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1975年の設立以来、株式会社相馬運送(以下、相馬運送)はチルド輸送という競争上の優位性を活かし、事業を拡大してきました。今回、越谷営業所の新井所長の協力の下、株式会社ロジテックの代表取締役である川村がモデレーターとなり、2024年に浮上する労働環境の問題点及び戦略的対応に関する対談を実施しました。その内容をここでご紹介します。
チルド輸送からドライ輸送への進化、そして高齢化と人材確保の物流業界課題
川村:まず、御社のこれまでの歩みと現在の業務内容を教えていただけますでしょうか。
新井所長:当社は創業時、埼玉の所沢に車庫を持ち、チルド輸送、つまり冷蔵・冷凍輸送を主力としてきました。お客様から「チルドなら相馬運送だ」と思ってもらえるほど信頼関係を築いてこれたと思います。時は流れ、お客様のニーズも変化してきたことから、ドライ輸送も手掛けるようになりました。現在、越谷営業所では、チルド輸送とドライ輸送の仕事が半々です。
川村:チルド輸送の他に御社の競争優位性を生むユニークなサービスはございますか。
新井所長:岩槻でアーティストのグッズ専門の物流倉庫を500坪のスペースで運営しています。この倉庫では、イベントの通販やライブ会場向け商品の配送、さらには様々な備品の搬入搬出を担当しています。イベントの通販やライブ会場への商品配送は思わぬトラブルが日常茶飯事。スタッフは常に迅速かつ適切な対応が求められ、そのための研修も重視しています。
川村:コロナ禍で経済が厳しいにもかかわらず、冷凍食品のセグメントでは需要の増加がみられました。ポストコロナのビジネス環境下で御社のお仕事状況はいかがでしょうか。
新井所長:コロナが明けてからも冷凍食品の需要はどんどん伸びています。そのため、弊社のように冷凍食品を扱う倉庫と配送車両を両方とも抱えている会社は、それが強みになっています。
川村:順調に業績を伸ばしていらっしゃると思いますが、現在、御社ではどんな課題を感じていますか。
新井所長:当社は、平均年齢が50歳を超えています。高齢化に伴う健康診断のコストやそれにまつわるコンプライアンスの問題が頭を悩ますところです。このまま従業員の高齢化が進むとコストが増えて運送コストが上昇し、お客様に請求する運賃は莫大に上がっていくのかなと感じています。そうならないためにも、若い人材の確保は大きな課題です。
川村:若い人材を確保するためには、労働環境を整備しなければなりません。
新井所長:そのとおりです。物価高騰により従業員の生活コストは上昇しています。そこに直面するのが2024年問題と言われる「年間950時間の壁」。労働基準監督署は、「過労死ラインの80時間を超えるな」と言うわけです。それだと、ドライバーの年収が落ちますので何とかしなければなりません。
運賃値上げの背景にある、物流業界での報酬改善と人材確保の現実
川村:今、2024年問題の話が出ました。もう少し深堀したいのですが、労働者保護のあり方がなんだかおかしい方向に進んでいると思いませんか。
新井所長:私も同感です。
川村:そうですよね。例えば、働きたいと言っている人に「働き過ぎると健康に害がある」と言ってるような話だと思っていて、高校球児に球数制限しているみたいです。まだ投げられるのに交代。それをやったら、モチベーションは下がります。
そこで、新井所長にお聞きしたいのですが、御社では、社員のモチベーションをどのように維持していますか。
新井所長:例えば、定期便のドライバーは、毎朝決まった時間に特定の場所から一定のルートを通って走行します。日々の道路状況を見極めながら時間通りにお客様のところに寄ること、ミスをせずに安全運転を続けることが目標です。無事に最後の配達先を終えて車庫に帰ると、上司や同僚からの「お疲れ様」という言葉をもらい、ドライバーは誇りを感じます。
川村:その「お疲れ様」の言葉でモチベーションを維持できるのは理解できますが、頑張るだけでは、生計を立てるのは難しいものですよね。報酬面での不満はどうでしょう。特に若い人は、他の業界への転職も視野に入れて考えているかもしれません。そうした中、どうやって彼らを私たちの業界に留めておくのでしょうか。
新井所長:たしかに、中長期的に重要なことは収入の向上だと感じています。ただ、それだけで従業員を引き留めることができるとは思いません。手取りが少ない中での長時間労働は、他の業界と比べても厳しいです。この現状が続くと、他の業界から転職を考える人が私たちの業界に魅力を感じられないのではないかと懸念しています。やはり、休日をしっかり確保できるようにしてあげたいですね。
川村:でも、言うのは簡単ですが、休日を増やして給料を上げるなんてことは、実際に可能なんでしょうか。
新井所長:だからこそ、運賃の値上げは必要です。適切な運賃を設定し、そこから生み出した利益を人件費に回していく必要があります。
川村:運賃の値上げは、問題提起のポイントとしてすごく重要だと私も思っています。でも、各社は、血のにじむ努力で利益を吐き出すだけ吐き出して、人を抱え込むってことに一生懸命やっていらっしゃると思います。まだ、利益を削るって可能でしょうか。
新井所長:確かに今の利益だけでは難しいので、ガソリン代や高速代の上昇を考慮に入れ、適切な値上げ交渉を進める必要があります。そうした、新たに利益を生み出す工夫は必要ですね。詳細はお話できませんが、弊社でも様々なルートで交渉を始めております。
3年前からピュアホワイトな労働環境を目指してIT化を推進
川村:ここまで、2024年問題に端を発する課題に対して一般的な議論を進めてまいりました。ここからは、御社が採用している戦略や取り組みを教えていただけますか。
新井所長:当社は早くからこの問題に取り組み、2020年から新しい勤怠システムを導入しました。これで従業員は携帯から出勤日数や残業時間が確認できます。2024年の新規定にもすでに対応しており、給与体制の変更を伴う残業の短縮にも取り組んでいます。
川村:給与体制の変更に、社員からはどんな反応がありましたか。
新井所長:新体制に移行することで給料が下がることを懸念する声もあり、大変な抵抗にもあいました。「他の会社はまだ新しい制度に移行していない中、なぜ自社だけが変わらなければならないのか」という声も上がり、退社した者もおりました。そこで、役員を中心に全従業員へヒアリングを行い、給与の変動について丁寧に説明しました。最終的に給与は減ることにはなりましたが、時給そのものは下げていません。このギャップは、会社の内部留保で補いました。
川村:ベースアップをしたということですね。どれくらい上げたのでしょうか。
新井所長:実際には、越谷営業所の社員はコロナ禍でも全員の昇給が実施され、6か月前の査定でも全員が昇給しました。
川村:その結果は驚きですね。3年前、多くの経営者が未来の変数として法改正を捉えていました。そんな中、御社はプロアクティブに改革を進めたわけです。
新井所長:社長が「ピュアホワイトな労働環境の会社を目指そう」と言ってくれたので、現実を受け入れて改革を推進することができました。
川村:営業の観点からも、良好な労働環境は大きな強みになると感じます。ブラックとホワイトな運送会社があれば、多くの荷主はホワイト企業を選ぶはずです。安全な労働環境は事故リスクも低減させると考えられるからです。御社のように透明性の高いピュアホワイトな労働環境の会社は、今後さらに高く評価されるでしょう。
業界の未来を歩む二つの企業が共有する価値観と未来へのビジョン
川村:本日のディスカッションを通じて感じたことは、経営判断における「損得」や「勝ち負け」、そして「白黒」のような二項対立の存在です。2020年に御社は、戦略的なビジョンと実行力を持った経営陣の下で大きな決断をされました。新井所長は、どのような意気込みで今後の課題に向き合っていかれるおつもりですか。
新井所長:重要なことは、従業員の生活を守るという方向性です。私たち管理職としては、そのためにどう動けばよいのか、また経営陣からはどんな行動を望まれているのかということが問われます。私自身、経営層と現場の間、つまり中間の位置にいます。私の使命は、この企業が5年後、10年後も続くサポートをすること。本日は、それを再認識いたしました。
川村:やはり、現場のリアルを知る方が、先見の明を持ち他社がやらないことでも必要と判断すれば果敢に挑む姿勢を持つことは重要です。そのような企業こそが、業界のリーダーとして存在すべきだと強く感じました。
共通のビジョンを持つ企業として、ロジテックと相馬運送が力を合わせて物流業界の革新を共に推進させていきたい、そんな思いも芽生えました。本日は、価値観を共有できる会社の方とお話ができ、非常に有意義でした。ありがとうございました。
プロフィール
株式会社相馬輸送
住所:埼玉県さいたま市中央区5丁目17番1-3005号
設立:1975年
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