物流現場取材シリーズ【26】物流コンサル山田氏流「失敗しないコンサル見極め術」

課題の山積する物流業界で、頼りになるコンサルタント。どんなコンサルタントを選ぶかは企業の命運を分ける重要な判断です。

今回は、物流コンサルタントとして数多くの企業支援を手がけてきた山田経営コンサルティング事務所 代表の山田健さま(以下、敬称略)との対談記事第3弾。「こんなコンサルは危険」というテーマで、ご自身の失敗と成功の実体験をお話しいただきました。現場を知り尽くしたプロならではの貴重な見極めポイントについて、率直にお話をうかがいました。モデレーターを務めるのは、株式会社ロジテック代表取締役の川村です。

山田さまとの対談シリーズその他の記事はこちら

第1弾:物流現場取材シリーズ【22】変革の時、物流業界の未来を拓く羅針盤(山田経営コンサルティング事務所様)

第2弾:物流現場取材シリーズ【25】数字で変わる業界構造改革の実現ー物流コンサル山田氏

コンサル依頼時には「準備しすぎない」ことが大切

川村: 今回は「物流コンサルタントの見極め方」について、山田さんの実体験をお聞きしたいと思います。まず率直にお聞きしますが、コンサルタントの良し悪しを見極めるポイントはあるのでしょうか?

山田:私自身、成功よりも失敗の方が多く、そこから学ぶことも結構多かったので、今日は偉そうに「こんなのはダメだ」と言うつもりは全然ありません。むしろ私自身がこういうことをやって失敗した、という反省を込めてお話しさせていただければと思います。

川村: 失敗された経験が、逆に「こういうコンサルタントのやり方はいけない」ということを教えてくれるわけですね。

山田: そうですね。

川村: では具体的に、どのような点に注意すべきか、コンサルに依頼するときにはどんな準備が必要か、教えていただけますか?

山田: 多くの方は、ちゃんと課題や問題点を整理してから相談しないと効果的じゃないと思われていると思います。

川村: はい、そう思います。

山田:ところが、私が今までやってきた経験上、最初から課題をきちんと整理している必要は全くないと思います。むしろ何が課題か分からない状態の方が多いんです。コンサルというのはその段階から入って、事実を整理して「ひょっとしてこれが課題じゃないですか?」というのが本当の役割だと、最近つくづく思うようになったんですね。

コンサル選びのポイント① 伴走タイプを選べ

川村: それは意外でした。事前の準備はあまり必要ないということですか?

山田: そういった準備や前提条件が間違っているケースが多いんです。相談される際には準備をされている方が多いんですが、もう少し真っさらな状態から見させていただいて、本当の原因をはっきりさせていかないと、本当に正しい解決策が出てこないのです。

川村: なるほど。

山田: コンサルタントというのは企業のお医者さんなのです。私たちがお医者さんに行くと、最初から原因を言いますか?

川村:ああ、それはありますね!私、風邪をひいて病院で「風邪っぽくて」って言ったら、「君が決めるな」って言われたことがあります。

山田: そう、それです(笑)。ちゃんとお医者さんが検査したら、実はコロナだったとか、別の原因があることもあるじゃないですか。その段階で、あまり原因をはっきりさせる必要はない。むしろ混沌とした状況を整理していくのがコンサルタントの役割だと思います。逆に、そこさえ整理できると、解決策ははっきり見えてくるんです。

川村: でも相談する側としては、タダじゃないので、ある程度準備してからやらないと時間もお金もかかってしまうと考えてしまいます。

山田: 確かにそこでは工数がかかります。でもその工数が一番大事だと思います。実際に、私もそれで失敗した経験があるんですよ。急かされて、実態把握をある程度にして次の段階に進めたら、想定と実態が違っていたんです。どんなに急かされても、もっと時間をかけて実態把握すれば良かったと後悔しました。

川村: では、良いコンサルタントのポイントとしては、事前の整理を丸投げではなく、伴走していただける方がいいということですか。

山田: そうです。やっぱり伴走が基本です。昔は、レポートをつくってポンと渡すというのがコンサルのやり方でしたけど、今は、それではいけないなと思っています。伴走型でないと、そもそも定着しませんから。

コンサル選びのポイント②プレコンサル期間を設けるか

川村: 他にも、コンサル選びのポイントはありますか。

山田: あります。事前に大まかな数字を見ないと失敗すると思います。私自身の失敗例があります。大手の化学品メーカーさんから「コストを10%下げろ」という依頼を受けたときのことです。現場を事前に見ることも、大まかな数字を押さえることもしないで契約してしまったのです。実際にコンサルティングに入って現場を見て、数字を見たら、化学品メーカーだから物流の4割が液体を運ぶタンクローリーとタンカー。業界の人ならわかるとおもいますが、ここはどういじってもコストは下げられませんよ。ここは手の付けようがない。

川村: それは確かに難しいですね。

山田: 残りの6割でコストを下げなくてはならないんですが、化学会社ってつくっているものがものすごく幅広いんです。その会社は物流部を初めてつくって、それまで事業部ごとにバラバラにあった物流を共同配送にすればコストが落ちると考えていた。これは一般的に考えられそうなことですよね。

川村: はい、そうですね。

山田: ところが実際に見たら、共通項がないんです。荷姿はバラバラ、製品も全然違う、納品先も全部違う。共同配送の余地がほとんどないんです。

川村: もし、事前にそういう取り扱い商材の特性が分かっていれば、受け方は全然違ったでしょうね。

山田: その通りです。だからそれ以来、いわゆるプレコンサル的なことを、無償でもやるようにしています。それをやらないとリスクが高すぎる。

川村: 伴走の手前の助走の部分ということですね。

山田: はい。現場を一つでも二つでも見て、大まかなデータを見て、きちんと仮説を立てて企画書を作る。「多分こんな解決策になりますね」ということから始めないといけません。

コンサル選びのポイント③ 数字を見ないコンサルは危険

川村: 他に気をつけるべきポイントはありますか?

山田: 数字を見ないコンサルはダメですね。これは強調してもしきれないくらい大事です。特に物流に関しては。

川村: 数字を見ないコンサルタントもいるんですか?

山田: 多いですよ。数字を見ないで理念で突っ走ってしまう。物流って現場じゃないですか。現場の結果は結局、数字ですよね。そこに踏み込まない限り、本当の答えは出てこない。逆に、数字で解決策や効果を示せたときは、成功の確率が非常に高くなります。

成功事例:ある重工業品メーカーさんの事例

川村: 具体的な成功例を教えていただけますか?

山田: 大手の重工業品メーカーさんの例があります。部品の管理を各営業所に分散して持っていたんです。当然コストがかかりますが、この部品は緊急性があるため各営業所にバラバラに持っていました。ただ、すべての部品をそこに置くわけにいかないから、非常に複雑な物流になっていました。工場が一箇所あって、そこからの補充と、足りないものを直送するという、非常に混沌とした物流でコストがかかっていたんです。

川村: それを一本化する提案をされたんですか?

山田: はい。「これ全部工場から直送できますよ」と提案しました。今の宅配便は翌日着くじゃないですか。それなら間に合うと。データを全部いただいて配送のシミュレーションをして、直送したらコストが10%くらい減りますということをはっきりと示してご提案したんです。

川村: その結果はいかがでしたか?

山田: トラディショナルな大企業だし、提案してもすぐには採用されないだろうと思っていました。ところが、その提案した相手の事業部長さんが根拠を聞いて、こちらが論理的に説明したら、もうその場で即決してくれたんです。

川村: それは驚きですね。

山田: こちらが驚きました。「すぐやりましょう」と。やっぱりメーカーさんの論理というか、数字できちんと答えが出たものに関しては、決断が早いです。

川村: とはいえ、数字の見方が浅くてもダメですよね。そこでのポイントは何だったんでしょうか?

山田: シミュレーションをしてあげることです。宅配便で今の配送を全部やった場合にコストがどうなるかという試算がないとダメです。実際に宅配会社から見積もりをもらってシミュレーションすれば答えが出る。現状かかっている費用と直送した場合の費用の違いをはっきり示すことが大事でした。

川村: 比較対象を示していただけると、とても分かりやすいですね。

山田: そうです。そういうメニューを示せたことが成功の要因でした。でもそのベースはやっぱり数字があったからなんです。これとは逆に、シミュレーションした結果、集中しているものを分散させた方がコストが下がったという例もあります。

コンサル選びのポイント④ 在庫問題から入るコンサルは要注意

川村: 他に「こういうのは危険」という例はありますか?

山田: メーカーさんや卸売さんにコンサルが入るとき、物流の問題って突き詰めていくと在庫の問題に行きがちなんです。在庫を持っているから倉庫が満杯になるとか、倉庫が足りないから増やさなきゃいけない。倉庫が増えると余計な動きが出てコストが上がる。これはその通りなんです。だから「在庫をちゃんと適正化しましょう」「減らしましょう」というのは本質的な問題で間違いないんですが、そこから入っちゃうと先に進まなくなるんです。

川村: それはなぜでしょうか?

山田: お医者さんの話に戻ると、風邪をひいて医者に行ったとき、まず求めているのは熱を下げてほしい、咳を止めてほしいということですよね。仕事をしたいから。そこで「そもそも体質が悪い。日頃の食生活から見直さなきゃダメ」という治療に入るようなものです。でもそれは求めていることじゃない。

川村: 確かにそうですね。まずは熱を下げて欲しい。

山田: 物流のコンサルティングは、どちらかというと対症療法的に行かざるを得ない部分があります。物流を発生させている根本的な原因は他にあります。つくり方とか売り方とか、それが結果的に在庫に出てくるわけですから。

失敗例:高炉を止めろと言ったコンサル

川村: 在庫から入って失敗した例はありますか?

山田: あります。私が駆け出しの頃、私ともう一人のコンサルとペアで鉄のメーカーのコンサルに入ったことがあります。当然コストを落としたかったわけですが、鉄は高炉で溶かすという工程があります。在庫を調べると、非常に在庫が多かった。私とペアを組んだコンサルは、物流がよく分かっていなくて在庫の問題からしか入れなかったんですよね。鉄鋼メーカーに行って「売れ行きに合わせてつくれ」と言ったんです。

川村: 今日言って明日でも鉄がつくれるわけではないので、それは無茶な話ですね。

山田: 高炉を止めろという話です。高炉を止めるなんて、何十億、何百億かかるかという世界じゃないですか。さすがにこれはまずいと思って、軌道修正をしました。できた鉄の運び方や在庫拠点の持ち方を変えることで、コストをコントロールできる。つくり方は今のままで変えずに、という提案に持っていきました。

川村: 在庫の話は本質的だけど、そこから入ると現実的じゃないということですね。

山田: 消費財みたいに、八百屋さんみたいに、必要なときだけ必要な分だけ仕入れられるという前提で考えてしまうと、大きな間違いになります。

川村: なるほど。

山田: 海外生産している家具メーカーのコンサルティングもやりましたが、やっぱり在庫問題がありました。海外でつくったものを大量に持ってきて、在庫が増えてしまう。でも海外生産の場合はリードタイムが3ヶ月くらいかかるんです。これを売れ行きに合わせてコントロールするなんて、とてもできません。

川村: 確かにコントロールできない部分ですね。

山田: ユニクロのように自分の子会社でつくっているならコントロールできますが、一般的には委託しているわけです。工場の都合で空いているときにつくってもらうので、どうしても在庫は増えざるを得ない。そういう場合に在庫の問題に踏み込んでも答えが出ないですよね。持ってきた在庫を前提に、どうしたら物流を効率化できるかというふうに考えないと、求めている解決策にならないのです。

コンサルから在庫に言及された場合の考え方

川村: 在庫から入るコンサルは物流を理解していないということですか?

山田: 大体そうですね。踏み込めないから、どうしても在庫の話に入ってしまう。

川村: それに気づいた場合はどうしたらいいですか?

山田: 「物流の問題はどうするのですか?」と確認した方がいいですね。ただ、在庫をコントロールするための本当の解決策はどこにありますか?と聞いても、多分示せないと思います。つくる側のいろんな事情、輸送の問題、販売の問題に絡むわけですから。営業が欠品を絶対許さないとか、必要以上に在庫を抱えざるを得ないとか、そういった問題を全部解決してくれるなら別ですが。

川村: 部分最適になってしまうということですね。

山田: 前後関係まで突っ込んでちゃんとした解決策を示せるかということです。多分示せないと思います。それほど在庫は難しい問題なのです。

川村: これまでのお話をまとめると、まず、こちらの準備のしすぎは間違いですよね。それから、数字できちんと示していただける方で、そのためのキャッチボールの時間をたくさんつくれるプレコンサルティング期間を設けていただけるような方がいい。そして最後に、本質的な問題である在庫の話から入れば、一旦答えにはなっているけれど、本当にクライアントが求める答えにはなっていないということを理解している方ですね。

山田: そうです。在庫の問題を結論にすると、ご満足いただけないですね。

川村: 困ったら山田さんに聞け、ということですね(笑)!

山田: いやいや(笑)。私も反省することばかりです。

物流コンサル業界の現状

川村: 物流コンサルの数やクオリティは上がってきているんでしょうか?

山田: そこは言いづらいですね。

川村: 私としては、他の業界と比較したときに、物流問題が取り上げられるようになって、物流にライトは当たり始めたとは思いますが、深く掘り下げられているテーマかというと、そうではないように思います。まだまだこれから改善・成長・進化が行われる業界だと思います。

山田: 本当に、そう思います。

川村: だからこそ、ここまで伺ってきたようなポイントを押さえることが重要ということですね。

山田: そうですね。間違いなく言えることは、あまり調べずに「コストがこれだけ減りますよ」とか言い切るようなコンサルは危ないと思いますね。それほど、やってみなきゃわからない部分が多いんです。だから、最初からそんなことは言えないはずです。

川村: それが、物流を深く理解されている方のご意見なんですね。貴重なお話をありがとうございました。

山田: ありがとうございました。

🔽山田さまとの「物流コンサル見極め術」の対談は、以下のURLから動画でもご覧いただけます!

【物流レジェンドシリーズ】山田先生に聞く!こんなコンサルってどうなの?
https://youtu.be/GoCRZNkMOOw?si=t1ivCRELRUuQbtwt

企業プロフィール

会社名:山田経営コンサルティング事務所

本社所在地:東京都中央区銀座6-6-1 銀座風月堂ビル5F

設立:2014年6月

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