つ目は『高速性』です。たとえば、羽田~福岡間の場合、フライトタイムが約1時間半で、貨物の受託締め切りが出発の1時間前、福岡到着後は基本的に1時間以内でお渡しします。ですから、受託から約3時間半あればお荷物を受け取っていただけます。

このような圧倒的なスピードと国内48空港に1日約800便が運航するネットワークをご利用いただけます。

2つ目は『正確性』で、就航率99%・定時出発率90%という高い運航実績があります。

川村:陸送では交通渋滞などが発生しますが、航空貨物の場合はそのような問題はありますか。

末原:天候などで迂回する必要が生じる場合もありますが、事前にわかったうえで対処しているため、そのような遅延は滅多にありませんね。

川村:トラック運送の場合、バースが混みあっていて予定通りに届かないというケースもあります。そのようなこともないでしょうか。 末原:航空貨物の場合は待ち時間がほとんどなくて、最大でも1時間はかからないです。

末原:そして、3つ目のメリットが『信頼性』です。コンテナ輸送による破損防止や、保冷コンテナによる低温輸送もできます。4つ目は『経済性』で、小ロット対応や片道利用が可能で、経由便利用時の追加運賃なしでご利用いただけます。

川村:どのような料金体系でいらっしゃいますか。

末原:重量が重くなるほど単価が下がっていく仕組みで、日本をいくつかのゾーンに分けて、「ゾーンとゾーンを結ぶといくらかかる」という“ゾーン運賃”で料金設定しています。当社のホームページにあるタリフや運賃シミュレーターで簡単にお調べいただけるようになっています。

川村:なるほど、ゾーン運賃はトラック業界のタリフに近い仕組みですね。

末原:そうですね。トラックとちがうところは、経由便を利用しても追加加算されないところだと思います。これは極端な例えですが、「もし那覇から石垣島に物を運びたいが、海が荒れていて船が出ない」という場合に、那覇から東京経由で石垣島に運んでも同じ値段です。

川村:それはすごいですね! 運賃はおいくらくらいですか。

末原:2kg以下の運賃は、全国一律1000円です。たとえば2kg以下の航空貨物を羽田から福岡まで送っても1000円で済みますが、陸送のチャーター便で羽田空港から東京千代田区辺りに運ぶと数千円かかると思います。これは単純比較はできない例ではありますが、「航空貨物は思っている以上に安い」ということがご理解いただけると思います。

川村:比較すると、よりわかりやすいですね。航空貨物がそんなに安いとは、びっくりしました……。

末原:皆さん、驚かれます(笑)。そして5つ目のメリットは『利便性』です。スマートフォンやパソコンで予約ポータルサイト『ANA FLY CARGO!』から簡単に予約していただけます。経由を指定すれば、直行便がなくても最適な航路を提示する仕組みです。

2024年問題における“選択肢”としての航空貨物

川村:航空貨物にいろいろなメリットがあることを、いままで知りませんでした。トラック業界で起きている2024年問題を解決するための選択肢になりうると思いますが、末原様はどのようにお考えですか。

末原:2024年問題が語られ始めた頃から、私たちも当社の事業がお役に立てることがあると考えてきました。みなさん、輸送路をつなげるためにいろいろな工夫をされていらっしゃると思いますが、まかないきれない部分は航空貨物が担えるところもあると思います。危険物の取り扱いなど、航空貨物ならではの制限はありますが、そこをご理解いただければ気軽に有効活用していただけるはずです。

現在も、航空貨物代理店や陸送業者、生産者、販売店など、さまざまな方々とお話ししてヒントをいただきながら、2024年問題に対応できる準備を進めています。

川村:私がトラック業界の方々とお話しするなかで、トラック業界内だけで解決策が出ないのであれば、隣接業界にヒントが見い出せるのではないかとずっと考えています。その点で、航空貨物の利便性は非常に有効だと感じました。

末原:そうですね、私たちはあくまでもエアポートtoエアポートの輸送ですから、さまざまな陸送の方々とパートナーシップを組む必要があると考えています。そのためにも、「航空貨物は簡単にご利用いただける」ということをおわかりいただけるように私たちも努力を続けています。

川村:中小規模の運送会社さんと2024年問題のお話をしていると、「元請けさんの対応次第でどうなるかわからない」という声をよく聞きます。一方で、元請けさんも「他社さんの動きを静観していて動かない」状態で、なかなか問題の解決策が見つけられないのが現状です。

末原:そういった中小企業の方々にも「この荷物は飛行機に預けちゃおう」と気軽にご活用いただきたいですね。スマートフォンで簡単に予約できますし、料金的にもご利用いただくメリットは大きいと思います。

労働力確保のための、働き方改革の施策と効果

川村:物流業界に限らず、労働力不足・人材不足が大きな問題になっていますが、御社ではどのような取り組みをしていらっしゃいますか。

末原:労働力確保の観点から、働き方改革はとても大きなテーマだと考えています。働いている方々が幸せになれるような勤務形態や施設などの環境を整備していかないと、人材はなかなか定着しないですよね。企業のリスク回避という意味でも、非常に大切だと思っています。実際にオフィスや休憩室、シャワールームなどを綺麗にしたことで、定着率が上がりました。

川村:働き方改革は“働かせ方改革”だと思いますので、やはり経営サイドが「従業員の方々にどう働いてもらうか」を真剣に考えて実践することが大切ですよね。

末原:そうですね。私たちは、2023年4月からフロントラインの勤務形態も変えました。フロントラインは力仕事がないので、女性が半数以上で、20代くらいの若い女性が多いのが特徴です。以前は夜勤がありましたが、採用競争力や定着率を向上させるために廃止しました。やはり、それで定着率は良くなりましたね。

川村:なるほど。最近は国内の労働力不足解消のために海外人材の活用がよく話題に上がりますが、物流業界の経営陣にはまだ抵抗感をお持ちの方も数多くいらっしゃいます。御社では、海外人材に関してどのようにお考えですか。

末原:現在はフロントラインに海外人材の方はいらっしゃいませんが、今後のことを考えると、まずはとにかく業務をシンプルにしなければいけないと考えています。たとえば、以前は貨物が持ち込まれる度にスタッフがその場で段取りを行っていましたが、Web予約システムで簡略化しました。 また、貨物の容積を測るために巻き尺を使っていましたが、自動検尺機の導入を進めています。そうのように業務を誰でもできるようにシンプル化して、さまざまな人材が対応できるように業務や労働環境を変える取り組みを行っています。

陸輸と空輸の融合で広がる物流業界の“可能性”

川村:末原様のお話をお伺いしていて、物流業界の今後のために、航空貨物という選択肢に対する“食わず嫌い”をなくしていく必要があるなと感じました。物流業界の今後について、末原様のお考えをお聞かせください。

末原:私たち航空貨物においては、国内・越境ともに増え続けているEC(Eコマース)への対応が重要になると考えています。全体的に物流のリードタイムがどんどん伸びていくなかで、ECではそれが許されませんので。

川村:「商品が届くのに時間がかかると、購入しない」という利用者の方も多いでしょうね。

末原:ですから、物流業界全体としてのサービスレベルを維持・向上するためにも、ECの運営会社の方に航空貨物を活用していただければと思っています。

川村:ECに関するご相談は、私たちもたくさんいただくようになっています。「アイテム数が多くて人手も必要な一方で、収益は上がる」ということで、どう対応すべきかお悩みの方も多くいらっしゃいます。その問題を解決するために、私たちは管理を自動化するシステムと人材の組み合わせを提案していますが、御社でECを上手に巻き取るためのキーポイントはどのようなものですか。

末原:私たちも、まだ道半ばの状態です。航空貨物代理店が取り扱っていらっしゃるECの貨物は運んでいますが、EC関連業者さんとの直接取引はないんですね。ですから、今後、ECモール運営会社さんや、なんらかの形でECに関わる方々、オーダーマネジメントシステム(OMS)やウェアハウスマネジメントシステム(WMS)などのシステム関連の方々、倉庫会社さんなどとタッグを組むことによって、何か新しいビジネスができるのではないかと考えています。

川村:おっしゃる通り、OMSやDMSに関わるシステム会社さんとの親和性は高そうですね。

末原:そのように、これからも成長するであろうECに対して、「どのようなパートナーと組んで、どのように寄り添いながらECが求めるサービスやスピードについていくか」ということが、当社や物流業界に問われるのだろうと考えています。

川村:空港に貨物を運んだあとの陸送も行うことは考えていらっしゃいますか。

末原:自社で行うことは考えていませんので、陸送のパートナーさんと組むことが重要だと思っています。現在は、ドライバーと荷主をつなぐマッチングプラットフォーム『PickGo』を運営するCBcloudさんと共同で空陸一貫輸送サービスを提供するなどの取り組みを行っています。

川村:業界内にさまざまな企業が混在しているからこそ、「どういう掛け算なら、新しいものができるか」というところに今後の可能性がありますね。

末原:私もそう思います。「モノを運ぶ」という運送の部分に関わる方々以外でも、たとえば荷主の方が運送方法を選択・依頼できるようなプラットフォームやIT技術をお持ちの企業さんなどと組めば、さらに可能性が広がるはずです。これからも新しいIT技術やツールが出てくると思いますので、いろいろなパートナーの方との協同を模索していきたいと考えています。

川村:今回、いままで知らなかった航空貨物の具体的なメリットをお聞きして、いろいろと勉強になりました。特に運賃の安さについては、本当に驚きました(笑)。

末原:私たちは「国内航空貨物のプレゼンスを上げたい」「敷居を高く感じてもらわないようにしたい」と考えていろいろな取り組みをしていますので、航空貨物をむずかしいものだと考えずに、ぜひ困ったときの選択肢の一つとしてご活用いただければうれしいです。 川村:「詳しく知らない」というだけで食わず嫌いをしていると、せっかくのビジネスチャンスを損失してしまって、自分たちの成長を阻害してしまうんだなと痛感しました。選択肢を狭めないことは、物流業界全体にとってもやはり非常に大切ですね。本日はありがとうございました。

プロフィール

株式会社ANA Cargo

本社所在地:東京都港区東新橋1-5-2 汐留シティセンター

設立:2013年 (営業開始:2014年4月)

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